2006年度公務労協情報 25 2006年2月8日
公務公共サービス労働組合協議会

雇用と公共サービスの確立を求めて2.7中央集会
−総人件費削減、行革推進法案、市場化テスト法案への闘いの強化決意−

 公務労協は、7日午後6時30分から、日比谷大音楽堂に全国の仲間4,000人が参加し、「国民生活の安定、安全・安心を支える良質な公共サービスと雇用の確立を求める2.7中央集会」を開催した。この集会は、政府の総人件費削減計画の具体化、行政改革推進法案や市場化テスト法案の作成作業が一方的に進められる情勢のもとで、国民生活の安全・安定を支える公共サービスと雇用の確保を求めて闘いに決起する意思を固める意味で行われたもの。同日の午後には、「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」が取りまとめた「中間報告」も発表され、それにもとづく公共サービスキャンペーンを繰り広げ、小泉構造改革に対決し反転攻勢に向けて闘う意思も確認された。
 集会の冒頭挨拶に立った岡部議長は、「小泉構造改革のほころびがあらゆるところで出はじめている。本日、研究会から中間報告も頂いた。連合も公共サービスや公務員制度についての考え方を取りまとめ、全労働者の課題として取り組む方針を決定した。あとは、いよいよわれわれがどのような運動をやるかにかかっている。文字通り、この集会を反転攻勢の場として位置づけ、悔いない闘いを全力で繰り広げよう」と、小泉構造改革に対決し反転攻勢に打って出ることを呼びかけた。
 続いて激励挨拶に駆けつけた古賀連合事務局長も「小泉構造改革によって国民の安心、安全が脅かされている。連合は、2006春闘でパートの賃金改善や組織化に全力を挙げるとともに、連合の考え方に基づき公務員の労働基本権確立をはじめとした公務員制度改革に全力を挙げる」と、連合としても公務員制度改革と公共サービスの確保に向け全力を挙げるとの決意を表明した。
 続いて民主党の輿石参議院幹事長、社民党の又市幹事長が登壇し、国会において小泉構造改革−国民負担増・公共サービス切り捨て政策の問題点を徹底的に追及するとの決意を述べた。この集会には、民主党から加藤敏幸参議院議員(党労働局長)、神本美恵子参議院議員、辻泰弘参議院議員、水岡俊一参議院議員、峰崎直樹参議院議員、佐藤泰介参議院議員(秘書)、高嶋良充参議院議員(秘書)、社民党からは菅野哲雄衆議院議員、重野安正衆議院議員、日森文尋衆議院議員が駆けつけた。
 集会はこの後山本事務局長が、@3.14に再度5千人規模の決起集会を開催し3大臣との政労協議を開催して雇用確保や公務員制度改革についての要求実現を目指すA全組合員と家族を対象に300万人署名行動を実施するB研究会中間報告の全組合員を対象とした学習会を組織する、との方針を提起し、満場の拍手でこれを確認した。
 決意表明には、国公総連平田中央執行委員、全印刷滝野川支部渡辺青年女性対策部長が登壇し、闘う決意を表明した。
 最後に、日教組中村書記長が提案するアピール(資料1)を採択、団結ガンバロウで集会を締めくくった。

 翌8日には早朝から各構成組織の代表が衆参国会議員のすべての議員会館の部屋を訪ね、要請書と研究会中間報告を手交しながら、雇用と公共サービス確保の闘いへの支持と協力を要請した。

公共サービス研究会が「中間報告」を発表−2.7シンポジウムで

 2月7日、「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」(主査:神野直彦東大大学院教授)の中間報告発表のシンポジウムが15時30分から池之端文化センターで開催された。このシンポジウムは公共サービス研究会中間報告「公共サービスの再生と刷新で『不安社会』からの脱却を〜安心を保障する有効な政府のために〜」(資料2−「中間報告」要旨参照)というタイトルで、約30ページのブックレットがこの日刊行されたことにあわせ、研究会と公務労協の共催で行ったもの。
 シンポジウムは研究会幹事の宮本太郎北大大学院教授より、中間報告の本章である1〜3章までが発表・説明され、ついで小川正浩研究会専門委員から緊急提言部分が説明された。この提起を受けて公務労協側より、中間報告を受けての公務労協の当面の取り組みが提起され、当面この中間報告の内容を幅広く国民に拡げ、学習会などを全国で展開するなどの取り組みを確認した。会場は一般参加者やマスコミ関係者も参加して満員となり、この日の発表への期待感と高い関心を呼んでいることが明らかとなった。なお、翌8日には、国会内で民主党公務員制度調査会主催の、中間報告発表の特別講演会が、研究会主査である神野直彦東大大学院教授を招いて開催され、その後神野教授による記者会見発表が行われた。この記者会見には連合古賀事務局長も同席し、連合としてもこのこの研究会報告をふまえしっかりと公務員制度改革、公共サービスの再生・刷新に取り組むことを表明した。

