2004年度公務労協情報 14 2004年2月9日

公務公共サービス労働組合協議会

中期的な公共サービスキャンペーン行動の開始を宣言
2004春季生活闘争交流決起集会を開催−2/6

 公務労協は2月6日、社会文化会館ホールで2004年春季生活闘争交流決起集会を開催した。中期的な公共サービスキャンペーン行動の開始宣言集会との位置づけのもと開いたもので、記念講演、5単産からの取り組み報告、集会基調の提起がなされた。なお、この集会に先立ち、公務員連絡会は、午後1時から地方代表者を対象に「2004春季生活闘争方針説明会」を開催した。山本事務局長が闘争方針を説明し、「地域から運動に取り組もう」と訴えた。

集会写真  午後3時から行われた公務労協の交流決起集会には、全国から800人の仲間が参加した。集会は轆轤副事務局長の司会ではじまり、冒頭、人見議長は、主催者を代表して次のように挨拶した。
(1) 今春闘は厳しい雇用情勢のもとで、総合的な生活改善の取り組みが求められている。経営側は、大幅な純益がでている業種であっても、賃上げを認めず、定昇さえ抑えようととしており、社会的責任を放棄したものである。
(2) 公務員賃金は、2年連続でマイナス人勧、5年連続で一時金が引き下げられた。3年連続の引き下げ勧告をさせないため、民間の仲間とともに闘い抜こう。また、寒冷地手当、地域給、退職手当などの見直しに対し、反撃していかねばならない。
(3) 公務の職場には、民営化攻撃の流れが強まってきているが、国民が求める安心・安定した良質な公共サービスのあり方を政策研究のうえできちんと打ち出し、真っ正面から取り組んでいきたい。
(4) 公務員制度改革では、なんとしても労働基本権確立の道筋を立てるよう、がんばらねばならない。

佐和所長  続いての記念講演には、佐和隆光京都大学経済研究所所長を招き、「日本の構造改革−いま、どう変えるべきか」をテーマに講演を受けた。(別紙1「レジュメ」)
 佐和所長は、経済戦略会議の「最終報告」(1999年2月)が打ち出した市場主義万能の政策提言を「20年遅れのサッチャーリズム」だとし、この延長線上にある小泉内閣の構造改革路線を批判した。そのうえで、「市場主義を断行する保守の改革と、政府の役割を見直そうというリベラルの改革が対立しているなかで、いま必要なのは市場主義改革と『第三の道』改革の同時遂行である」とし、「それは市場の効率性を認めたうえで、市場主義改革を推し進める一方で、平等な福祉社会、すなわち公正という価値を重視した社会の実現である」と訴えた。
 単産報告では、自治労・大門中執、日教組・島書記次長、国公連合・山川中執、全郵政・太田中執、都市交・田川副委員長が登壇し、構成組織がそれぞれ取り組んでいる課題について報告した。(別紙3)
 その後、山本事務局長が別紙2の通り集会基調を提起した。そのなかで、「2004春季生活闘争を中期にわたる新たな取り組みのスタートと位置づける」としたうえで、「波状的な公務員叩きに個別的に防衛するのでなく、公共サービスのあるべき姿を社会に広く提示し国民的な議論と合意を目指す攻勢的な取り組みへと転換する必要がある」と訴えた。そのうえで「公共サービスキャンペーン行動の推進」を提起。当面の取り組みとして、5月に政策制度交流集会を開催、7月に目途に学者・有識者による「対抗軸研究会」(仮称)を立ち上げる考えを示した。そして、「本集会参加者の総意を持って中期取り組みの開始を宣言する」と訴え、参加者は、全体の拍手でこの基調報告を確認した。
 最後に人見議長の音頭で団結がんばろう三唱、集会を締めくくった。
 集会参加者は、この後、厚生年金会館で開催される連合主催の「生活要求実現2.6中央総決起集会」に合流した。


(別紙1)
日本の「構造改革」
――いま、どう変えるべきか――

佐和隆光(京都大学経済研究所)


