人事院は、15日午前9時すぎから内閣と国会に対して@本年の給与改定に関する勧告A給与構造の見直しに関する勧告・報告などを行った。
政府はこれを受けて9時30分から第1回目の給与関係閣僚会議を開き、勧告・報告の取り扱い方針を協議した。この中で総務大臣や厚生労働大臣は「人勧制度尊重の基本姿勢に立ち、勧告通り実施すべき」との発言を行ったが、財務大臣は「慎重な検討」を主張し、この日は結論が得られなかった。次回の給与関係閣僚会議は総選挙後に持ち越されることとなるが、日程は未定である。勧告・報告の取り扱い方針は、この秋に予定されている総人件費削減の基本指針の策定状況(経済財政諮問会議の審議状況)も踏まえながら検討を進めることとなる。
公務員連絡会は、人事院勧告が政府・国会に提出されたことを受けて、本年の給与改定に関する勧告は「やむを得ないと判断する」が、地域給与・給与制度見直しに関する勧告・報告は、その内容からして「到底認めることはできず」、「納得が得られないまま、勧告・報告に踏み切った人事院に対して強い怒りと抗議の意を表明する」との声明(資料1)を発した。そして、委員長クラス交渉委員が、厚生労働大臣、総務大臣、官房長官などの給与関係閣僚に@給与改定に関する勧告は勧告通り実施することA地域給与・給与制度見直しに関する勧告・報告は実施見送りの態度決定を行うこと、などを求める要求書(資料3)を提出した。
また、公務員連絡会は、本日の人事院勧告を踏まえ、16日から18日にかけて職場集会を中心とした第5次全国統一行動を実施し、人事院に抗議文を送付する行動、政府に要請文を送付する行動などを実施することとしている。
公務員連絡会としては、まずは当面の総選挙の勝利に全力を挙げ、その後の政治情勢を踏まえながら、政府に対する取り組みや地方確定闘争などの秋季確定闘争に全力を挙げることとしている。
給与関係閣僚に対する要求提出の経過は次の通り。
<総務大臣申入れの経過>
麻生総務大臣への申入れは、午前10時50分から、丸山議長ほか委員長クラス交渉委員が出席して行われた。
冒頭丸山議長は、次の通り要求提出の趣旨を説明した。
(1)本年の給与改定に関する勧告については、月例給のマイナスについて不満が残るが、民間賃金の動向や人事院勧告が労働基本権制約の代償措置であることを踏まえ、われわれはこれを勧告通り実施すべきものと考えている。
(2)しかし、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告については、われわれが強く反対したにもかかわらず、@公務員の生活だけでなく地域経済にも大きな影響を与える俸給表の5%引下げが行われたことA新たな評価制度の整備が行われないまま、労使関係のあり方の基本に関わる勤務実績反映の給与制度見直しが打ち出されたこと、などからして、到底認めることはできない。措置案が提案されてからたった3ヶ月の話し合い期間しかなく、しかも公務員の理解と納得が得られないまま勧告・報告が行われたことについて、われわれは強い憤りを感じている。大臣におかれては、公務員の使用者としての政府の責任において、われわれと十分交渉・協議を行い、慎重の上にも慎重に内容を検討頂き、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告の実施を見送る態度決定を行うよう求める。
(3)さらに、総務省において、現在、退職手当制度の見直しの検討が行われているが、われわれとしては現下の厳しい情勢を十分踏まえ、見直しは慎重に対応すべきことを申し上げている。内容についても、現在協議中であるが、是非、われわれの意見を反映したものとなるようご努力頂きたい。