 なお、「中間報告」のブックレットは各構成組織を通じて入手されたい。


(資料1)
アピール


 公務労協は、2004年秋以来、連合の支援・協力の下に「良い社会をつくる公共サービス確立キャンぺーン」に取り組んできました。
 一方、小泉内閣は「小さな政府」のかけ声のもと、公務・公共サービスを解体する政策を進めています。小泉内閣が進める「小さな政府」とは、市場原理万能主義に基づく規制改革の徹底や、行政業務の民間開放による企業参入の自由化と人件費の削減、医療・介護・年金等社会保障費の抑制など、徹底した歳出削減にあります。
 しかし、最近の耐震構造偽装事件、米国産牛肉の輸入協定違反事件、ライブドアの証券取引法違反事件等にみられるように、小泉内閣のこうした政策は、事実として国民の安心と安全を脅かしていることが明らかになり、国会での厳しい追及や国民の強い批判を浴びています。
 政府は昨年12月24日、公務員定員の5%以上の純減や賃金削減を内容とする「総人件費改革の実行計画」などを「行政改革の重要方針」として閣議決定しました。政府の責任と役割、公共サービスの質と量および提供主体のあり方について十分な議論を抜きに、定員削減を自己目的化した人件費削減は本末転倒です。
 雇用の確保や公務員制度改革について、関係三大臣と連合・公務労協との協議の場が設置されましたが、政府は、「行政改革の重要方針」をそのまま行政改革推進法として法制化しようとしています。また、公共サービスを営利追求の対象とする市場化テスト法案を通常国会に提出しようとしていますが、市場化テストは、サービスの質や水準の担保がなく、重大な雇用問題を引き起こすことは明らかです。
 行政サービスにおいて、安定供給、市民のコントロール、従事者の雇用・労働条件の確保が必要です。
 私たちは、政府の総人件費削減や公的部門の縮小を内容とする行政改革推進法案、市場化テスト法案の国会提出に反対し、公共サービスと雇用の確保のため全力で取り組みます。
 私たちは、三大臣と連合・公務労協の政労協議の実効確保を求めるとともに、労働基本権の確立、公務員賃金のあり方について引き続き社会的合意を再確立する取り組みを進めます。
 私たちは、連合の2006春季生活闘争方針に結集し、賃金の底上げ、格差解消と均等待遇の実現を自らの課題と位置づけて積極的に取り組みます。
 公務労協は、連合が掲げる「活力ある労働を中心とした福祉社会」、良い社会をつくる公共サービスを考える研究会「緊急提言」の実現をめざし、広く国民に呼びかけ、署名活動をはじめ全国隅々から、「良い社会をつくる公共サービス確立キャンペーン」をさらに前進させます。

2006年2月7日
国民生活の安定、安全・安心を支える良質な公共サービスと雇用の確立を求める中央集会



(資料2)

良い社会をつくる公共サービスを考える研究会「中間報告」の要旨

はじめに

 中間報告は、「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」(主査;神野直彦東京大学大学院教授)のこれまでの研究の一応の到達点である。
 最終報告は、今夏の予定。

 神野教授以外の研究会メンバーは(50音順)、
 稲沢克祐(関西学院大学)、佐藤学(東京大学)、辻山幸宣(自治総研)、
 坪郷 實(早稲田大学)、沼田 良(作新学院大学)、堀越栄子(日本女子大学)、
 間宮陽介(京都大学)、宮本太郎(北海道大学)(幹事)
 の先生方である。


1.研究に着手した問題意識

 1980年代初からはじまった公共サービス再編は、21世紀になって小泉構造改革の下で加速している。市場経済化する公共サービスでは、いま進行している格差社会あるいは社会崩壊を緩和するどころか、逆に、深刻化させかねない。
 安心の社会をつくり、社会の持続可能性を確保するためには、「公共」の領域を再生ささせることが不可欠である。
 公共サービスの現状をレビューするとともに、再生と刷新のための政策提言を行うことが喫緊の課題であると考えた。


2.中間報告の全体構成

 タイトル  公共サービスの再生と刷新で「不安社会」からの脱却を
 ――安心を保障する有効な政府のために――

「良い社会」をめざす

現実は「不安社会」で、社会崩壊の危機

公共サービスは社会の持続可能性に不可欠

「安心を保障する有効な政府」が必要

「もっと小さな政府」は日本を救わない

新しい公共サービスのためのビジョン

5つの緊急提言


3.はじめに:私たちは「良い社会」(The Good Society)を目指す

・今日より明日がより人間的に幸福になっていく社会
・不幸なときには「仲間・同士」が手を差し延べてくれる社会
・「良い社会」には向上するヴィジョンがある。
・現在の危機は、人間が創り出した危機であるがゆえに、人間が克服できる。


4.第1節 いま、何が起きているのか?

(1)現実は「不安社会」で、社会崩壊の危機にある。
 格差社会、貧困率の増加、子どもの格差、若者の危機、老後不安
 社会のライフライン(住宅、食品、水、アスベスト、犯罪)の危機

(2)こうした「不安社会」を脱却し、社会の持続可能性にとって公共サービスは不可欠

(3)不安社会やリスク回避のためには、自己責任ではなく、政府こそが責任をもつべきである。
(4)安心を保障するのが政府の役割であり、かつこの役割を担うことに有効なものでなければならない→「安心を保障する有効な政府」


5.第2節 「もっと小さな政府」は日本を救うか?