T.市場主義改革と「第三の道」改革の同時遂行を

1-1 保守とリベラルの対立軸
1.1979年、イギリスでサッチャー政権が、81年、アメリカでレーガン政権が、そして日本でも82年に中曽根政権が誕生し、英米日の各国で新保守(市場)主義改革が断行された。英米にくらべて日本は中途半端なままに終わった。80年代は「新保守主義の時代」であった。実際、91年のスウェーデン総選挙の結果、社会民主党が戦後はじめて政権の座をおりたとき、スウェーデン社民政権は「欧州最後の社民政権」とさえいわれた。
2.ところが、90年代後半に入ると、欧州各国で中道左派政権の誕生が相次ぐという予想外の事態が生じた。97年5月のイギリス総選挙で労働党が圧勝し、2001年6月の総選挙でも労働党が再度の圧勝を果たした。また97年6月のフランス総選挙で社会党が第一党となり、98年10月のドイツ総選挙で社会民主党が勝利した。1999年末現在、欧州連合(EU)15か国中13カ国が、2003年末現在、15カ国中7カ国が中道左派政権。
3.91年12月のソ連解体を画して、社会主義は崩壊したのではなかったろうか。にもかかわらず、90年代後半の欧州で社民系政党が政権に就くのはなにゆえのことなのか。市場主義改革(サッチャリズム)の「副作用」への反発。所得格差の拡大、公的医療・教育の荒廃。より一般的には、「市場の暴力」への抵抗。
4.ところが、2002年に入ってから、フランス、デンマーク、オランダ等の総選挙で右派が台頭。移民政策の是非が問われるようになった。経済的諸問題における保守対リベラルではなくして、社会的諸問題に関わる保守対リベラルの対立軸の浮上。極右の台頭を一時的な現象と見るか、それとも構造的な現象と見るのか。反グローバリゼーションの台頭:移民への反発。コスモポリタン的寛容とファンダメンタリズムの対立。振り子の右振れは、必ずしも市場主義への回帰現象を意味するわけではない。実際、2002年の後半に入ると、スウェーデン、ドイツで左派が勝利した。
5.混迷を続けるわが国の政界:保守とリベラルの対立軸に沿った再編成を待たねばなるまい。ただし、保守とリベラルの政策レベルでの差異は、決して一義的ではなく、時や場所に応じて変遷する。
6.保守とリベラル:市場を万能視し、自己責任・自助努力をモットーとし、低福祉低負担を志向し、秩序と伝統を重んじ、社会的異端に対して厳しいのが新保守主義(ネオコン)。市場は万能ではないから、経済安定化のためには政府の市場介入が不可欠だとして、相対的には高福祉高負担を志向し、経済的弱者をも含めて社会的異端に対して寛容なのがリベラリズム。以下、新保守主義を市場主義と言い換える。

1-2 日本では「20年遅れのサッチャリズム」
7.経済戦略会議の「最終報告」(1999年2月)は市場主義を鮮明に打ち出した政策提言である。この報告が時代潮流に適合したものであるか否か、については評価が二分されるであろう。欧米とくに欧州諸国で見られるサッチャリズムからの退行現象、後述する「市場の暴走」という新しい事態との整合性が問われなければならない。
8.小泉内閣の「構造改革」は戦略会議「最終報告」の延長線上にあるのだが、不良債権処理と財政改革の隠れ蓑に「構造改革」という美辞麗句が用いられている感あり。本物の構造改革は自由、透明、公正な市場を作ること。
9.90年代を通じてのエコノミストの言説:「これさえやれば、日本経済は再活性化する」との言説の繰り返し。「これ」は、財政金融政策による景気刺激策、規制緩和による物価下落、新産業の創出、ベンチャーの育成、IT革命、インフレ、構造改革、と移り変わってきたのだが・・・。
10.要するに、目下の日本で流行の極みにある市場主義は「20年遅れのサッチャリズム」との感が否めない。しかし、日本の市場が不透明・不自由・不公正であることに鑑みれば、市場主義改革は改革のファースト・ステップのとしては有意義である。
11.ケインズは1926年に『自由放任の終焉』を書いた。レッセフェールという名の古典的自由主義が花咲き実を結んだのは、1840年代から70年代にかけてのイギリスにおいてのことである。「市場主義」と名を変えたレッセフェールの思想が復権を遂げたのは、1970年代末の英米においてのことである。よく誤解されるように、市場主義は決して革新的な思想ではなく、ある種「復古的」思想に他ならない。

1-3 市場が「完全」に近づけば近づくほど「市場の力」が暴力と化す危険性が高まる
12.かつてケインズの言ったこと:市場の「不完全」性(例えば、名目賃金の下方硬直性、市場の摩擦、各主体の予見の不完全性)のゆえに、失業などの「不均衡」が、そして景気循環という「不安定」が不可避であり、「不均衡」と「不安定」を回避するためには、財政金融政策による政府の市場介入が必要にして不可欠である。
13.80年代にサッチャー、レーガン、中曽根氏が積極果敢に推し進めた市場(新保守)主義改革は、市場を「完全」なものに近づけることをねらいとしていた。これは、ケインズの言説の逆手をとってのことだといえよう。しかし、市場が完全なものに近づけば近づくほど、「市場の力」が暴力と化す危険性が高まることを、私たちは90年代後半の経験から学んだ。
14.市場の「暴力」とは?:所得格差の拡大、公的医療・教育の荒廃、資産価格の暴騰・暴落、ヘッジファンドによる短期資本の頻繁な移動に起因する途上国の通貨危機、自由競争の結果が「一人勝ち」に終わること等々。
15.ポスト工業化社会の到来に伴う「一人勝ち」傾向の顕在化:ソフトウェアの業界においては、ウインドウズに例示されるように、市場占拠率がある閾値を超えたソフトウェアが、ディファクト・スタンダードとして市場に「ロックイン」される必然性。優勝劣敗の結果なのか、それとも勝者の幸運の結果なのか?
16.自動車業界などでは、燃料電池車の開発に例示されるように、技術開発における「規模の経済」(収穫逓増)の働きが合併・提携を余儀なくさせる。金融業界についても同様のことが言える。「一人勝ち」が日常化すれば、市場経済の「良さ」の大方が損なわれる。「一人勝ち」(自然独占)の趨勢にどう対処すればよいのか。