(4)また、先に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」は、この秋にも総人件費改革の基本指針を策定するとしているが、われわれは、定員の削減自体を自己目的化し、公共サービスの切り捨てにつながる内容の指針には、強く反対する。基本指針の策定に当たっては、まずどのような公共サービスをおこなうのかの国民的な議論を行い、その政策を固めた上で、検討すべきものと考えており、「まずはじめに総人件費の削減ありき」のような、単なる財政の論理から行う議論ではないと考える。いずれにしろ、総人件費のあり方が勤務条件に大きな影響を与えることを踏まえ、われわれと十分交渉・協議することを強く申し入れる。
(5)政府が勧告に対する態度決定を行う前に、大臣から要求書に対する回答を示してもらいたい。
これに対して大臣は、「本日、勧告を受け取り、第1回目の給与関係閣僚会議を開いて検討に着手した。本日は結論を得るに至らなかった。次回については総選挙もあり未定。政府としては、労働基本権の代償措置である人事院勧告制度尊重の基本姿勢に変わりはない。総務省としては、財政事情や公務を取り巻く情勢は厳しいが、勧告通り実施するよう努力したい。地域給与はなかなか難しい問題もあり、いろいろやり方もあるだろうが、みなさんの意見を十分伺いながら検討していきたい」と、総務省として勧告通り実施する方向で検討したいとの検討姿勢を述べた。
<厚生労働大臣への要求書提出の経過>
総務大臣に先立ち、午前10時40分から尾辻厚生労働大臣への要求提出が行われ、これには人見副議長ほか委員長クラス交渉委員が対応した。
要求書提出に当たって人見副議長は、@本年の給与改定は勧告通り実施すべきだが、A地域給与・給与制度見直しの勧告・報告の実施は見送るよう努力してもらいたい、と要請した。
これに対して大臣は、「申入れの趣旨は承った。今朝の第1回給与関係閣僚会議で、本年の勧告は人事院が現下の経済・雇用情勢を踏まえて慎重な検討の上に出されたものだと認識しており、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告制度を維持・尊重する立場に立って、勧告通り実施すべきと申し上げたところである。いずれにしろ勧告・報告の検討に当たっては組合の意見を十分聞くことが重要だ。本年の人勧の取り扱いは、経済財政諮問会議における総人件費改革の基本指針策定に向けた議論も考慮しつつ、人勧制度尊重の基本姿勢のもと、十分議論を尽くしていくべきと考えている」との見解を示した。
<官房長官への要求書提出の経過>
細田官房長官への要求提出は、同日午後3時50分から官邸で行われ、丸山議長ほか委員長クラス交渉委員が出席した。
冒頭丸山議長が要求書の趣旨を説明したのに対して、官房長官は「本日皮切りの閣僚会議を開いた。今後多少時間をかけて政府部内で調整したい。地域給与については、大都市は民間に比べて公の方が不利かもしれないが、地方は高い。いずれにしろ、難しい問題なので調査内容をよく吟味して検討していきたい。経済財政諮問会議や国会の意見は厳しい。全体の流れを見極め、慎重に検討していくが、その際、皆さんの要望は十分踏まえながら対応していきたい」と、今後慎重に検討していくとの見解を示した。
資料1−公務員連絡会の声明
声 明
1.人事院は、本日、月例給を0.36%引下げ、一時金を0.05月引き上げる本年の給与改定に関する勧告と地域給与・給与制度見直しに関する勧告・報告を行った。
2.2005人勧期の取り組みは、依然として公務員給与バッシングの嵐が吹き荒れ、政府・与党が公務員の総人件費削減を財政再建や増税政策を推し進めるスケープゴートとして位置づけるという極めて厳しい情勢のもとでの取り組みとなった。
こうした情勢のもとでわれわれは、本年の人勧期の取り組みを「前半期」と「後半期」の2つに区分し、前半期においては、本格的に人勧期闘争を進めるための条件整備の取り組みを全力で進めてきた。その結果、6月21日の骨太方針2005で政府が、当面、人事院勧告制度の枠組みを維持するとの方針を固めたことを受け、地域給与・給与制度見直しを中心とした後半期の闘いを進めることとした。
