人事院と民調作業方針をめぐって交渉
人事院は、本年の民間給与実態調査に関する方針が固まったとして、賃金・労働条件専門委員会にその骨格を示した。
冒頭、早乙女職員団体審議官付参事官は以下のとおり説明した。
1.調査期間
4月22日(月)から開始し、6月14日(金)までの54日間とする。
企業担当者にできる限り調査にご協力頂けるよう、前年と同様に、早期に調査を開始した上で、調査期間も昨年と同程度に設定した。
2.調査対象事業所
昨年と同様に、国・地方の公務、外国政府、国際機関等を除く民間の全ての産業の中で、企業規模50人以上でかつ事業所規模50人以上の事業所数約58,400所(昨年約58,800所)のうちから、層化無作為抽出法により抽出した約11,700所(昨年約11,900所)である。
3.調査の方法
人事院と、47都道府県、20政令指定都市、特別区及び和歌山市の69人事委員会が分担して実施する。調査員による実地調査を基本としつつ、必要に応じて対面によらない方法、具体的には、郵送や電子メール、オンラインによる調査等も活用する。調査員は約1,100人である。
4.調査のカバレッジ(網羅率)
今年の調査対象事業所を抽出する基礎となっている全国の母集団事業所約58,400事業所についてみると、「平成28年経済センサス-活動調査(総務省調査)」における、従業員数(正社員)の占める割合は、6割(65.6%)を超えている。
5.調査の内容
事業所単位で行う調査事項について、具体的には、①賞与及び臨時給与の支給総額と毎月きまって支給する給与の支給総額、②本年の給与改定等の状況(ベース改定の状況、定期昇給の状況、賞与の支給状況等)、③諸手当の支給状況(通勤手当の支給状況、家族手当の支給状況、寒冷地手当の状況)、④高齢者雇用施策の状況(一定年齢到達時に常勤従業員の給与を減額する仕組み等)、について調査する。
調査内容は、基本的には例年と同様であるが、昨年の調査と異なっている主な点は、北海道地域に所在する事業所を対象に「寒冷地手当の支給状況」を調査することとしたこと。寒冷地手当の手当額については民間における同種手当との均衡を図ることを基本にしている。寒冷地手当については、支給地域決定の指標となる最新の気象データ「メッシュ平年値2020」が令和4年4月に公表されたことも受け、支給地域の分析を進めているところであり、これと併せて手当額を検討するため、民間における寒冷地手当の支給状況を調査するものである。
従業員別に行う調査については、例年と変わりなく、調査事項は、4月分の初任給月額を調査するとともに、月例給の民間との比較の基礎として、役職、年齢、学歴等従業員の属性とその4月分所定内給与月額、すなわち4月分のきまって支給する給与総額とそのうちの時間外手当額、通勤手当額を調査する。調査職種は76、そのうち初任給関係が18であり、これらの職種について職種分類を行い、調査職種別に給与を調べることになる。
調査の概要については以上のとおりである。
これに対し、高柳副事務局長は次のとおり人事院の見解を質した。
1.今回の調査と昨年の調査を比較した場合、調査対象事業所数に若干の違いがあるのみで、基本的には昨年同様と考えて良いか。
2.事業所単位で行う調査事項に関して、次の5点について確認したい。
(1)ここ数年、在宅勤務関連手当が調査項目に上がっていたが、今回は項目に入っていない。これは、国家公務員について、この4月から新たな手当が措置されることになり、一定の区切りがついたため、今回は対象外としたと理解して良いか。
(2)寒冷地手当について、見直しの時期が近づいており、調査が行われる点については理解する。その上で、人事院は、2004年の大幅見直し以来、寒冷地手当について、民間準拠を基本とした手当として位置付けてきているが、そもそもは、寒冷地における生計費の増嵩や暖房用燃料費の補填も考慮されていたものと承知している。この間も申し上げている通り、エネルギー関連費目の高騰などにより生活に圧迫感を覚えている職員は少なくない。その点について、十分理解した上で、民調から勧告に至る作業を進めるようお願いしたい。
(3)同じく寒冷地手当について、前回の調査同様、北海道に限定した調査となっている。手当自体は、他の地域でも支給されているが、今回、北海道に限定した調査とする特段の理由はあるか。
(4)通勤手当については、給与制度のアップデートの項目でもあり、昨年に続き調査が行われることは了解する。その上で、昨年の段階で既に、新幹線通勤など、民間の通勤手当と大きな差が生じているものと承知している。官民比較の対象外給与であることは理解しているが、新幹線にとどまらない、通勤手当の抜本的な改善を改めて求めておきたい。