1-4 保守の改革とリベラルの改革
17.自由・透明・公正な市場を作れば(市場主義改革を断行すれば)それで万事片づくというのが保守の改革、それを成し遂げた上で、改めて「政府の役割」を見直そうというのがリベラルの改革なのだが、いま必要なのは市場主義改革と「第三の道」改革の同時遂行である。
18.「第三の道」改革のねらいは、「平等」な「福祉社会」をつくることである。ただし、「平等」と「福祉」という言葉の意味の再定義が先立たねばならない。
19.市場の効率性を認めた上で、市場主義改革を推し進めるのだが、その一方で、「平等」な「福祉社会」を目指す、言い換えれば、公正という価値に重きを置く(平等な福祉社会を目指す)「第三の道」同時並行的に推し進める必要がある。


U.平等と福祉のパラダイム・シフト

2-1 市場主義者は「平等」を悪と決めつける
20.70年代後半に入ると、経済学界にも新保守主義改革の荒波が押し寄せ、「平等」は悪であるとする言説が幅を利かすようになった。一般に、経済学の文脈で「平等」とは所得分配の平等を意味しており、累進所得税制と福祉給付による所得再配分に代表される平等志向は、社会の活力を低下させる(効率性を損なう)として批判の的とされるようになった。
21.市場主義者の言う「勤労意欲の源泉は所得格差である」(豊かな者はよりいっそう豊かになろうとして働き、貧しい者は生活苦に鞭打たれて働く)との命題――論証されたことも実証されたこともない「マントラ」に類する命題――の真偽を問い直す必要あり。

2-2 平等な社会とは「排除」される者のいない社会である
22.機会平等で十分だとする保守派に対し、教育による「可能性の平等」(与えられた機会の利用可能性の平等)を実現する必要ありとするのが「第三の道」である。機会が与えられても、十分な教育を受けていなければ、「猫に小判」でしかないからだ。
23.何が「平等」で何が不平等なのか?平等な社会とは異端を「包含」する社会、「排除」される者のいない社会である。「排除」の代表例は失業である。社会の平等・不平等は、公共サービス(教育、医療等々)から「排除」される者がいるかいないか、どれだけいるかによって評価される。
24.例えばアメリカでは、健康保険に未加入の市民が全体の16%を占めている。このことは16%の米国市民が医療サービスから「排除」されていることを意味し、アメリカは不平等な国だということになる。サッチャー時代のイギリスでは、公教育の荒廃により、貧しい家庭の子弟は「良質な教育」から「排除」されていた。

2-3 ポジティブ・ウェルフェア社会の構想
25.これからの福祉:「リスクの共同管理」としての福祉。ポジティブ・ウェルフェア社会の構想。ウィリアム・ベバリッジが掲げたネガティブな福祉の対象をポジティブなものに置き換える:不足を自主性に、病気を健康に、無知を教育に、惨めを幸せに、怠惰をイニシアティブに。
26.「リスクの管理」とは、リスクを最小限にすること、リスクへの自己防衛だけを意味するのではなく、リスクの引き受け手に対して報奨金を供与する等により、リスクのポジティブでダイナミックな面を活用することをも含む。
27.福祉は「依存の文化」というモラルハザードをもたらすと言われる。もともとモラルハザードとは「保険があるのをいいことに、自らの行動様式を変え、保険のリスクを変えてしまうこと」である。したがって、福祉の給付が「依存の文化」を生み出すのは、ネガティブな福祉の場合である。「提供された機会を合理的に利用する」のがモラルハザード本来の意味なのだから、良い意味でのモラルハザードを奨励するポジティブな福祉があってしかるべきである。
28.ポジティブ・ウェルフェア社会においては、生活費の直接給付ではなく人的資本への投資を主眼とする。そうすることによって、福祉のお世話にならなければならない人の数をできるだけ少なくし、ひいてはそれが福祉財政の窮状を救うことになる。


V.日本型システムのアメリカ化は必要なのか

3-1 ポスト工業化が誘う日本型システムの改変
29.平成不況は戦後日本経済「第三の転換点」:工業化社会からポスト工業化社会への移行期すなわち階段の「踊り場」に差し掛かった日本の経済社会。「第一の転換点」はなべ底不況(1957年7月〜58年6月)。「第二の転換点」はオイルショック不況(73年12月〜75年3月)。
30.ポスト工業化社会とはどんな社会なのか:今のアメリカを見ればわかる。@製造業が高度情報技術(IT)を採り入れて生産プロセスと経営プロセスを抜本的に改編し、見事によみがえる;Aソフトウェア産業(金融、通信、映画、情報等々)が経済の中枢部に躍り出る。90年代に入り、ポスト工業化社会に一番乗りしたアメリカ。80年代のアメリカ経済の不振と、90年代に入ってからのアメリカ経済の持続的繁栄の所以はここにあり。途上諸国の工業化との棲み分けでもある。
31.日本型システムは工業化社会向きに「最適」である。だからこそ日本は成功した。しかし、ポスト工業化社会向きには、日本型システムは「最不適」ではなかろうか。
32.以上を要するに、今、日本がポスト工業化社会への移行期にあることが、「今なぜ改革なのか」を説明する第一の理由である。

