2008年度公務労協情報 2 2007年10月19日
公務公共サービス労働組合協議会

専門調査会が「公務員の労働基本権のあり方について」を報告−10/19
「一定の非現業職員に労働協約締結権付与」を明記

 19日、行政改革推進本部の専門調査会(座長:佐々木毅学習院大学教授)は、別紙1「公務員の労働基本権のあり方について(報告)」と題する報告を取りまとめ、推進本部副本部長である渡辺喜美行政改革担当大臣に提出した。この調査会は、公務員の労働基本権のあり方について検討するため、連合と政府の政労協議の合意に基づいて昨年夏に設置され、検討作業を進めてきたが本日報告を取りまとめたものである。調査会には古賀連合事務局長、岡部公務労協副議長(自治労委員長)、丸山総評会館理事長(元国公連合委員長)が参加し、意見反映に努めてきた。
 報告では、「一定の非現業職員について、協約締結権を付与する」こと及び「第三者機関の勧告制度を廃止」することを明記したものの、「消防職員及び刑事施設職員に対する団結権の付与」及び「争議権の付与」については、両論併記にとどまっている。
 この報告に対し、公務労協は別紙2の労働基本権確立・公務員制度改革対策本部「見解」を公表し、「公務員の労働基本権確立に向けて一歩を踏み出したことは評価できる」としながらも、「団結権と争議権を含めた労使関係の一体的改革を提言しなかった点で重大な問題を残した」とした上で、「政府内外で強まりつつある現状維持を求める圧力をはねのける、一層の取り組み強化が不可欠」との認識に基づき、「この報告を到達点として、ILO勧告を満たした労働基本権の確立と民主的公務員制度改革実現に向けて、連合とともに粘り強く奮闘する」ことを明らかにした。
 公務労協では、今後、報告内容を実現し、さらに残された課題についての議論を促進するため、政府に対し、実現に向けた労使協議等を直ちに開始することを要求するなど、取り組みを強化していくことにしている。

 なお、本日発表された連合事務局長談話は別紙3の通り。


(別紙1)

公務員の労働基本権のあり方について(報告)


平成19年10月19日
行政改革推進本部専門調査会

一 はじめに

 当専門調査会の任務は、国及び地方公共団体の事務及び事業の内容及び性質に応じた公務員の労働基本権のあり方その他の公務員に係る制度に関する専門の事項を調査し、行政改革推進本部に報告することである(行政改革推進本部令第1条第2項)。
 専門調査会では、平成18年7月27日に第1回の会議を開催以来、今日まで15回の会議を重ねた。また、この間、3つの小委員会を設置し、労働基本権の現状及びあり方等について、各府省、地方公共団体、職員団体及び労働組合など32団体に対するヒアリングを実施した。加えて、「シミュレーション検討グループ」を設置して、公務員に労働基本権を付与する場合の論点や影響について具体的な検討を行った。
 本報告は、こうした専門調査会における検討の成果をとりまとめたものである。そもそも労働基本権のあり方については、様々な論点と幅広い考え方がありうる。事実、個々の委員の意見も多岐にわたった。そうした中で、改革の方向で見直すという認識を共有しつつ議論を行った結果、概ねの合意が得られた事項については、以下のとおりである。

二 改革の必要性と方向性

1 改革の必要性

 我が国は、戦後、焼け野原から再出発して高度経済成長を達成し、今日、豊かな経済大国としての地位を確立した。行政を担う公務員も、その過程で重要な一翼を担い、国民・住民から相応の信頼を勝ち得ていたといえる。

