5月21日、参議院総務委員会において「地方公共団体一般職の任期付職員の採用に関する法律案」が審議され、賛成多数で可決された。
また、委員会は民主党提案の附帯決議を共産党を除く全会一致で可決した。
同法律案は、本日22日の参議院本会議で採決され、可決・成立する見通し。
今後、国会審議の到達点・附帯決議を踏まえ、引き続き関係政令・通知などへの対策を強化していく。
21日開かれた参議院総務委員会では、民主党高嶋議員、共産党八田ひろ子議員、国会改革連絡会渡辺秀央議員、社民党又市征治議員が質疑を行った。民主党高嶋議員は、@国・自治体における公正・中立性の担保、A人事委員会のない自治体で、恣意的な採用とならないようチェック機能を働かせるための方策、B人事委員会・公平委員会の機能強化、C人事委員会・公平委員会制度の改革に関する法制度化の目途、D自治体で任期付採用のケースの特定について、人事院事務総長通知のようなものが想定されているか、E想定されるようなケースについて、任期付採用ではなく特別職非常勤職員での任用で可能ではないか、F短時間公務員制度に関する法制度の検討状況は、G任期付採用職員の給与は国に準拠か。他の職員に対し悪影響を与えるのでは。これまで総務省は自治体の規模を勘案することを指導してきたがどうなのか、H評価機関が設置されず、客観的・具体的な手続きを踏まない場合、業績手当は支給すべきではないのではないか、との質問を行った。
これらの質問に対し、中島人事院総裁は、「国の任期付採用は人事院の承認が必要。能力に基づく採用、官民癒着を防止するよう各省に徹底している」と答弁した。
総務省からは、片山大臣、若松副大臣、荒木公務員部長が答弁した。質問に対して、@A地公法15条からも任用は能力の実証が必要とされている。人事委員会の有無にかかわらず、任期付採用を行うためには、議会での議論を経て条例化する必要がある。任命権者は議会と住民に対し説明責任がある。総務省として、主旨内容の周知をはかり、公正な採用が行われるよう助言を行っていく、B人事委員会・公平委員会の機能強化は重要、C1999年の地公研報告でも提案されている。機能強化について鋭意検討しているところだ、D採用のケースは法で類型化され、限定されており、これ以上の限定は必要ない。活用の例も含めて制度の主旨を周知し助言していく。人事院通知を参考として、例示を周知することも考える、E特別職は地公法の適用がない。任期付採用職員は一般職として業務に従事し、他の職員と一体になって政策立案に主体的にかかわることとなり、服務規定を適用する必要がある、F2000年11月より、学識経験者・実務担当者による検討会を行っている。ただ、法制度化については国民の理解が必要。検討会の場で鋭意検討していきたい、G任期付採用職員の給与は条例で定めることとなるが、高度の専門的な知識などが要求される職務のため特別の給料表を作ることが適当で、首長より高い給与はないと想定している、H部内に評価委員会を設置するなどの方法を地方団体に助言していきたい、との回答を行った。
高嶋議員は、最後に「政治的任用を危惧するので、恣意性が働かないよう総務大臣としての決意をお聞きしたい」と片山総務大臣の決意を質して、質問を締めくくった。
これに対し、片山大臣は「任用の原則は成績主義。必要ならば適切な助言を行っていきたい」と回答した。
また、社民党の又市議員は特に、採用された職員の出身企業との癒着等の危険について質し、総務省側は「疑念を抱かれないポストで活躍してもらうことが必要」と答弁した。
地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律案に対する附帯決議
〔平成14年5月21日 参議院総務委員会〕
政府は、本法を施行するに当たり、次の事項の実現に努めるべきである。
一、地方公共団体が、任期を定めて職員を採用する場合において、性別その他選考される者の属性を基準とすることなく、また、情実人事を求める圧力又は働きかけその他の不当な影響を受けることのないよう留意し、真に専門的な知識経験又は優れた識見を有する者を採用するよう、必要な助言を行うこと。
二、任期付職員制度の運用に当たっては、地方公共団体の人事行政における政治的影響力の行使、公民癒着等の疑惑や批判を受けることなく、適正な運用がなされるよう、制度導入の趣旨の周知徹底を図るとともに、人事委員会・公平委員会の機能の充実に努めること。
〔参考〕
一般職任期職員制度国会提出の経過
任期付一般職地方公務員制度の導入について、総務省は、地公研報告で制度化の方向が示されていること、国がすでに導入していること(2000年11月施行)を理由に、この154通常国会での法案の提出と成立を目指してきた。公務員連絡会地公部会として昨年秋から一般職の任期付職員制度の導入については、@緊急性が薄いことから慎重に対応すること、A導入する場合も政治的恣意性を排除するため、要件を厳しく限定すること・公正厳密な手続きを前置することを基本に、昨年秋から総務省公務員部との交渉、地公研への対応を行ってきた。
このような経過の中で、政府は3月8日に法案を閣議決定、国会に上程した。地公部会は、議論の経過を踏まえ、業務の要件の限定、透明・公正な任用手続きの明確化、給与のあり方について明確化させることを基本に対応を行ってきた。
4月18日に衆議院総務委員会で審議が行われ、質疑の後、附帯決議をつけて法案を可決した。
参議院は、4月25日に参議院総務委員会で趣旨説明を行い、5月9日に委員会審議の予定であったが、国会の参考人質疑等日程の関係で、審議日は5月20日の週にずれ込むこととなった。参議院の審議では、衆議院での質疑を踏まえて確認の答弁を引き出すこととした。
