内閣人事局へ2025年度基本要求を提出-11/26
公務員連絡会は11月26日、内閣人事局に対して「2025年度賃金・労働条件に関わる基本要求」(資料1参照)を提出した。公務員連絡会からは幹事クラス交渉委員が交渉に臨み、誠意ある回答を示すよう求めた。交渉経過は次のとおり。
内閣人事局からは砂山内閣審議官ほかが対応した。要求提出にあたり、高柳副事務局長は、具体的な要求項目のポイントについて次のとおり説明した。
○賃金・労働条件の確保について
1.本年は、解散・総選挙の影響もあり、勧告に基づく給与法その他の法案の閣議決定も行われていない段階であるが、政府におかれては、昨年の臨時国会における経緯なども踏まえて、万全の態勢で対応していただきたい。私どもも、国会情勢を見ながら、必要な努力を傾注する所存であることを申し上げておきたい。
2.公務における優秀な人材の確保と、そして昨今目立ってきている離職防止の課題は、今日の人事行政上の最大の課題であると考えている。物価高騰のもと今なお実質賃金が低下し続けている中で、人材の確保という点からも、政府として、引き続き職員の賃金水準の引上げに向け、最大限努力するよう求めておきたい。
○労働時間、休暇及び休業、人員確保等について
1.昨年も同様の報告をさせていただいたが、(2)に記載の通り、最新の私どもの調査でも、超過勤務手当が「全額支給されていない」と回答した組合員の割合が依然として減少していない実態がある。改めて、超過勤務手当の全額支給を徹底するようお願いしたい。
2.(5)に記載の、本年4月より実施されている「11時間を目安とする勤務間インターバルの確保」について、人事院において調査・分析が行われているものと承知しているが、政府としても、各職場で適切に実施されるよう、各府省に対して指導を行っていただきたい。
3.(7)について、本年6月28日の「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」の一部変更については、この間あらゆる場で、実態に基づいた見直し要請を行ってきた立場として一定の評価をさせていただきたい。しかし、各府省から、長時間労働の要因として「恒常的な人員不足」がなおも指摘されていること、本年も能登半島地震や夏の豪雨による大規模災害などが起きており、それらに対する行政需要が引き続き高まっていること、このようなことを踏まえ、行政組織担当の分野であるとは承知しているが、適切な人員配置を講じるよう改めて要望しておきたい。また、ワーク・ライフ・バランスの推進のための定員や超過勤務の縮減のための定員についても継続し、極力拡大するようお願いしたい。
〇女性参画の推進及び多様性の確保について
女性職員の登用について、各役職段階における女性割合は増加しているものの、今なお「第5次基本計画」に定める成果目標を下回っており、一層の女性の採用・登用と職域拡大を図っていただきたい。
〇福利厚生施策等について
(3)に記載したメンタルヘルスの問題や、(6)に記載したハラスメント、特にパワハラの問題について、人事院の調査などによると、いずれも近年悪化が目立っているところ。内人局としても、「管理監督者のためのメンタルヘルスセミナー」などを行っていることは承知しているが、先ほど述べた人材の確保と離職の防止といった観点でも、ハラスメントのない職場、ストレスのない職場づくりは極めて重要であると考えられるので、実態に基づき、より一層有効な対策を着実に推進するよう求めておきたい。
〇人事評価制度について
新たな評価区分のもとでの人事評価制度について、人事院とも連携し、実態を検証した上で、課題があれば、必要に応じて指導、改善措置等を講じるよう求めておきたい。
〇定年の段階的引上げに伴う各種施策について
1.先ほどの人員確保の課題とも関連するが、定員管理については、定年引上げの完成時に向けて、引き続き柔軟な対応をお願いしておきたい。