3-2 日本型システムの改編を不可避とするもう二つの理由
33.第二の理由:「持続的拡大」なくして日本型システムなしなのだが、平成不況が持続的拡大にブレーキをかけたため、日本型システムの見直しが余儀なくされている。
34.第三の理由:日本型システムに巣食う不公正さは許されない。インサイダーにはカムファタブル極まりないが、アウトサイダーにはアンフェア極まりない日本型システム。世界経済における日本経済のプレゼンスが高まるにつれ、アンフェアネスが許容されなくなった。
35.日本型システムの改めるべきは、そのアンフェアな側面であり、その他の側面は是々非々でよいはず。しかし近年、日本経済が持続的低迷から脱するための処方せんとして、日本型システムの「非効率」が指摘され、効率化のためには改革が不可欠であると喧伝されるようになった。91年以降のアメリカ経済の持続的好調がアメリカ型システムの優位性の証とされ、グローバリゼーション=アメリカナイゼーションが効率化のために必要不可欠と目されるようになった。

3-3 経済システムの良し悪しは時代文脈に依存
36.問われるべきは、80年代末に日本のエコノミストの多くは、日本経済の繁栄ゆえに日本型システムの優位(アメリカ型システムの劣位)を語り、今は、まったく逆のことを言うのは何故なのかである。「終わりよければすべてよし」との判断基準なのか。
37.経済システムの良し悪しは時代文脈に依存する。工業化社会の最終段階(電子部品とそれを組み込んだ電子機器を作る;80年代)の時代文脈には日本型システムが、ポスト工業化社会の黎明期(90年代)の時代文脈にはアメリカ型システムが最適だった。
38.21世紀のファースト・ディケードは、ポスト工業化社会の「矛盾」なり「歪み」なり(個人間、国家間の所得格差の拡大、リスクと不確実性の増大、一人勝ち傾向、不正会計の横行、等々)が顕在化する時代になるものと予想される。そうした時代には、いかなるシステムが最適なのか。既存のシステムはいずれも最適とは言えず、時代文脈の変化に適応する新しいシステムの構築が求められる。「変化」を先取りし、それへの迅速な適応を遂げた企業そして国が勝つ。


別紙2.集会基調
2.6集会基調


1.取り巻く情勢の特徴
(1)小泉内閣は公務員叩きを政治方針に掲げ、社会的賃金相場形成に占める官公労働者の位置を明確に意識し、労働分配率の変更を意図した「公務員賃金の削減・給与制度見直し」方針を2年連続で閣議決定し新たな定数削減、賃金抑制方針を乱暴に具体化している。
 財政制度等審議会は2004年度予算編成に向け地方公務員の給与引き下げ、教員の人材確保法の見直しを求める原案を財務大臣に提出した。加えて退職時の特別昇給の見直し、国家公務員宿舎使用料見直し問題、勤務時間中の休息問題など矢継ぎ早である。マスコミを動員した「公務員叩き」は、参議院選挙を視野に納め行財政改革の政治的シンボルとされようとしている。
 一連の攻撃には「政治的な公務員叩き」、情報公開に基づく労使関係当事者に求められる説明責任、勤務条件法定主義からくる宿命的な政治の監視という3つの要素が重なっており、労使関係を超えて、あるいは形骸化させられて事が決められてしまう危険性が増している。現象としては各組合に各個撃破的に定員削減、民営化・独法化、賃金削減、「三位一体」改革、市町村合併、義務教育費国庫負担制度見直し等々、さみだれ的に課題が提起されているが、これらは2000年12月1日の行政改革大綱に基づき系統的に進められており、個別対応では抗しきれず明確な対抗軸を掲げた体系的な方針と取り組みが不可欠である。
(2)12月16日、日本経済団体連合会は経営側の春闘方針書とも言われている「経営労働政策委員会報告」を公表し、新たな発想に立つ賃金制度の再構築が必要と述べ今次労使交渉の具体的な課題を以下のように提起している。 @従来以上に付加価値生産性に準拠して業績を反映した総額人件費管理を徹底していくことA高止まりの賃金水準を国際競争力を保てる適正な賃金水準とすることB年功型賃金システムから能力・成果・貢献度反映の賃金システムへ変更することC一律型賃金管理から仕事や役割に応じた複線的な賃金管理へ転換すること。加えて「一律的なベースアップは論外であり、定期昇給制度の廃止・縮小、さらにはベースダウンの協議対象とすべきであり、短期的な業績向上による成果配分は、賞与・一時金によって従業員に還元する」。とかつての主張「実質経済成長率−就業者の増加率=ベア」を平然と否定している。 さらに、「パートタイマーの待遇に関する労働側の主張に対し」て「職務や雇用管理の実態の同一性を基準に通常の労働者との均等待遇を求めることは、外形的な基準だけで一律的に処遇を求めることになり問題である。」と真っ向から退け、「企業の賃金水準に直接影響を及ぼすのは最低賃金水準であり、最低賃金制は地域最賃だけでよく産業別最賃は廃止すべきである。」と主張している。経営側には遠慮も恥じらいもなくその主張は明確である。
(3)連合は第41回中央委員会で2004春季生活闘争方針を決定した。連合評価委員会最終報告を踏まえ、1)生活制度要求の実現、2)ミニマム運動課題による共闘強化、3)社会的合意形成の促進、4)通年的な取り組みを通じた総合生活改善闘争による「雇用と生活の悪化に歯止めをかけ働き方の改善と労働条件の底上げをはかる闘い」、と位置づけ、連合全体として取り組む5つの運動課題を提起している。即ち@年金改悪阻止を最優先し組合員の全員参加により安心と信頼の年金改革の実現、A賃金カーブ維持を最低限の要求としその獲得をめざす。さらに、生活向上と格差是正を目指す組合は、純ベア要求の設定とその獲得に取り組む。B中小・地場組合の交渉支援と共闘の強化、C労働時間管理の協定化と賃金不払い残業の撲滅、Dパート労働者を含む企業内最賃の協定化等としている。
 派遣労働、パート、臨時などの低賃金の放置は少数の「高所得者」と多数の「低所得者群」へ社会の2極分解を急速に進めており、民間準拠の名の下に公務公共サービス関係労働者の賃金水準にブーメラン効果をもたらしていることを厳しく認識し、公務労協としては連合方針を自らの課題と受け止め連合に結集して取り組みを進めることとする。

