人事院に設置されていた「官民給与の比較方法の在り方に関する研究会」(座長:神代和欣横浜国立大学名誉教授。以下「研究会」という。)は、21日、報告書を取りまとめ給与局長に提出するとともに公表した。昨年秋の設置以来、研究会は官民給与の比較方法のあり方について検討作業を行い、3月には「中間取りまとめ」を公表したが、本年勧告を目前にして、最終報告を提言したもの。
報告書では、同種・同等比較の原則を維持しつつ、「公務員給与水準にできるだけ広い民間給与の実態を反映させる」ため、月例給、特別給のいずれについても比較対象企業規模を現行の「企業規模100人以上」から「企業規模50人以上」に拡大することが「適当」と結論づけた。しかし、報告書では、月例給、特別給いずれについても、官民比較を50人に拡大することについての明確な根拠については何ら示されておらず、24日に行われた人事院との交渉でも納得のいく説明は行われなかった。
公務員連絡会は、24日16時から人事院交渉を実施し、報告書の内容について説明を受けるとともに、報告書に対する人事院の受け止め方と今後の対応を質した。交渉は公務員連絡会幹事クラス交渉委員が臨み、人事院は井原職員団体審議官、森永参事官、大滝給与一課企画室長が対応した。
報告書の内容説明が行われた後、公務員連絡会側は次の通り問題点等を質した。
(1) 同種・同等比較の原則を維持しつつ、より広く民間企業の従業員と比較するため「企業規模50人以上」に拡大することが適当としているが、「調査は可能」ということは述べられているが、なぜ「50人以上」なのかについての説得力ある説明が行われていない。唯一挙げられている理由は、人事院の昨年の調査に基づいて50人以上の企業には公務に見合った役職段階があるということであるが、これだけでは根拠薄弱だ。同種・同等の原則を強調しているが、職種別・役職段階別の労働市場もできていないのに、役職段階だけでやろうというのはそもそも無理があるのではないか。問題は何をもって「同種・同等」とするかであって、その点を研究せず、「より広く民間給与と比較すること」が社会的コンセンサスを得ることになる、という研究会報告の考え方自体が根拠のないものだ。
(2) 特別給については、そもそも同種・同等比較になっていないにもかかわらず、月例給との「整合性」を確保するため「50人以上」と比較するのが適当という論理はまったく理解できない。一方で同種・同等比較の原則を重要視しつつ、特別給の話になると同種・同等の原則を無視し、月例給の比較対象企業規模との「整合性」を持ち出すのは論理的に矛盾している。「整合性」とは一体何か説明せよ。
(3) 参考資料に7月7日の閣議決定があり、そこでは比較方法を見直さなければ公務員給与が上がるとした上で、公務員人件費の削減が明記されており、研究会報告はそのためのものではないか。
これに対し人事院側は「研究会の報告であるので書いてある範囲の説明になる」とした上で、次の通り説明した。
(1) なぜ50人以上かと言えば、同種・同等比較の原則を確認した上で、100人以上では掴んできている民間従業員が足りないので、まず100人未満ではどういう同種・同等の人がいるかを昨年秋の調査で検証した結果、50人以上と50人未満では役職段階がある企業割合に差が見られたことから、50人以上としたものである。
(2) 月例給は50人以上と比較することになることを踏まえ、特別給は同種・同等以外の者も比較に入れていることを確認し、同種・同等の比較を目指すべきではあるがすぐには難しいことや厳密に対応させることはなじまないことを指摘した上で、当面、現行調査の基本的枠組を維持することとし、月例給との整合性を考慮して50人以上にすべきという論理になっている。報告に書かれているのはそういうことである。
(3) 研究会では、公務員給与が上がる、上がらないということではなくて、社会的コンセンサスを得るためにはどうしたらいいかという観点から幅広く検討したものと理解している。
以上のように、人事院からはまったく疑問点・問題点に対する明確な説明は行われなかった。
こうした研究会報告の内容に対するやり取りを踏まえて公務員連絡会は、人事院として報告をどのように受け止め、対処するのかを質した。それに対して審議官は「官民比較方法について、研究会の報告書や今週中に予定されている給与懇談会の意見を踏まえながら、引き続き公務員連絡会の意見を聞いて、第三者機関として責任を持って判断していきたい。報告書の内容については、さらに十分検討していきたい。8月1日には公務員連絡会との会見が予定されているので、それを念頭に置いて検討する」と答えた。
最後に公務員連絡会は、「きょう申し上げた2点、@なぜ「50人以上」とするのかA同種・同等比較となっていない特別給も月例給と同様に50人以上とする根拠、などを明確に説明してもらいたい。報告書には説得力のある十分な説明がなく、納得できるものではない。そういった報告内容を『踏まえて』比較方法を見直すことには反対である。中身を慎重に検討すべきであり、拙速に結論を出すのではなく、われわれが納得できるまで、十分な協議を保障してもらいたい」と強く要請したのに対し、井原審議官は「納得を得られるようできるだけ努力したい」との考えを示したため、公務員連絡会は「努力だけではなく、われわれが納得しない限り拙速な見直しは認められない」と念押しし、この日の交渉を締めくくった。
公務員連絡会は、この日の交渉で人事院側から研究会報告の内容について何ら明確な説明が行われなかったことにより、本年の勧告で比較企業規模を見直す根拠はますます失われたものと認識。8月1日の第3次中央行動を大きな山場に、人事院に対して拙速な官民比較方法の見直しを行わないよう交渉・協議を強めていくこととしている。
人事院「官民給与の比較方法の在り方に関する研究会報告書」PDF版1.2M
以上