人事院と民調作業方針をめぐって交渉
人事院は、本年の民間給与実態調査に関する方針が固まったとして、賃金・労働条件専門委員会にその骨格を示した。
冒頭、増尾職員団体審議官付参事官は、以下の通り基本的な骨格を明らかにした。
1.調査期間
4月25日(月)から開始し、6月17日(金)までの54日間
企業担当者にできる限り調査にご協力頂けるよう、前年と同様に、早期に調査を開始した上で、調査期間を例年よりも長く設定した。
2.調査対象事業所
昨年と同様に、国・地方の公務、外国政府、国際機関等を除く民間の全ての産業の中で、企業規模50人以上でかつ事業所規模50人以上の事業所数約54,900所(昨年約54,200所)のうちから、層化無作為抽出法により抽出した約11,800所(昨年約11,800所)である。なお、新型コロナウイルス感染症を巡る医療現場の厳しい環境に鑑み、前々年、前年に引き続き、病院は調査対象とはしないこととした。
3.調査の方法
人事院と、47都道府県、20政令指定都市、特別区及び和歌山市の69人事委員会が分担して実施する。調査員による実地調査を基本としつつ、必要に応じて対面によらない方法、具体的には、郵送や電子メール、オンラインによる調査等も活用する。なお、調査員には、マスクの着用、検温の実施、体調不良時の訪問の見合わせ等の感染予防策を徹底する。調査員は約1,100人である。
4.調査のカバレッジ(網羅率)
今年の調査対象事業所を抽出する基礎となっている全国の母集団事業所約54,900事業所についてみると、平成28年経済センサス-活動調査(総務省調査)における、従業員数(正社員)の占める割合は、6割(65.6%)を超えている。
5.調査の内容
事業所単位で行う調査事項について、具体的には、①賞与及び臨時給与の支給総額と毎月きまって支給する給与の支給総額、②本年の給与改定等の状況(ベース改定の状況、定期昇給の状況、賞与の支給状況等)、③諸手当の支給状況(家族手当の支給状況、在宅勤務関連手当の支給状況等)、④高齢者雇用施策の状況(一定年齢到達時に常勤従業員の給与を減額する仕組み等)、について調査する。
調査内容は基本的には例年と同様であるが、昨年調査を行った「在宅勤務者に対する通勤手当等の状況」を変更し、「在宅勤務関連手当の支給状況等」について調査することとした。これは、昨年8月の給与に関する報告において、テレワークに関する給与面での対応について人事院として研究を進めていく旨述べたことを踏まえ、昨年に引き続き、民間における在宅勤務関連手当の支給状況等を把握するため調査することとしたもの。なお、民間の動向をより詳細に把握するため、本年の調査では支給の要件や支給額についても調査することとしている。
従業員別に行う調査については、例年と変わりなく、調査事項は、4月分の初任給月額を調査するとともに、月例給の民間との比較の基礎として、役職、年齢、学歴等従業員の属性とその4月分所定内給与月額、すなわち4月分のきまって支給する給与総額とそのうちの時間外手当額、通勤手当額を調査する。調査職種は54、そのうち初任給関係が12で、これはいずれも昨年と同様である。これらの職種について職種分類を行い、調査職種別に給与を調べることになる。
調査の概要については以上のとおりである。
これに対し、関賃金・労働条件専門委員長は「新型コロナウイルス感染症の影響のもとでの調査も3年目となるが、第6波ピークからなかなか感染者が減少しきらず、沖縄など、引き続き厳しい状況となっている地域も少なくない。このことも踏まえて、より一層、各地域における人事委員会との連携・意思疎通を十二分にはかりながら、感染防止対策も万全にしつつ、調査を進めていただきたい」と述べた上で、次の通り、人事院の見解を質した。
○新型コロナウイルス感染症に関わる確認・要請事項
(1)昨年も確認したが、今後、『まん延防止等重点措置』や『緊急事態宣言』が発令された場合の対処方針如何。
例えば、調査完了率8割(8割前後)をクリアできない場合に、調査期間を延長するようなことも想定、シミュレーションしているのか。
(2)昨年に比して、「必要に応じてオンラインツールなど対面によらない方法も活用する」と、より具体的な表現になっている。この間進めてきた「オンライン調査システム」であるが、その運用・拡大の状況如何。今回の調査で、どの程度の割合でオンライン調査が行われるものと見込んでいるのか。
(3)今後、本日の説明内容について、感染拡大等によって、仮に変更等が生じる場合には、公務員連絡会に対して、前広な情報提供を求めておく。
これに対し、増尾参事官は、以下の通り答えた。
(1)本年の民調については、感染予防対策の徹底やオンラインツールなどを活用した非対面での対応などを図った上で、4月25日から調査を開始することとしている。今後、新型コロナウイルス感染症の感染状況等に変化が生ずることもあり得るが、そうした場合には、その時点における状況等を踏まえて適宜対応していくことになるため、確たることを申し上げることは差し控える。また、実調査完了率については、一定の数値を目標として調査を行っているものではない。なお、昨年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により企業活動に大きな影響が生じている中での調査となったが、民間事業所からの格段の理解と協力を得て、調査完了率82.7%と非常に高いものとなったことから、本年度も民間事業所の理解と協力が得られるよう努めていく。また、オンラインツールなどを活用した非対面での対応や感染予防の取組の徹底を図ることなどにより、調査対象事業所のご負担や不安を軽減することにも努めていく。