2.重点課題と基本的考え方
(1)公務労協は今春季生活闘争の主要課題を、1)賃金水準の確保、賃金闘争の再構築(水準・基準、相場形成、決定方式、給与制度)、2)対抗軸を明確とした「行革・公務員制度改革」に対する取り組み、3)年金社会保障制度改革、4)組織建設の4つとし、これらを一体的にとらえ公務員叩きキャンペーンに効果的に反撃する総合生活改善闘争を推進する。
(2)公務労協と各構成組織は、2004春季生活闘争を中期にわたる新たな取り組みのスタートと位置づける。波状的な公務員叩きに個別的に防衛するこれまでの取り組みから、公共サービスの提供に従事する当該の労働組合として、積極的にあるべき姿を社会的に提示し広く国民的な議論と合意をめざす攻勢的な取り組みへの転換をめざす必要がある。この取り組みは、小さな政府論を掲げた市場万能主義的小泉内閣の公共インフラ解体を許さず、連合が掲げる「活力ある福祉経済社会」実現のために良質な公共サービスを確保・提供する、現実に即した「改革対案」を軸とした中期にわたるものである。
労働を中心とした活力ある福祉経済社会において「必要な公共サービスとは何か、そしてそれはいかに確保されるべきか」を社会的に問い直す取り組みを進めることとし、PSIの良質な公共サービスキャンペーン活動などに学び、中期にわたるキャンペーン行動等の展開、そのための的確なスローガンを確定する。5月に開催する政策制度交流集会に各構成組織の蓄積を集約し、具体的な改革案作りに向けた取り組みの柱として各界の学者、有識者らによる「対抗軸研究会」(仮称)を7月を目途に立ち上げることをめざして準備を進める。
(3)公務員制度改革については03年通常国会に法案が提出されなかった最大の原因が、「手続・手法と改革の名に値しない内容」の両方にあることを指摘し、政府・行革推進事務局に「仕切直し」を求め、01.12.25大綱の抜本的見直し、ILO勧告を踏まえた改革のために、政労協議の場の設置を求める。この政労協議を通じて、透明で民主的な国民の求めに応えた公務員制度改革実現への道筋をつける。具体的には「公務員制度研究会」での改革案取りまとめを始め連合と十分連携し対策本部会議において取り組みを進める。
(4)「社会保障制度の決定の場への労働組合の積極的関与を」を合い言葉とし、税や社会保障、歳出を含む負担と分配のあり方について、多くの国民が安心できる公正でミニマムな分配の保障を構築するため、政策決定の場へ働く者の代表として積極的に関与し、働く者にとって適正な所得再分配の実現に向けて活動する必要がある。
 今次年金制度改革は社会基盤の構造変化を背景としており、改革方針の違いはめざすべき社会像の違いを反映していることから社会像の選択を鋭く問うものとなっている。
 公務労協は上記認識に立って通常国会、参議院選挙の最大争点の一つとなる年金制度改革にナショナルセンター連合に結集し総力で取り組みを進める。そのためにも年金改革シンポジュームの開催、専門家の育成などを系統的に進め、共済制度独自の課題についても必要な取り組みを進める。
 公務労協は組織結成の原点に立ち、公務の労使関係が置かれている社会・政治的条件の変化を踏まえ、納税者・住民への理解を求め、構成組織の積極的な連携、交流を進め180万組合員の統一と団結を固め、中央地方が一体となって取り組みを推進する。
 公務労協は本日2月6日、本集会参加者の総意を持って「中期取り組みの開始を宣言するものである。