(1) 行政の諸課題に対する対応能力向上の必要性

 欧米先進国へのキャッチアップが概ね達成された1980年代以降、我が国はモデルの無い中で政策を立案し展開していくことが必要になった。しかしながら、行政の取り組むべき課題はますます高度化・多様化する一方で、政策に投入できる資源は、低成長への移行と財政赤字の拡大により、かつてのような増大は望めない。そういった状況の下で、「失われた10年」における対応など、行政が迅速かつ適切に対処できない事例が発生している。
 行政の諸課題に対する対応能力の向上は、国民・住民の日常生活や社会経済の安定にとっても、我が国の国際競争力の確保にとっても、極めて重要である。このため、政策の企画立案と実施を担う行政を支える公務員が、全体として迅速・的確な対応を行うことを可能にするための改革が、国・地方ともに求められる。
 この間、民間においては、能力成果主義の浸透など、人事管理制度の変化が見られる。公務部門においても、民間と仕事のあり方は異なるとはいえ、これらの人事管理上の革新を参照して改善すべきである。その際、国・地方ともに厳しい財政状況に直面していることに鑑みれば、公務部門においても、適切な人事管理を実現することにより、コスト意識を徹底し、公務の能率を向上させていくことが求められ、それを可能にするための労使関係制度等の改革が求められる。

(2) 責任ある労使関係構築の必要性

 公務員の労使関係については、長年の積み重ねにより労使間において良好な関係が築かれているとの見方もある。しかし、近年、社会保険庁や大阪市などにおいて、労使の馴れ合いとも指摘されるような、非効率な業務の容認や職員厚遇などの不適切な労使慣行が次々と明らかになり、国民・住民の大きな批判を浴びることとなった。この背景には、真に責任ある労使関係が構築されてこなかったことに加え、労使交渉に関し労使が説明責任を果たす仕組みがなかったことなどがあると考えられる。
 公務員の最終的な使用者は国民・住民であり、その利益に反する不適切な労使慣行は、仮に一部の問題であったとしても許されるものではない。こうした問題の再発の防止と同時に、責任ある労使関係の構築が求められる。

2 改革の方向性

 このような状況の下で、公務員が国民・住民の信頼を再び取り戻すためには、労使関係制度等の改革が必要である。このことは、社会的インフラともいえる公務部門に優秀な人材を集め、国民生活や社会経済に不可欠である良質な公務サービスを提供するためにも重要である。
 こうした中で、先の国会では、能力・実績主義と再就職規制の導入を柱とする国家公務員法の改正が行われた。行政の諸課題に対する対応能力を高め、効率的で質の高い行政を確保し、国民・住民の永続的な信頼を得ていくためには、総合的な公務員制度改革の一環として、労使関係制度等についても、改革に取り組む必要がある。

 (1) 労使関係の自律性の確立

 責任ある労使関係を構築するためには、透明性の高い労使間の交渉に基づき、労使が自律的に勤務条件を決定するシステムへの変革を行わなければならない。しかし、現行のシステムは、非現業職員について、その協約締結権を制約し、一方で使用者を、基本権制約の代償措置である第三者機関の勧告により拘束する。このように労使双方の権限を制約するシステムでは、労使による自律的な決定は望めない。
 よって、一定の非現業職員(三2(1)参照)について、協約締結権を新たに付与するとともに第三者機関の勧告制度を廃止して、労使双方の権限の制約を取り払い、使用者が主体的に組織パフォーマンス向上の観点から勤務条件を考え、職員の意見を聴いて決定できる機動的かつ柔軟なシステムを確立すべきである。
 このシステムの転換を契機として、労使双方が責任感を持ってそれぞれの役割を果たし、職員の能力を最大限に活かす勤務条件が決定・運用されることを通じて、公務の能率の向上、コスト意識の徹底、行政の諸課題に対する対応能力の向上といった効果が期待できる。
 一方で、基本権の付与拡大に伴い、交渉不調の場合の調整も含めた労使交渉に伴う費用の増大や、争議権まで付与する場合(二2(4)イ参照)には、争議行為の発生に伴う国民生活等への影響が予想される。こうしたコストの発生が、付与に伴うメリットに比して過大なものとなれば、改革に対する国民・住民の理解は得られない。また、安易な交渉が行われれば、パフォーマンス向上に対応しない人件費の増加を招くのではないかという指摘もある。そして何よりも、長期にわたる準備が必要である(四参照)。こうした改革に伴うコスト等に十分留意しつつ、慎重に決断する必要がある。