(2)オンラインツールなど対面によらない方法としては、調査員が電話や電子メール等で事業所担当者とコミュニケーションを取りながら、十分な内容確認を行っていくことを考えている。また、昨年のオンラインツールなどによる非対面の方法を活用した調査を踏まえて、非対面の方法を活用した調査を実施した場合において、事業所担当者により調査内容を理解してもらえるよう、分かりやすい説明の工夫などを行うこととしたいと考えている。なお、今回の調査で、どの程度の割合でオンラインツールなど対面によらない方法で調査が行われるかについては、調査先の希望に応じて、対応することになるため、現時点では、確たることを申し上げることは差し控える。
(3)承知した。
さらに、関委員長は、その他の事項について、人事院の見解を質した。
(1)官民給与の比較方法・企業規模については、今年度も病院について調査対象事業所から除外するという点以外に、従前との変更点はない、と理解してよいか。
(2)ただ今、参事官の方より、昨年調査を行った「在宅勤務者に対する通勤手当等の状況」について、「在宅勤務関連手当の支給状況等」に変更して調査すること、その理由については、テレワークに関する給与面での対応について人事院として研究を進めるために、引き続き、民間における在宅勤務関連手当の支給状況等を把握するためである、との説明があった。さらに、民間の動向をより詳細に把握するため、本年の調査では支給の要件や支給額についても調査するとの説明があった。
この点に関して、
①要するに、今回の調査は、給与としての在宅勤務手当の支給状況について、昨年の調査を継続しつつも、より精緻に行うものと理解してよいか。
②1月から始動している、テレワーク等に関する研究会について、元々の予定によれば、4月18日の第3回研究会では、テレワークを中心とした議論が実施されるものと承知している。さらに6月の第4回研究会では、「早期に講ずべき事項の中間報告」が検討される予定となっているものと承知している。このことからすると、今回の調査結果と、研究会の「中間報告」とを総合する形で、今夏の勧告もしくは報告において、テレワーク関連で何らかの記載がなされる可能性もあると理解してよいか。
③いずれにしても、テレワーク関連については、研究会ヒアリングにおいても意見表明した通り、その拡大・推進に当たっては、地方支分部局も含めて、公務の多種多様な職種や職場の実態を踏まえることが大前提であることを指摘しておきたい。また、手当関連も含めて、何らかの新たな施策の導入や制度の変更などについては、私どもと十分協議することを予め求めておきたい。
(3)再任用職員の給与に関わって、春季交渉において、給与局長は、「再任用職員の給与については、手当等をはじめ各府省からも改善要望が出ており、必要な検討を行ってまいりたい」と回答している。しかしながら、本年の民調においても、「必要な検討」に資するような特段の調査項目は設けられていないという理解でよいか。この場合、昨年も確認したが、今後、具体的にどのように検討するのか現時点での考えを明らかにしていただきたい。
これに対し、増尾参事官は、以下の通り答えた。
(1)その理解で相違ない。
(2)①その理解で相違ない。
②2月28日の第2回研究会では委員による十分な意見交換の機会を確保することができなかったことを踏まえ、4月18日の第3回研究会では、前回の続きという位置付けで、第2回のヒアリングを踏まえた意見交換を行うことを予定している。その後の開催については、研究会での議論を踏まえて検討していく。
いずれにしても、早期に講ずべき事項について中間報告がなされた場合には、この報告を踏まえ、職員団体の皆さんからの意見も聴きながら、本年の勧告時報告へ向けて必要な施策の検討を行っていく。
③承知した。
(3)その理解で相違ない。再任用職員の給与については、民間企業における定年制や高齢従業員の給与の状況、定年引上げに伴い設けられる定年前再任用短時間勤務制等も含めた、各府省における再任用制度の運用状況を踏まえつつ、職員団体の皆さんの意見も聴きながら、引き続きその給与の在り方について必要な検討を行っていきたいと考えている。
また、専門委員からは、調査対象事業所から病院を除いたことへの影響について質問が出され、増尾参事官は「影響の有無という観点よりも、この間の新型コロナウイルス感染症拡大という状況を踏まえ、現場で最大限ご対応いただいていることを考慮し、調査対象から除外したものである」と回答した。
最後に関専門委員長は、「コロナ禍のもとでの調査は、今回でついに3年目に入った。困難な状況の中で、調査に従事する人事院及び人事委員会の職員の皆さんを労うとともに、引き続き感染防止に留意した調査を最後まで貫徹されることを要望しておきたい。
いうまでもなく、民間給与実態調査は官民比較の基礎であり、勧告制度の根幹である。人事院におかれては、昨年の経験も踏まえて、調査対象事業所に対して、丁寧かつ十分な説明をした上で調査を進め、十分な調査結果が得られるよう努力していただきたい。
今後、公務員連絡会としては、民調や春闘後半の動向も注視しつつ、しかるべき時期に人勧期要求書を提出して交渉・協議を進めていくが、調査の進展状況等について、途中段階も含めて前広に議論することを求めておきたい」と述べた。
これに対して増尾参事官が「ご要望は承った。まずは精確な調査を行い、調査結果を踏まえて適切に対処することが重要だと考えている。これから勧告に向けて、皆様のご意見もうかがいながら検討してまいりたい」と回答したことから、この日の交渉を終えた。