別紙3.各単産の報告

<自治労の報告>


1.当面する最重要課題
 自治労の当面の政策課題は多岐にわたるが、大別すると、@地方財政危機と三位一体の改革、A市町村合併や都道府県合併などの地方行政制度改革、B構造改革特区や地域再生、地方独立法人制度や指定管理者制度などの規制改革と行政のアウトソーシングの三つである。
2.政府及び自治体当局等の方針と問題点
(1)地方財政危機と三位一体改革
 2003年度末で国、地方合わせた長期債務残高は、695兆円(地方199兆円)であり、2004年度予算では719兆円(地方204兆円)が見込まれており、政府は三位一体改革に名を借りた交付税削減を目論んでいる。このため、2004年度予算では、交付税と臨時財源対策債を合わせて11.9%削減されることから、自治体当局は、このままでは予算が組めないとして、人件費削減攻撃を強めている。
(2)地方行政制度改革
 このまま市町村合併が推移すれば、市町村の数は1,900くらいに再編される見込みであり、今通常国会で新たな市町村合併推進法(仮称)と都道府県合併のための地方自治法改正が準備されており、政府は強引に抜本的な自治体再編を進めようとしている。
(3)規制改革と行政のアウトソーシング
 政府規制改革会議、経済財政諮問会議と中心に、公共サービス部門の規制改革、民間開放、自治体経営手法の多様化等の動きが加速している。構造改革特区や地方独立行政法人制度、指定管理者制度、自治体株式会社などは、地方分権や市民自治、行政サービスの効率化の推進といった側面もあるが、コスト論と競争政策を主眼としたこれらのアプローチは、持続可能な社会の基盤としての社会的規制を脅かし、地域公共サービスの質の低下や持続可能性への信頼感を低下させている。
3.自治労の基本的考え方
 自治体は、市民生活と地域社会のあらゆる活動に関する多岐にわたる公共サービスの提供に責任を負い、市民の生命と健康、人権と安全を守り、生活・経済・社会インフラを維持し、これらにかかわるサービスを提供している。
 このため自治労は、税源移譲を中心とする真の三位一体改革と国から自治体への権限移譲や必要な制度改革により市民自治の分権社会を実現し、地域社会や市民生活の質の向上と公共サービスの質と水準、労働者のディーセントワークの確立をめざしている。
4.今後の取り組み
 これまで取り組んできた「職場の仕事を通じて、行政や公共サービスのあり方を検討し、自分達の仕事を問い直す自治研活動」や「分権自治を自治体・公共サービス内部、担い手の立場から実践し、改革するための自治体改革運動」をさらに強化し、QPSグローバルキャンペーンと連動して、公共サービスの社会的役割やその意義、存在の再評価と、公務員の身分を持つ労働者、非常勤労働者、民間の労働者、NPOなど公共サービスに従事する労働者の賃金や労働条件の社会的格差の解消をはかる。
そのため連合・公務労協に結集し、今春闘を全ての地域で先頭に立ってたたかう。



<日教組の報告>


1.当面する最重要課題
  日教組の当面する重要課題は、教育基本法、教育改革、義務教育費国庫負担制度、教職員賃金などである。市場万能主義の小泉構造改革により教育が大きく変えられようとしている。その特質は、「公的分野・公益的分野」を縮小し「私的分野・私益分野」への移行であり、市場化をすすめつつ国家主義を胚胎させ、知識社会にふさわしい市民共生の原理を創出する改革の視点を決定的に欠落させている。公教育は危機的状況にある。
2.政府の方針と問題点
(1)「教育改革」 学校選択の自由の拡大、学校教育への株式会社参入、公設民営化の導入などがすすめられている。平等・社会的公正から差別化、社会格差の拡大が危惧される。
(2)「義務教育費国庫負担制度」 政府は、「三位一体」改革で、義務教育費国庫負担制度(以下義務負担制度と言う)の見直しを焦点化している。現在の議論は『財政論』のみであり、『教育論』からの検討がなされていない。
(3)「教職員の賃金」 国立大学法人化に伴ない、地方公務員の教育職員賃金は国準拠規定が削除され、各都道府県ごとに決定されることとなった。また、人事評価制度の導入と処遇への反映をすすめる動きが広がっている。
3.日教組の基本的考え方と今後のとりくみ
(1)教育の価値を経済政策への従属から絶ち、人間の真のゆたかさを支えるものと位置付ける。公教育の市場化・民営化反対、教育基本法堅持に向け一大国民運動を展開して行く。子ども、保護者、地域住民や連合の仲間との連携を密にし、教育現場を中心に「教育改革」をすすめていく。開かれた学校、学校協議会の設置、学校裁量拡大などにとりくむ。
(2)義務教育の推進に「義務教育費国庫負担制度」は必要不可欠である。
・義務教育は、一人ひとりの子どもが人間らしい生活ができるための国民として必要な基礎的資質を培うものであり、憲法の要請にもとづき国の責務として設けられたのが義務負担制度である。「生きる力」「確かな学力」を育むため義務教育の充実が一層求められており、地方分権の推進を阻害するものではない。
・OECD生徒の学習到達度調査などからも、日本の義務教育水準は世界的に高い評価を受けている。標準定数法、義務負担制度がこの日本の教育を支える原動力になっている。
・義務教育費国庫負担金を都道府県に全額住民税で移譲した場合、現在額が確保されるのは9都府県のみで38道県は財源不足となる。税源の偏在性などから必要な財源が確保されるか危惧される。義務教育の水準格差が生まれ、「受益と負担」の関係から地域住民に、より重い負担を課せることにもつながる。
・義務負担制度堅持に向け、意義・役割を広く訴える運動を組織の総力をあげてとりくむ。
(3)全国的な賃金水準の確保、諸手当などの支給要件と率・額を維持する必要がると考える。当面、教職の給料指標の作成に向け関係方面への働きかける。また、公務員制度改革と公立学校教職員賃金の見直しに向け、組織内検討と討議、公務労協・公務員連絡会との連携、文科省との間で協議の場を設け、全人連等への働きかけなどにとりくむ。