2.再任用職員については、当人の希望と実際の任用とのミスマッチなどの問題があると認識している。また、本年の勧告に基づく措置によって手当関連は大きく改善されるが、一時金など処遇に関する不満の声は少なくない。いずれにしても、再任用希望者について、フルタイムを基本に、職員の希望に応じた再任用を実現するよう努力していただきたい。
〇非常勤職員制度等について
1.本年6月に人事院が決定した「期間業務職員の再採用における公募3年要件の見直し」について、それがより当該の職員の希望に沿うものとして機能するのか、雇用の安定に繋がるものなのか、難しい面があるものと認識している。人事院は、「勤務実績に基づく能力実証」は不変であることを強調しているが、内人局としては、2017年に各府省に対して「非常勤職員の勤務実績把握方法の例について」を示した経緯があるものと承知している。各府省が、あまりにも統一性のない対応を行うこと等のないよう、これを再度示すなど、適切な制度運用を促すことが必要ではないか。
2.(5)について、この間一貫して求めていることであるが、期間業務職員以外の職員も含めた非常勤職員制度の全体について、人事院とも連携し、実態を検証した上で、制度の抜本的改善も視野に改善を図るべきと考える。
〇障害者雇用について
本年4月以降、法定雇用率が段階的に引き上げられている途上にあるが、職場環境の改善など、当該職員が無理なくかつ安定的に働くことができるよう、役割を適切に果たすよう求めておきたい。
〇公務員制度改革について
労働基本権問題について、本年のILO総会でも取り上げられ、基準適用委員会において、新たな議長集約も示されたところである。自律的労使関係の確立に向け、政府の一層の努力を求めておきたい。
続けて、交渉委員から、「近年の『公務離れ』の原因について、長時間労働や転居を伴う頻繁な人事異動が一因と考えられる。政府全体でなぜ若者が公務を志望しなくなったのか背景を検証し、改善策を講じる必要がある」「独立行政法人の給与改定については、財源確保が最大の課題である。政府としても問題意識を持ち、改善に向けた検討を求める」「女性登用には長時間労働や頻繁な異動が障壁となり、特に専門官や課長補佐級以上で課題が顕著である。政府には目標設定だけでなく、原因解消に向けた取組を求める」「女性職員が多い職場では、育児休業や短時間勤務の利用増加により、業務負担が一部の職員に集中している。ワーク・ライフ・バランス推進枠を活用し、負担の偏りを軽減する取組を進めるよう求める」「指導ができる女性職員が少ない現状を踏まえ、採用だけでなく登用の推進が求められる。女性職員特有の相談や業務指導の必要性も指摘されており、引き続き対応をお願いする」「現行の人員構成では自然災害等の緊急時に対応できない状況がある。デジタル化は進んでいるものの、依然として職員の判断を要する業務も多い。厳しい財政状況は理解するが、必要な定員の確保をお願いしたい」等、多岐にわたる発言があった。
これらに対して、砂山内閣審議官は「皆様方の要求の趣旨は、しっかりと承った。長時間労働の是正やテレワークの推進などは引き続き取り組んでいるところであり、本日いただいたお話も含めて引き続き取組を進めてまいりたい。いずれにせよ、本日いただいた要求事項については、検討させていただいた上で、しかるべき時期に回答させていただく」と回答した。
最後に、高柳副事務局長は「本日段階のご回答として承った。それでは、12月23日の回答交渉に向けて、内人局部内での検討をお願いしておきたい。本日は以上をもって終了したい」と要請し、この日の交渉を終えた。
資料1.内閣人事局への基本要求書
2024年11月26日
内閣総理大臣
石 破 茂 様
公務員労働組合連絡会
議 長 渡 邉 由 一
(公 印 省 略)
2025年度賃金・労働条件に関わる基本要求について
貴職におかれましては、公務員人事行政にご尽力されていることに敬意を表します。
さて、物価高騰の長期化や2年以上続く実質賃金の前年比マイナスの影響により、国民生活は依然として圧迫されており、非常に深刻な状況にあります。