(5)同じく通勤手当について、今回も、交通用具使用者に関する調査が盛り込まれていないが、現在の支給額は2014年の調査に基づいており、それから10年が経過している。状況も変化していると思われるし、この点についても、地方の職員などからの意見も寄せられているところである。今回はともかく、来年には調査を行い、必要な改善を行うべきものと考えていることを予め指摘しておきたい。
これに対し、早乙女参事官は、以下の通り答えた。
1.貴見のとおり。
2.(1)これまでは、在宅勤務等手当の新設を検討するに当たって、民間企業等の在宅勤務関連手当の支給状況を把握する必要があったが、令和5年の調査結果を踏まえた人事院勧告に基づく給与法改正等により、令和6年4月から在宅勤務等手当が新設されることとなった。また、今後直ちに制度改正を検討する状況にないことから、令和6年は調査項目として設定しないこととした。
(2)寒冷地手当の手当額については、民間における同種手当との均衡を図ることを基本としている。寒冷地手当については、支給地域決定の指標となる最新の気象データ「メッシュ平年値2020」が令和4年4月に公表されたことも受け、支給地域の分析を進めているところであり、これと併せて手当額について検討するため、民間における寒冷地手当の支給状況を調査することとしたものである。本日、寒冷地手当の見直しに当たっての御意見があったことは担当とも共有したい。
(3)平成26年に行った調査と同様、平成16年の調査において、多くの事業所で寒冷地手当を支給していた北海道に所在する事業所を対象として調査することが適当と判断した。本州の一部を支給地域としているのは、北海道との権衡を考慮したものであることからも、北海道の状況を調査することが妥当と考えている。
(4)通勤手当の手当額については、これまで民間の同種手当の支給状況との均衡を図ることを基本として改定を行ってきている。在来線については、新幹線鉄道等の特例が適用されず遠距離通勤を行う職員や、島等の官署への通勤方法が高速バスに限られている職員など、在来線の支給上限額を超えて運賃等を負担することを余儀なくされている職員がおり、また、新幹線等についても、近年、新幹線等の鉄道網の整備が進むとともに、勤務地を異にして異動する場合でも単身赴任を選択することが困難な事情等を有する職員が増えるなど、新幹線等による遠距離通勤のニーズが高まっている。このような職員への給与上の配慮について検討するため、今年も民間企業における支給状況について調査することとしたところである。通勤手当の抜本的な改善についての御意見があったことは担当とも共有したい。
(5)公務における交通用具使用者の通勤手当については、民間企業における通勤手当の支給状況を踏まえて、距離段階別定額制により支給することとしている。その額は、これまで民間企業の同種手当の支給状況との均衡を図ることを基本として改定を行ってきており、お話しいただいたとおり、現行の手当額は平成26年(2014年)職種別民間給与実態調査の結果を踏まえて改定されたものである。交通用具使用者の通勤手当については、組合会見などでも強い要望として話を伺い担当にも共有しているところであるが、本日も御意見があったことは担当とも共有したい。
また、専門委員からは、次のとおり質問があった。
1.高齢者雇用施策の状況調査について「一定年齢到達時に常勤従業員の給与を減額する仕組み等」と記載があるが、この「等」には高齢者への手当支給の状況調査は含まれているのか。
2.能登半島地震の影響や考慮していること等はあるか。
3.今回の通勤手当の調査結果がアップデートに反映されると考えてよいか。
4.今回の民調結果がアップデートにおける地域手当の大くくり化に与える影響はあるのか。
5.寒冷地手当の調査結果を8月の人事院勧告に合わせて反映し、改定することは可能なのか。
これに対し、早乙女参事官は、以下の通り答えた。
1.個別の手当ではなく、年間の給与水準を調査するものである。
2.調査の実施について、石川県人事委員会からは調査可能との回答を得ている。しかし、実際に調査にあたった事業所の状況は確認しないと分からないため、人事委員会と連携しながら対応していく。
3.制度改正を行う以上、民間の状況は何らかの資料になると考える。
4.地域手当については、賃金構造基本統計調査を基本として決定されるため、今回の調査結果が影響を与えることはないと考える。
5.寒冷地手当の改定には寒冷地手当法の改正が必要であり、それには勧告が必要。今回の調査はそこへ反映させることを目的に実施するため可能である。
最後に高柳副事務局長が「基本的には例年通りの内容だと理解する。調査の過程で何か新たな課題が起きた場合などは直ちに我々に情報提供願いたい」と述べ、この日の交渉を終えた。