<国公連合(全駐労)の報告>


 駐留軍労働者(25,000人)は、「在日米軍が任務遂行に必要な労働力は、日本国の援助を得て充足される」と明記された地位協定を受けた関連規定によって、日本政府が雇用主・使用者は米軍という間接雇用方式の下にあります。また、駐留軍労働者は、法律174号において、公務員法の適用除外となり、形の上では、労働三法の適用下にあります。
 しかし、雇用主である防衛施設庁は、地位協定3条に基づく米軍の基地管理権によって、基地内への出入りが規制されており、提供労働者の就労実態の把握さえ不充分な上、すべての人事措置も米軍の同意を必要としているため、雇用責任者としての主体的な役割を果していない実態にあり、現行の地位協定ならびに関連規定は、駐留軍労働に大きな障害となっております。
 よって、私達は、@雇用主の労務管理体制・責任体制の明確化 A国内法令遵守の徹底、B労働基本権の尊重、適正な労働関係の確立のため、以下の地位協定の改訂・見直しを求めています。
要求1(第3条関係)
 「合衆国軍隊は、日本国政府が、駐留軍労働者に係わる公務を遂行するうえで、基地への立入を求めた場合には制限しないことに同意する旨を明記すること。」
要求2(第12条5項関係、駐留軍労働者の雇用条件)
 「・・・相互間で、別段の合意をする場合を除くほか、賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働の条件、労働者の保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない」の条文中、罫線部分を削除し、国内法令遵守の徹底をはかること。
要求3(第12条に「項」を新設 雇用条件決定権限)
 駐留軍労働者の賃金・労働条件は、法律174号において「・・・生計費並びに国家公務員及び民間事業の従事員における給与その他の勤務条件を考慮して、施設庁長官が決める」となっているが、この内容を日米地位協定で条文化し、雇用主・防衛施設庁長官は、主体的権限を持って、団交当事者としての責任が果たせる体制を確立すべきである。
要求4(第12条6項 裁判所・労働委員会の決定)
 「合衆国軍隊又は、適当な場合は、第15条に定める機関により労働者が解雇され、かつ、雇用契約が終了していない旨の日本国の裁判所又は労働委員会の決定が最終的なものとなった場合には、次の手続きが適用される。(a) 日本側から通報、(b)合衆国側は、暫定的に就労拒否可能、(c)事件の解決方法を日米間で遅滞なく協議、(d)協議開始から30日の期間内に解決できなければ、当該労働者は、就労することができない。―――。」(要約)を改正し、日本国の裁判所又は労働委員会の最終決定に服する旨を明記すること。
 以上の4要求を含む日米地位協定の改訂に向けた連合見直し案は、全駐労、15地方連合会で構成する「日米地位協定の抜本見直しに向けた対策会議」で検討され、1月16日開催の連合第4回中央執行委員会で了承されました。連合としての政府への要請や実現に向けた世論づくりの取り組みは、これからですが、雇用・労働条件に直接関わる当該労働組合として、公務労協をはじめとする連合傘下各産別のご理解と・ご協力をいただきながら、日米地位協定の改訂・見直しの取り組みに精一杯取り組んでまいります。



<全郵政の報告>


 2003年4月、日本郵政公社が発足しました。
 日本郵政公社は、経営ビジョンとして「真っ向サービス」「健全な経営基盤」「明るい将来展望の持てる働きがいある公社」を掲げて、行政型からサービス型の事業運営を行うという視点で公社の枠組みを作り上げ、職員の意識改革も進みつつあります。これからは、その枠組みを意味あるものとするために、官庁型の文化を改め、全郵政自らが公社としての新しい文化をつくり上げることに積極果敢に挑戦する必要があると認識しています。