こうした状況の中、公務・公共サービスの現場では、大規模自然災害等への対応をはじめとする様々な課題に直面しながらも、職員は高い使命感と責任をもって日々奮闘しています。しかし一方で、職場ではテレワークの推進や働き方改革が進められているにもかかわらず、長時間労働の蔓延や過度な業務負担など、厳しい勤務環境は依然として改善が見られません。こうした課題に対応するためには、職員が安心して職務に専念できるよう、十分な要員の確保や適切な労働条件の整備が不可欠です。
貴職におかれましては、国家公務員全体の使用者としてこうした点を十分に認識され、下記の基本要求事項の実現に向けて最大限努力されるよう強く申し入れます。
記
1.賃金・労働条件の確保について
公共サービス基本法を踏まえ、以下の通りとすること。
(1) 良質な公務・公共サービスの適正かつ確実な実施に向け、公務員の賃金・労働条件について国民的な理解を得られるよう環境整備をはかること。
(2) 公務における人材の確保を重視し、職務の責任や仕事の内容に相応しい社会的に公正な月例給与水準を確保すること。また、物価高騰や2年以上に亘り実質賃金の前年比マイナスが続いていることを踏まえ、全ての職員の賃金水準を引き上げ、職員の豊かな生活を保障すること。
(3) 独立行政法人等を含めた公務員給与の改定に必要な財源を確保すること。
2.労働時間、休暇及び休業、人員確保等について
職員ひとりひとりのワーク・ライフ・バランスを実現し、感染症対応を含む大規模災害にも対応できるサービス提供体制を構築するため、以下を推進すること。
(1) 公務における年間総労働時間1,800時間体制の確立と、ライフステージに応じた柔軟な休暇・休業制度の改善・拡充などを実現すること。
(2) 昨年公務員連絡会が実施した調査からも、超過勤務手当が「全額支給されていない」と回答した組合員の割合が依然として減少していないことから(2021年→14.2%、2022年→15.5%、2023年→16.2%)、超過勤務手当の全額支給を徹底すること。
(3) 勤務時間管理システムの各府省における導入の状況および運用の実態を公務員連絡会に対し情報提供するとともに、それを踏まえた実効性ある超勤縮減策を各府省に求めること。また、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づく人事管理システムについても、適宜進捗状況等を情報提供すること。
(4) テレワークを始めとする「柔軟な働き方」の推進に当たっては、国家公務員の職場環境や職務内容が極めて多岐に亘っていることを踏まえ、機械的な数値目標や無理な計画を課すことなく、柔軟に対応すること。
(5) 本年4月より実施されている「11時間を目安とする勤務間インターバルの確保」について、各職場で適切に実施されるよう、各府省に対して指導を行うこと。
(6) 全職員の仕事と生活の両立が図られるよう、フレックスタイム制、育児休業、育児短時間勤務、介護休暇、出生サポート休暇等、各種両立支援制度を利活用できる職場環境の整備を一層推進すること。
(7) 人事院の調査によると長時間労働の要因として「恒常的な人員不足」が指摘されていることから、大規模自然災害等の緊急事態にも対応できる適切な人員配置を講じること。また、ワーク・ライフ・バランスの推進のための定員や超過勤務の縮減のための定員についても継続すること。
3.女性参画の推進及び多様性の確保について
(1) 女性職員の登用について、各役職段階における女性割合がいずれの役職段階においても増加しているものの、「第5次男女共同参画基本計画」(2020年)に定める成果目標を下回っていることから、一層の女性の採用・登用と職域拡大をはかること。
(2) 次世代育成支援対策推進法、女性活躍推進法及び「国家公務員の女性活躍とワーク・ライフ・バランス推進のための取組指針」等に基づく各府省の「行動計画」「取組計画」等の着実な実施に向け支援していくこと。
(3) 昨年6月に公布・施行されたLGBT理解増進法を踏まえ、各府省当局と連携して、職場における性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解の増進に努めること。
