8日に衆議院本会議で採択され参議院に送付された給与法改正法案は、12日に参議院総務委員会で趣旨説明が行われ、14日に審議となった。午前10時から開かれた参議院総務委員会では、民主党・高嶋良充議員、社民党・又市征治議員らが不利益遡及問題や公務員制度問題で政府、人事院を追及した。質疑後の採決では、民主党・社民党共同提案の修正案が民主・社民・共産党の賛成少数で否決され、原案が賛成多数で可決された。また、全会一致で付帯決議が採択された。総務委員会を議了した給与法改正法案は、明日(15日)の参議院本会議で賛成多数で可決・成立する予定となった。成立した給与法改正法案は、公布手続き(閣議決定)をとり、12月1日付で施行されることとなる。
公務員連絡会は、この日、減額調整措置を実施する給与法改正法案の修正を求める秋闘第2次中央行動と第3次全国統一行動を実施した。秋闘は、給与法改正法案をめぐる取り組みに一区切りをつけ、地公確定等の山場の闘いに移っていくこととなる。公務員連絡会は21日に合同会議を開いて、給与法改正法案をめぐる取り組みの中間総括を行い、秋闘の今後の方針を検討することとしている。また、本日は地公確定と地財確立の地公部会を中心とする行動や国公連合の2002秋季学習会が繰り広げられた。
<多様な秋闘第2次中央行動実施>
公務員連絡会は、参議院総務委員会審議日に当たる14日、午前から給与法改正法案の修正を求める各政党要請行動(自民、民主、公明、自由、社民)を実施した。政党要請では減額調整措置を実施する附則を削除する修正案の成立を求める申入書(資料1)を手交し、民主・社民党には成立に一層努力すること、その他の党には修正案に賛成することを強く求めた。なお、この要請行動は地財確立の要請と一緒に行われた。
午前10時から開かれた総務委員会審議に対応しては、各構成組織の代表が採決終了時まで傍聴行動を実施した。また、12時からは、約100人規模で参議院議員面会所での集会が開かれ、民主党・高嶋議員、社民党・又市議員からそれぞれ総務委員会審議の経過の報告を受けた。
これらの行動を踏まえ、午後2時30分から社会文化会館で、800人が参加して第2次中央集会が開かれた。
山田副代表委員の議長ではじまった集会の冒頭、挨拶にたった丸山代表委員は、「われわれは減額調整措置を実施する給与法改正法案が不利益不遡及の原則に抵触するとして、その修正に取り組んできた。本日の総務委員会でも民主・社民共同の修正案が提案されるが、残念ながら少数で否決され、原案が可決される情勢だ。われわれとしては、質疑の中で問題点を追及し、附帯決議の中で歯止めを勝ち取るべく取り組みを進めている。秋闘はこれで一区切りつき、地公確定などを中心とした取り組みに移っていくが、この給与法改正法案の取り組みを、労働基本権や公務員の賃金・労働条件決定制度の闘いに結びつけていかなければならない」と、給与法改正法案をめぐる秋闘の取り組みを公務員制度改革の闘いに結びつけていこうと訴えた。
続いて山本事務局長が取り組みの経過を報告、「参議院総務委員会審議と附帯決議の中で最低限の歯止めは確保した。それらを踏まえ、地公確定や公務員制度改革に全力を挙げよう」と、今後の方針を提起した。また、傍聴行動を終えてかけつけた岩岬事務局次長が、修正案は賛成少数で否決されたが、附帯決議は全会一致で採択されたことを報告した。
集会は最後に北岡代表委員の音頭で団結がんばろうを三唱して終了した。
<総務委員会で民主党高嶋議員、社民党又市議員が減額調整措置の問題点を追及>
午前10時30分過ぎから質問にたった民主党高嶋良充議員は、「マイナス勧告という結果になったのは、小泉内閣の経済政策の失敗に原因がある。公務員給与のマイナスが民間に波及し、さらにデフレを深刻化させる」と、マイナス勧告の問題点を追及したあと、減額調整措置は不利益不遡及の原則に抵触する、と政府、人事院を追及した。
これに対して片山大臣は「情勢適応の原則のもと官民の年間給与の均衡をとることになっており、これから発生する期末手当から減額調整することとする勧告があり、政府としても検討し、法制局の見解も求め、閣議決定した」と、また人事院総裁は「プラスの時は4月に遡り、マイナスの時は知らないということでは国民から納得が得られないとの判断のもとに、法制的にも妥当であり、公務員にももっとも打撃が少ない調整の方法を勧告した」と、衆議院総務委員会審議と同様の見解を繰り返した。
高嶋議員が不利益遡及の可否について法的見解を質したところ、内閣法制局は今回のケースは「すでに適法に支給された給与を遡って不利益に変更するものではない」としたうえで、遡及適用については「一般論としては最高裁判決で公共の福祉に反する場合は財産権を制限することも可能との判断もある。今回のケースが遡及適用できるかどうかは具体的に検討していないので答えられないが、権利侵害に当たることでもあり、法的安定性からみてみだりに行うべきではなく、慎重に検討すべきものと考えている」と、遡及適用の可否についての具体的見解を示すことをさけた。
また高嶋議員は、「遡及適用した場合と全く同額が減額される調整措置を遡及適用ではないというのは形式論だ。実質的に不利益遡及であり、法的に許されない脱法行為だ」と追及し、「年間給与の均衡の方法は他にも方法があったはずであり、組合から納得が得られないような調整方法はとるべきではなく、十分協議してやるべきだったのではないか」と、人事院、総務省の一方的決定を批判し、人事院総裁の「確かに他にも方法はあるが、われわれは一番よい方法だと判断して勧告した。将来について、納得性の高い方法について労働団体と話し合うことについて否定的ではない」と、今後の方法についてはわれわれと話し合うとの答弁を引き出した。