そして、6月23日の要求提出の際、人事院総裁から“現行の公務員給与の水準を確保するための企業規模など官民比較方法の基本に関わる事項は変更しない”との見解を引き出し、@公務員労働者の給与水準を維持・改善する給与勧告を実現することA俸給表水準を引き下げる地域給与見直しではなく、合意できる見直し案を再提案することB新しい評価制度が整備されるまでは拙速な勤務実績反映の給与制度見直しを行わないことC育児・介護を行う職員の短時間勤務制度導入の意見の申出を行うこと、などを重点課題に設定し、近年にない規模の5次の中央行動や様々な全国的な行動を実施し、それを背景に人事院との交渉・協議を最終盤までねばり強く進めてきた。
3.本日の勧告・報告のうち、本年の給与改定に関する勧告については、月例給がマイナスとなったことは不満ではあるが、民間賃金の動向や人事院勧告が労働基本権制約の代償措置であることを踏まえれば、やむを得ないものと判断する。
しかし、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告については、われわれが強く反対したにもかかわらず、@公務員の生活だけでなく地域経済にも大きな影響を与える俸給表水準の4.8%引下げが行われたことA新たな評価制度の整備が行われないまま、給与決定や労使関係のあり方の基本に関わる勤務実績反映の給与制度見直しが打ち出されたこと、からして到底これを認めることはできない。これだけ大きな制度見直しにもかかわらず、十分な説明もなく、最も影響を受ける地域の公務員の納得が得られないまま、勧告・報告に踏み切った人事院に対して強い怒りと抗議の意を表明する。
勧告を巡る情勢が緊迫した段階で設定した“影響を最小限に止めるための重点ポイント”については、@「当分の間」地域を含め地域手当の指定地域を極力拡大させたことA号俸延長の実現や55歳定昇ストップ措置を廃止させたことB本府省手当の実施を先送りさせたことC一般職員の査定昇給を先送りさせ、勤勉手当の標準者の成績率の引下げを行わせなかったことD「現給保障」を実施させたこと、などが確認できる。これらは、終始基本姿勢を堅持し、最終盤ギリギリの段階までねばり強く進めた交渉・協議の結果である。
昨年報告した両立支援策の残された課題であり、組合員が強く期待した育児・介護を行う職員の短時間勤務制度の意見の申出が先送りされたことについても、極めて不満といわざるを得ない。時代の要請に応えず、従来の定員管理の方法と権限にこだわった総務省行政管理局の姿勢を強く批判するとともに、人事院には、雇用形態の違いによる格差解消にも資する短時間勤務制度の一刻も早い実現を強く求める。
4.以上のことから公務員連絡会は、今後、政府に対して、本年の給与改定に関する勧告については勧告通り実施することを求めていくが、地域給与・給与制度見直しに関する勧告・報告については、公務員の使用者としての責任においてわれわれと十分交渉・協議を行い、この実施を見送る方針決定を行うよう求めていくこととする。
さらに、これから本格化する地方自治体の確定闘争や独立行政法人、政府関係特殊法人等の闘いにおいても、人事院勧告が行われたという厳しい情勢を踏まえ、公務員連絡会の地域給与・給与制度見直しに対する基本方針を堅持し、統一闘争体制のもとに全力で取り組みを進めることとする。
総選挙後の政治情勢の中で取り組まれる本年の確定期の取り組みは、極めて厳しく、かつ不透明なものとなることが想定される。
われわれは、この秋にも策定される「総人件費改革のための基本指針」において、人事院勧告制度の枠組みを超えた給与水準の引下げ方針や、定員削減を自己目的化し、公共サービスを切り捨てる方針が盛り込まれることについては、強く反対していかねばならない。同時に、われわれは、労働基本権の確立を含む公務員制度改革の取り組みを引き続き強力に推し進めていかなければならない。
今回の総選挙は、郵政民営化阻止を含め、市場万能主義に基づく「小さな政府」作りや公共サービス切り捨ての小泉構造改革路線に「NO」を突きつけ、国民生活と社会に安心・安定をもたらす政権作りの絶好のチャンスである。公務員連絡会の各構成組織は、公務労協や連合に結集し、まずはこの総選挙闘争の勝利に向け全力で闘い抜く決意である。