<衆議院総務委員会での質疑の概要>
4月18日、「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律案」が、衆議院総務委員会で可決した。
また、自民・公明・民主・自由・社民による5派共同の附帯決議が総務委員会全員の賛成で可決された。
総務委員会では、民主党から安住議員、中村議員、自由党から黄川田議員、共産党から春名議員、社民党から重野議員の5議員による質疑が行われた。
質疑では、公務員制度改革大綱による人事院機能の権限縮小や国家公務員の超勤縮減を目的としたタイムカード導入等の議論もされたが、主に、@国家公務員における任期付採用制度の状況、A人事委員会がない自治体におけるチェック機能体制、B採用要件の明確化と限定、C任期付職員が採用されることで他の職員に与える影響、D任期付職員の給与・労働条件、E今後の公平委員会の機能強化が焦点となった。
@について、片山総務大臣は、「2002年度の国家公務員一般職任期付採用職員は、76人で、公認会計士が14人、弁護士が14人他となっている。地方公務員の任期付採用法案化については、地方六団体を中心に要請があった。自治体では、ITの専門家、イベントプランナー、弁護士、公認会計士が想定される」との答弁を行った。荒木総務省公務員部長は、「都道府県の調査では、ほとんどが任期付採用が必要であるとの回答を得ている。自治体での採用を想定しているのは、高度の専門的知識経験や優れた識見を有するもので、民間企業の役員や国際会議のイベントプランナー、システムエンジニアなど。もちろん、任期付採用職員にも地公法上の服務規程が適用される」と答弁した。
Aについて、荒木部長は、「現在、人事委員会の設置がされているのは、都道府県及び政令指定都市、特別区・和歌山市・熊本市など人口15万人以上の都市に限られており、15万人未満では公平委員会のみの設置となる。人事委員会では、人事院と同様、採用にあたり承認が必要。公平委員会しかない自治体では、承認手続きがないため、任命権者である首長が公平に、公正に、厳格に実行することが求められる。任期付採用職員に対しても、選考の際は、知識・資格・経歴等の客観的な基準が必要となる。自治体に対して、法の主旨を周知徹底していきたい」との答弁を行った。片山大臣は、「人事委員会のない自治体では、住民の監視が行き届いている。チェック機能がないといっても、首長は選挙で信任の判断が下される」と答弁した。
Bについて、荒木部長は、「地方公務員の任期付は、各自治体の自主的判断により、条例で定められることとなる。総務省は、法施行にあたり、制度の主旨を周知・助言していく。今後、地方議会の場で議論が進むと思われる。住民への情報提供など、地方自治体に対し適切な対応を求めていく。国と同様、外部の優秀な人材が持てると考える。なお、国の制度では、任期付採用を希望する場合、人事院に対し承認申請書の提出が必要。人事委員会については、国と同様、一定の書類提出等の取扱いが考えられる。人事委員会がない場合でも、採用にあたっては、地公法15条が適用されるので、法の主旨に準じた扱いが必要となる。採用についても、能力の実証など成績主義が適用される。公正な採用は当然。公募の方法も可能で、これは人事委員会の設置がない自治体でも同じ。運用上、各団体が国に準じた適切なルールを作るよう助言していく」との答弁を行った。
Cについて、片山大臣は、「任期付採用は、即戦力の人材が確保できる。民間的な発想が良い影響を与える」と答弁した。荒木部長は、「コスト意識などが啓発されることで、能率的な行政が可能になると考える。任期付採用を適切に実施すれば、財政面で良い効果が期待できる。各地方公共団体においては、この本法案の趣旨を踏まえた上で、職員の士気の低下をもたらすことのないよう、適切に対処されるべき」との答弁を行った。
Dについて、荒木部長は、「任期付採用職員に対しては、ふさわしい給与が必要。国と同様、特別な給料表が必要。勤務条件については、他の職員と同じ。業績手当の認定については、専門家をまじえた評価機関設置のため、助言していく」と答弁した。
Eについて、片山大臣は、「地方公務員制度調査研究会で報告されたように、人事委員会・公平委員会機能について、出来るだけ早く検討する。」と答弁した。荒木部長は、「地公研報告で『人事委員会等の機能の充実等』が報告されており、今後検討が必要であると考える。公平委員会についても所掌事務の範囲拡大など、検討が必要」との答弁を行った。
最後に、片山大臣は、「この制度をうまく活用すれば即戦力となる。地方公共団体も是非活用してほしいが、この法律の主旨を損なわないようにお願いしたい」と発言し、質疑は終了した。
地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律案に対する附帯決議
〔平成14年4月18日 衆議院総務委員会〕
政府及び地方公共団体は、本法律の施行に当たり、次の事項について配意すべきである。
一 地方公共団体が、任期を定めて職員を採用する場合、真に専門的な知識経験又は優れた識見を有する者を採用することとし、性別その他選考される者の属性を基準とすることなく、及び情実人事を求める圧力又は働きかけその他の不当な影響を受けることのないよう留意すること。
二 任期付職員制度が、地方公共団体の人事行政における政治的影響、公民癒着等の疑惑や批判を受けることがないよう、その適正な運用を図るとともに、人事委員会・公平委員会の機能の充実に努めること。