 しかし、事業環境は非常に厳しく、特に、郵便事業においては、組合員の懸命な営業努力によりゆうパックの取扱量は増加しているものの、第一種、第二種郵便物はITの進展やメール便との競合により予想以上の減少となっています。郵便貯金事業は、既存の高利回り資産に支えられ、一見順調そうに見えますが、中期的には運用面を中心に様々な課題を抱えております。簡易保険事業も同様に運用面の問題に加え、保険市場動向の変化の影響を受けて新契約が対前年比20%以上減少という深刻な局面にあります。
 このため、国民との約束である中期経営目標を確実に達成するために、アクションプランを策定し、中期経営計画を前倒しすることにより、公社の健全な経営基盤を作り上げようと取り組んでいます。アクションプランにおいては、サービス品質の向上、お客さまニーズへの対応等の具体的行動計画を定めるとともに、労働組合にとって非常に大きな課題である効率化の推進についても示されました。
 私たち全郵政は、事業発展と雇用確保のためにはアクションプランに積極的に挑戦していくことが必要との認識で対応し、コスト削減のみならず拡大再生産のための事業運営を求めてきました。
 さらに、第一線の郵便局で働く組合員の声を「増収をめざした郵便営業に関する提言」として取りまとめ、郵便事業の未来を切り拓き、拡大再生産の道筋を歩むことが重要との認識で公社に対して提出し、実現を求めているところです。

 一方、小泉総理は長年の持論である「郵政民営化」を構造改革の本丸として強調しています。小泉総理は、「経済財政諮問会議」で郵政民営化を議論することとし、その検討を円滑に行うために「郵政民営化連絡協議会」を設置し、「郵政三事業の在り方について考える懇談会」で出された「民営化の三類型」を基本として検討を行っています。その中で、2004年春頃に中間報告を出し、秋頃には最終報告を出す予定としています。
 私たち全郵政は、今回の民営化問題に対し、国民生活向上の観点からの議論が必要であり、郵政民営化が国民にとってマイナスになることは許されないと考えています。したがって、金融論を中心とし、「国益」の視点に立って、経営形態を含め「郵政事業のあるべき姿」を考究していきます。検討にあたっては、竹中五原則も意識しつつ、第一に日本経済活性化のため、第二に国民のセーフティネットとして、郵政事業がどうあるべきかを検討し、日本の明るい未来づくりに役立つ公社文化の創造のため、全力で運動展開することとします。



<都市交の報告>


1.「経済は市場メカニズムに任せ、社会は自立・自助を基本に、政府はできるだけ小さく」と いった構造改革路線のもと、中央・地方において公務・公共部門の「官から民へ」といった施策が荒っぽく進められている。公営交通も例外ではなく、業務の民間委託や路線の民間移譲、さらには事業そのものまで廃止・民営化といった攻撃が大都市・中小都市の別なく強まり、そのスピードも早まっている。とりわけバス事業において激化しており、この3年間で事業を廃止し、もしくは廃止を決定した団体は5団体に上る。

2.この間、バス、地下鉄とも利用者は減少し、とりわけバス利用者は高成長初期のピーク時に比べると半分以下に落ち込み、いまなお減少傾向に歯止めはかかっていない。独立採算制を原則とする公営交通事業にとって、利用者減はそのまま経営の危機に直結し、何れの事業体も多額の累積赤字を抱えながら厳しい経営を余儀なくされている。さらに、規制緩和の推進による運輸行政の大転換と地方自治体の財政危機という外部要因も加わり、経営環境はますます厳しさを増し、これが公営交通事業の廃止・民営化の大きな背景となっている。

3.いま、交通事業のあり方を検討するため審議会や検討委員会等を設置し、交通事業の見直し論議を進めている自治体は少なくない。
  これらの審議会や検討委員会で共通していることは、ことさら公営交通の「非効率性」や職員給与が民営に比べて高いことが強調されるといった財政的視点での論議ばかりで、地域の生活交通を確保するための行政の責任や公営交通が果たすべき役割等については、ほとんど取り上げられていないか、取り上げても総論止まりの論議となっていることである。

4.地域の生活交通は、教育、福祉、医療、水道等々と同様に市民生活の基盤を支える重要な公共サービスの一つである。従って生活交通を確保する責任は、国及び自治体にあることはいうまでもない。この立場から都市交は、特に今日的課題である自然環境保全やバリアフリー対策といった側面を重視し、公営交通こそがその分野で先駆的な役割を果すべきであるとして、環境にやさしい車両、移動制約者にやさしい施設改善などに積極的に取り組んできた。また、より重要な基本的課題として、地域交通のあり方を事業者任せにするのではなく、都市政策・都市計画の中に交通政策・交通計画を組み込み、行政の責任で住民の生活に欠かせない生活交通を維持・確保させる取り組みを進めている。

5.都市交は、20数年前に「乗せる者の論理から乗る者の論理へ」と政策転換を図り、地域住民・利用者の立場に立った交通政策要求を掲げてこれまで運動を進めてきた。私たちの事業は、常に民間事業者と直接比較され、「明確な経営責任」「効率性」「迅速で弾力的な意思決定」「多角的広域的経営」等々の面で民間事業者に比べて劣るとの指摘がある。私たちは、それらの指摘をすべてそのまま認めることはできない。しかし、それらの指摘も含めて、ハードとソフトの両面でより質の高いサービスの提供なくして、住民の足を守り、自らの職場と雇用を守ることはできない。都市交は、このことを基本方針とし、地域住民・利用者に信頼され、必要とされる公営交通の維持・存続を最重要課題に据えて運動を進めている。

以上