(1)事実認識=総支出でも総負担でも世界で冠たる「小さな政府」。
 支出=対GDP比の一般政府支出 37.3%(OECDで最下位グループ)
 負担=公的負担の対NI比 36.1%(アメリカと同じく最小グループ)

(2)これ以上の公的支出の縮小は「極小の政府」への道

(3)二つの問題
a.「小さな政府」でもこれまでなぜ安定した社会であったのか。
 長期的雇用をもった大企業を護送船団方式で保護し、中小企業は規制政策で保護。女性による育児・介護ケア。
b.なぜ「小さな政府」にもかかわらず「大きな政府」と見られてきたのか。政権与党の利権誘導と利権政治。また人々の生活をコントロール下に。
 生活保障の見返りに、サラリーマンは会社に、自営業者は業界に、主婦は家族に囲いこまれてきた。⇒「囲い込み社会」⇒「囲い込み社会」の解体⇒「より小さな政府」論でこの制度疲労に対処⇒しわ寄せは市民に。

(4)「小さな政府」論の通説批判
 公的負担の大きさと成長率とに負の相関関係はあるとの論証はない。

(5)「安心を保障する有効な政府」の積極面
a.ライフチャンスを拡大する。
b.知識産業構造への転換を整備し、若者が意欲を持てるような仕事を用意できればニートは減少し、ひいては競争力を高める(北欧の例)
c.事前的な安心給付の方が、事後的な対処よりも公的コストが低い。


6.第3節 新しい公共サービスのためのビジョン

(1)四つのビジョン
@ 自立支援型のサービス
A ニーズ志向のサービス
B 開かれた補完性原理
C ベスト・ミックス

(2)自立支援型のサービス
 市場主義者と私たちの自立論の違い
 〈私たち〉           〈市場主義者〉
 公共サービスが自立を支援    公共サービスが自立を妨害
 社会連帯で安心・元気を促す   競争で不安を拡大
 広範な自立条件を整備      就労自立
(3)ニーズ志向のサービス
@ wants(欲望)とneeds(充足を社会が認定するもの)との違い。
Aニーズが行政や専門家が上から決められてはならない。
 人々がニーズを表明できる権利が確保される必要がある。
B分権化により市民の身近なところでの政策の形成と執行。
C市民のニーズの汲み取りは、公共サービスに携わる者の仕事の誇りと職業倫理を高める。

(4)開かれた補完性原理
@安心を保障する有効な政府のためには分権=開かれた補完性原理が必要。
A開かれた補完性原理=地方のイニシアティブとユニバーサルサービスの水準とが相乗的な発展。
B市民個人(自助)、市民間の協力(共助)、自治体政府・国との関係も開かれた補完性原理。

(5)ベスト・ミックス
 民間非営利組織や営利企業、地域コミュニティとの協力が必要。
 公共部門と民間部門とがゼロサム的関係ではなく、相互に協力して発展していく非ゼロサム的関係。


7.5つの緊急提言

提言1 格差の拡がりを防ぎ、未来への投資となる公共サービスを拡充すること
──子どもたちを格差社会から救う公共サービスを
 将来の能力形成の場としての保育サービス。
 公教育の空洞化防止と「学びの共同体」づくり。
──若者を周辺化させない公共サービスを
 学び直しの機会の拡大、ニート、児童信託基金(イギリスを参考に)
──再挑戦を可能にするトランポリン型の扶助制度を
──自治体に、ベストミックスとニーズ熟議のためのネットワーク
──新しい地域支援を;まちづくり、中山間地の活性化

提言2 「小さな政府・重税国家」政策を中止し、公正な租税構造に改めること
・「安心の給付」を切り捨て、財政赤字解消のための増税は市民生活を破綻に追い込む。
・財政再建のためには、租税負担水準を引き上げるのではなく、租税負担構造を公平にすること。高額所得者や企業利潤へのシフト。

提言3 「市場化テスト」導入に当たっては十分な議論を尽くすこと
・コスト重視のあやまった導入ではサービスの質の劣化をまねく。
・公共サービスの質の確保、安定的な供給、労働者の労働条件確保等を念頭に十分な議論をつくすこと。

提言4 公共サービスの情報公開、評価システムの確立など透明性を向上させること
・公共サービスにかかわる行政、非営利民間組織、営利組織の情報公開。
・提供された公共サービスが真に市民のニーズに適合したものであるか、満足度、提供主体間の提携が協力社会の方向にすすんでいるかなどの評価システム。

提言5 公共サービスに携わる人々のディーセントワークを実現すること
・ワークルールの確立。政労使の対等の立場からの対話と協議。
 労働組合はワークルールの実現をとおして市民からの信頼に応えてゆく。
・介護職、看護職の処遇と労働条件改善。
・ヒューマンパワーの研修体制の充実。

以上