2005年8月15日
公務員労働組合連絡会
資料2−連合事務局長談話
2005年8月15日
人事院勧告に対する事務局長談話
日本労働組合総連合会
事務局長 草野 忠義
1.人事院は15日、政府と国会に対し、国家公務員の給与についての勧告を行った。本年度の給与改定については、月例賃金を1,389円(0.36%)の引き下げ、一時金は年間4.45月(昨年実績対比0.05月増)とする内容である。
人事院の民間賃金調査にもとづく官民比較結果によるものと受け止めざるをえないが、これから賃金改定を行う中小、地場、未組織の民間労働者への影響が懸念される。
2.今回の勧告は、給与制度見直しについても行われた。その主なポイントは、@俸給表を5%程度引き下げて地域手当等に再配分することで、地域間の賃金に格差をつける、A昇級制度を見直し、勤務成績の反映を強める、などである。
このことは、公務員給与制度の根幹に関わる大きな改正であり、職員団体との協議が尽くされていないばかりか、地域の中小、地場、未組織の労働者と地方公務員の賃金決定に重大な影響を与える恐れがあることから、拙速な勧告といわざるをえない。政府は、この給与制度見直し勧告を受けて、直ちに国家公務員の関係職員団体との十分な協議を行う必要がある。
3.連合は、今回の人事院勧告が今後の賃金改定に影響し、小泉構造改革のもとでの格差拡大の流れが更に加速されることを強く懸念する。また、公務・公共サービスの役割と公務の労働諸条件のあり方など、幅広い国民的議論をしようともせずに、政治の圧力で公務員の総額人件費削減のみを強行することは許されない。
連合は、公務員の労働基本権回復の取り組みを強めるとともに、公務員制度等改革対策本部で今後の対応を協議する。
以上
資料3−政府への要求書
2005年8月15日
殿
公務員労働組合連絡会
議長 丸山 建藏
本年の人事院勧告・報告に関わる要求書
常日頃、公務員労働者の処遇改善にご努力頂いていることに心から感謝申上げます。
さて、人事院は本日、本年の給与改定のための勧告と地域給与・給与制度見直しの勧告・報告を行いました。
本年の給与改定に関する勧告については、月例給のマイナスについて不満が残りますが、民間賃金の動向や人事院勧告が労働基本権制約の代償措置であることを踏まえ、勧告通り実施すべきものと考えます。
しかし、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告については、われわれが強く反対したにもかかわらず、@公務員の生活だけでなく地域経済にも大きな影響を与える俸給表の引下げが行われたことA新たな評価制度の整備が行われないまま、労使関係のあり方の基本に関わる勤務実績反映の給与制度見直しが打ち出されたこと、などからして、到底認めることはできません。貴職におかれては、公務員の使用者としての責任において、われわれと十分交渉・協議を行い、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告の実施を見送る態度決定を行うよう要求します。
また、先に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」は、この秋にも総人件費改革の基本指針を策定するとしていますが、われわれは、定員の削減自体を自己目的化し、公共サービスの切り捨てにつながる内容の指針には、強く反対します。基本指針の策定に当たっては、総人件費のあり方が勤務条件に大きな影響を与えることを踏まえ、われわれと十分交渉・協議することを強く申し入れます。
以上のことから、下記事項の実現に向けて最大限努力されるよう要請します。
記
1、本年の給与改定に関する勧告については、勧告通り実施すること。
2、地域給与・給与制度見直しに関わる勧告・報告については、われわれと十分交渉・協議のうえ、その実施を見送る方針決定を行うこと。
3、定員削減自体を自己目的化し、公共サービスの切り捨てにつながる公務員の「総人件費改革のための基本指針」の策定を行わないこと。
以上