4.福利厚生施策等について
(1) 公務員の福利厚生を勤務条件の重要事項と位置付け、職員のニーズ及び民間の福利厚生の正確な実態把握に基づき、その抜本的な改善・充実をはかること。
(2) 「国家公務員健康増進等基本計画」等に基づき、職員の心身の健康の保持増進の推進をはかるため、政府全体としての実施体制を確立し、使用者としての責任を明確にして積極的に対応すること。
(3) 心の健康づくりについては、人事院の調査等によれば、精神疾患による長期病休者数は大幅に増加し、深刻化していることから、引き続きストレス原因の追究と管理職員の意識改革に努めることとし、カウンセリングや「試し出勤」など復職支援施策を着実に実施すること。
(4) 2025年度の予算編成に当たっては、健康診断の充実など、職員の福利厚生施策の改善に必要な予算を確保すること。
(5) 福利厚生の重要施策であるレクリエーションについて、事業が休止されている実態を重く受け止め、その理念の再構築と予算確保や事業の復活に努めること。
(6) ハラスメントの防止について、一層有効な対策を着実に推進すること。特にパワー・ハラスメントについては、人事院が実施した苦情相談に関する調査によると、相談内容の3割以上を占める等増加傾向にあることから、防止対策については、人事院規則10-16に基づき政府全体で厳格に取り組むこと。
5.人事評価制度について
2022年10月より実施された新たな評価区分のもとでの人事評価制度について、人事院とも連携し、評価制度の実施状況及び評価結果の活用状況を検証すること。その上で、課題があれば、必要に応じて指導、改善措置等を講じること。
6.定年の段階的引上げに伴う各種施策について
(1) 高齢職員の増加に伴い、中堅・若手職員の昇格が抑制されることを避けるため、各府省における実態を踏まえつつ、来年度についても定員管理に関して柔軟な措置を講じること。
(2) 再任用を希望する職員について、2013年の閣議決定を踏まえ、フルタイムを基本とし、職員の希望に応じた再任用を実現すること。
7.非常勤職員制度等について
(1) 「期間業務職員の再採用における公募3年要件の見直し」が行われたことを踏まえ、各府省における適切な制度運用と非常勤職員の雇用安定がはかられるよう周知徹底すること。
(2) 常勤職員の給与改定が行われた場合の非常勤職員の給与改定については、改定時期など常勤職員と同様とするよう、引き続き各府省を指導すること。
(3) 非常勤職員の3/4を期間業務職員以外の職員が占めている一方で、その実態が不明であるため、これらの職員の処遇について調査・把握すること。
(4) 「非常勤職員の適切な任用について(2022年7月27日/人事管理官会議幹事会における内閣人事局参事官発言要旨)」を踏まえ、各府省における、期間業務職員及び非常勤職員として採用されている障害者の採用実態を検証するとともに、課題があれば、必要な改善指導等を行うこと。
(5) 非常勤職員制度の抜本的改善をめざし、公務員連絡会が参加する検討の場を設置し、政府全体として解決に向けた取組を推進すること。当面、国家公務員の非常勤職員制度について、法律上明確に位置付け、勤務条件等について、同一労働同一賃金及び常勤職員との均等待遇の原則に基づいて、関係法令、規則を適用すること。
8.障害者雇用について
本年4月以降、法定雇用率が段階的に引き上げられていくことを踏まえ、各府省に対し、法定雇用率の達成を遵守するよう働きかけるとともに、障害を持つ職員が無理なくかつ安定的に働くことができるよう、役割を適切に果たすこと。
9.公務員制度改革について
国家公務員制度改革基本法第12条に基づく自律的労使関係制度の確立について、国家公務員法等改正法案の附帯決議(2014年3月12日衆議院内閣委員会及び同年4月10日参議院内閣委員会)や、この間のILOからの指摘に基づき、公務員連絡会との合意により実現すること。
10.その他
国が民間事業者等に業務委託や入札等により事務事業の実施を委ねる場合においては、公正労働基準の遵守を必要条件とすること。
以上