地方公営企業の交渉に関わっては、総務大臣は「当該団体で十分交渉し、決定することが原則だが、特段の事情がない限り一般の職員に準じてもらいたいと考えている」と答えた。
さらに高嶋議員は「十分交渉・協議すること」を強く求め、それぞれ十分話し合っていくとの見解を確認し、「民間への波及問題」については「民間は労使で話し合って決めるものであり、今回の調整は公務員特有のものであり、民間に波及されるべきものではない」との総務大臣答弁を引き出した。
最後に高嶋議員は、「今年の給与改定は人勧制度の欠陥に起因している。人勧制度は今の情勢に適合しなくなっており、労働基本権を付与し、団体交渉による賃金決定制度を確立すべきだ。近々に予定されているILO勧告も踏まえ、公務員制度改革の中で検討せよ」と強く求めた。
一方、又市議員は「これまでのように言い逃れが許されない厳しいILO勧告が20日にも出されると聞いている。政府はその勧告を受け入れて公務員制度改革を行うべきだ」と、政府を追及した。これに対して政府側は「内容について承知していない」と回答をさけたが、総務大臣は「勧告が出されたら詳細を検討し、政府として誠意ある対応をしたい」と答えた。
総務委員会はこの後採決に入り、民主党・社民党共同の修正案(資料2)を賛成少数(民主・社民・共産)で否決し、原案を賛成多数(社民、共産反対)で可決した。この後、民主党・伊藤理事提案による附帯決議が、次の通り全会一致で採択された。
参議院総務委員会の附帯決議は、衆議院で@職員団体の「理解」となっていたものを「納得」としA減額調整措置を「民間等へ影響を及ぼさないよう」と、より明確に歯止めする内容となっている。
<資料1−1>
2002年11月14日
民主党代表 鳩山由紀夫殿
社会民主党党首 土井たか子殿
公務員労働組合連絡会
代表委員 北岡勝征
代表委員 丸山建蔵
給与法改正法案の修正を求める申入書
常日頃より、公務員労働者の賃金・労働条件改善に向け、ご尽力いただいていることに心から感謝申し上げます。
さて、現在国会で審議中の月例給を2.03%引き下げる給与法改正法案に対してわれわれは、公務員の生活や景気に与える影響からして極めて遺憾な内容であるものの、民間の現下の賃金実態を踏まえれば、引き下げ自体はやむを得ないものと認識しています。しかし、実質的に4月に遡って給与を減額する調整措置については、不利益不遡及の原則に抵触するものであり、民間の賃金決定に与える悪影響からしても決して認めることができません。また、今回の問題は、公務員の給与決定過程に一切労働組合が参加できないことや民間の賃金決定(4月)から相当期間遅れざるを得ない、現行の人事院勧告制度の歴史的・制度的欠陥から発生したものであり、この公務員の賃金・労働条件決定制度の抜本的改革も緊急の課題だと認識しています。
以上のことからわれわれは、給与法改正法案の国会審議に当たり、@減額調整措置を実施する附則を削除しA改めて労使で協議して官民の年間給与を均衡させること、などを中心とする修正案の実現を求めて取り組みを進めています。
貴党におかれては、われわれの要請を踏まえて給与法改正法案の修正案に取り組んで頂いていることに感謝申し上げるとともに、下記事項の実現に向け一層ご尽力頂くよう要請します。
記
1、不利益不遡及の原則に抵触する給与法改正法案の「修正案」を成立させること。
2、団体交渉による公務員の賃金・労働条件決定制度を確立し、民主的公務員制度改革を実現すること。
<資料1−2>
2002年11月14日
自由民主党総裁 小泉純一郎殿
自由党党首 小沢一郎殿
公明党代表 神崎武法殿
公務員労働組合連絡会
代表委員 北岡勝征代表委員
代表委員 丸山建蔵
給与法改正法案の修正を求める申入書
常日頃より、公務員労働者の賃金・労働条件改善に向け、ご尽力いただいていることに心から感謝申し上げます。
さて、現在国会で審議中の月例給を2.03%引き下げる給与法改正法案に対してわれわれは、公務員の生活や景気に与える影響からして極めて遺憾な内容であるものの、民間の現下の賃金実態を踏まえれば、引き下げ自体はやむを得ないものと認識しています。しかし、実質的に4月に遡って給与を減額する調整措置については、不利益不遡及の原則に抵触するものであり、民間の賃金決定に与える悪影響からしても決して認めることができません。また、今回の問題は、公務員の給与決定過程に一切労働組合が参加できないことや民間の賃金決定(4月)から相当期間遅れざるを得ない、現行の人事院勧告制度の歴史的・制度的欠陥から発生したものであり、この公務員の賃金・労働条件決定制度の改革も緊急の課題だと認識しています。
以上のことからわれわれは、給与法改正法案の国会審議に当たり、@減額調整措置を実施する附則を削除しA改めて労使で協議して官民の年間給与を均衡させること、などを中心とする修正案の実現を求めて取り組みを進めています。
貴党におかれては、給与法改正法案の修正案の成立など、下記事項の実現に向けご尽力頂きますよう要請します。
記
1、不利益不遡及の原則に抵触する給与法改正法案の「修正案」を成立させること。
2、団体交渉による公務員の賃金・労働条件決定制度を確立し、民主的公務員制度改革を実現すること。
<資料2−1>
一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案要綱
第1 平成14年12月に支給する期末手当及び期末特別手当に関する特例措置に係る規定の削除
平成14年12月に支給する期末手当及び期末特別手当に関する特例措置に係る規定を削除するものとすること。(附則第5項及び第6項関係)
第2 平成14年度の分として支給する給与に係る特例措置
1 政府は、平成15年3月31日までに、平成14年度の分として支給する給与の額と同年度の分として支払われる民間における賃金の額との権衡を図るため、同年度の分として支給する給与について必要な措置を講ずるものとすること。(附則新第6項関係)
2 政府は、1の措置を講ずるに当たっては、職員の意見を聴かなければならないものとすること。(附則新第7項関係)
第3 平成14年度の期末手当及び期末特別手当の改定に係る改正規定の修正
平成14年度の期末手当及び期末特別手当について、3月期の支給割合を現行より 100分の5引き下げ、12月期の支給割合を現行どおりとするものとすること。(第1条中一般職の職員の給与に関する法律第19条の4及び第19条の8の改正規定関係)
第4 その他
第1から第3までの修正に伴う所要の規定の整備を行うものとすること。
<資料2−2>
一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案
一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
第1条中第19条の4の改正規定及び第19条の8の改正規定を次のように改める。
第19条の4第2項中「100分の55」を「100分の50」に改め、同条第3項中「100分の55」を「100分の50」に、「100分の30」を「100分の25」に改める。
第19条の8第2項中「100分の55」を「100分の50」に改め、同条第3項中「100分の55」を「100分の50」に、「100分の30」を「100分の25」に改める。
第2条のうち第19条の4第2項の改正規定中「100分の20」を「100分の50」に、「100分の185」を「100分の155」に、「100分の165」を「100分の135」に改める。
第2条中第19条の4第3項の改正規定を次のように改める。
第19条の4第3項中「「100分の50」とあるのは「100分の25」と、」を削り、「100 分の145」を「100分の155」に、「100分の70」を「100分の85」に、「100分の155」を「100分の170」に、「100分の125」を「100分の135」に、「100分の60」を「100 分の75」に、「100分の135」を「100分の150」に改める。
第2条のうち第19条の8第2項の改正規定中「100分の25」を「100分の50」に改め、『100分の170」に』の下に『、「100分の155」を「100分の180」に』を加える。
第2条のうち第19条の8第3項の改正規定中「100分の25」を「100分の50」に、『100分の20」』を『100分の25」』に改め、『100分の90」に』の下に『、「100分の155」を「100分の180」に、「100分の90」を「100分の95」に』を加える。
第3条の前の見出しを削り、同条に見出しとして「(一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律の一部改正)」を付し、同条のうち第7条の改正規定中『100分の20」』を『100分の155」』に、「100分の25」及び「100分の185」を「100分の170」に改める。
第4条を削る。
第5条の前の見出しを削り、同条に見出しとして「(一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律の一部改正)」を付し、同条のうち第8条の改正規定中『100分の20」』を『100分の155」』に、「100分の25」及び「100分の185」を「100分の170」に改め、第5条を第4条とする。
第6条を削る。
附則第1項ただし書中「第4条、第6条並びに附則第7項」を「第3条中一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(次項及び附則第4項において「任期付研究員法」という。)第7条第2項の改正規定、第4条中一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(次項及び附則第4項において「任期付職員法」という。)第8条第2項の改正規定並びに附則第5項」に改める。
附則第2項第2号中「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(附則第4項及び第5項において「任期付研究員法」という。)」を「任期付研究員法」に改め、同項第3号中「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(附則第4項及び第5項において「任期付職員法」という。)」を「任期付職員法」に改める。
附則第4項中「第5条」を「第4条」に改める。
附則中第5項の前の見出し、同項及び第6項を削り、第7項を第5項とし、同項の次に次の見出し及び2項を加える。
(平成14年度の分として支給する給与に係る特例措置)
6 政府は、平成15年3月31日までに、平成14年度の分として支給する給与の額と同年度の分として支払われる民間における賃金の額との権衡を図るため、同年度の分として支給する給与について必要な措置を講ずるものとする。
7 政府は、前項の措置を講ずるに当たっては、職員の意見を聴かなければならない。
以上