(2) 国における使用者機関の確立

 責任ある労使関係の構築のためには、使用者が確立されなければならない。しかし、使用者としての立場に立たない第三者機関が、人事行政に関する事務を広範に担う現状では、使用者の確立は難しい。
 このため、使用者として人事行政における十分な権限と責任を持つ機関を確立するとともに、国民に対してその責任者を明確にすべきである。
 その上で、使用者機関が主体的・戦略的に、行政全体の組織パフォーマンスを高める勤務条件を、労使交渉により職員の意見を聴きつつ構築していくべきである。これを通して、行政の諸課題に対する対応能力の向上、職員のコスト意識の徹底、公務の能率の向上を図るべきである。

(3)国民・住民に対する説明責任の徹底

 主権者である国民・住民にとって、公務員の人事管理や勤務条件などの制度や実態は大きな関心事である。使用者はこれらに関し責任を持って、国民・住民に対し説明責任を果たすべきである。
 なお、その際、国民・住民において、公務員に関する制度や実態について、誤解やいわれなき批判がある場合には、そうした誤解を解き、批判に対し丁寧に説明を行っていくこともまた重要である。
 特に、公務員の労使関係については、不適切な労使慣行の再発を防止して健全な労使関係を構築するためにも、その透明性を高め、説明責任を徹底して果たすべきである。

(4)意見の分かれた重要な論点

ア 消防職員及び刑事施設職員の団結権について

 現在、警察職員、自衛隊員、海上保安庁職員、消防職員及び刑事施設職員については、団結権が付与されていない。
 このうち、消防職員及び刑事施設職員に対し団結権を付与すべきか否かについては、意見が分かれた。
 この点、次の理由などから、付与すべきとする意見があった。
・ これらの職員に対し、厳正な規律や部隊活動が求められることが、団結権を付与しない理由として挙げられるが、団結権を付与することにより、規律が乱れたり部隊活動が困難になることは考えにくい。
・ 団結権の付与により、これらの職員の職場環境の改善に役立ち、人材確保にも資するはずである。
 一方で、次の理由などから、付与すべきでないとする意見があった。
・ これらの職員は警察職員と同様の任務と権限を持ち、厳正な規律と統制ある迅速果敢な部隊活動が常に求められる。仮に団結権を付与すれば、上司と部下の対抗関係をもたらし、上命下服の服務規律の維持が困難になることが予想され、職務の遂行が困難になり、国民生活等に悪影響を及ぼしかねない。

イ 争議権について

 公務員に対し争議権を付与すべきか否かについては、意見が分かれた。
 この点、次の理由などから、付与すべきとする意見があった。
・ 公務員の「職務の公共性」から、争議行為が行われれば、国民生活等に影響が生じることが、争議権を付与しない理由として挙げられるが、民間の公益事業等に従事する労働者にも争議権が付与されているように、争議権を付与しない理由にはならない。民間の公益事業等と同様に、争議行為の制限等を設けることで対応が可能である。
・ 憲法上の権利である争議権を民間と同様に付与すべきである。
 また、争議権を付与すべきとする考えにおいては、付与する職員の範囲について、
・ 「協約締結権を有する全ての公務員に付与すべき」とする意見と、
・ 「企業性を有し市場の抑止力が期待できる現業等職員のみに付与すべき」とする意見があった。
 一方で、次の理由などから、付与すべきでないとする意見があった。
・ 公務員の勤務条件は議会制民主主義の下で国会・地方議会において議論のうえ決定されるべきものであり、争議行為の圧力による強制を容認する余地はない。
・ 公務員の「職務の公共性」から、争議行為が行われれば、争議行為の制限等を設けたとしても、国民生活等に影響が生じることは避けられない。
・ 争議行為により、損害が生じることも予想されるが、公務の場合には、その賠償責任が行政のものとなりかねない。
・ 公務において使用者は、民間と異なり、争議行為に対抗する措置であるロックアウト(作業所閉鎖)を採りえない。

3 改革において留意すべき点

 公務員の労働基本権の現行の制約については、憲法違反ではない旨を判示した全農林警職法事件最高裁判決(昭和48年4月25日)があり、判例として定着している。しかし、その後、行政や労使関係をめぐる環境も大きく変化しており、現時点において、判決の指摘する制約理由を改めて検討すると、次のとおりである。
まず、憲法上の要請である議会制民主主義及び財政民主主義の考え方については、今日においても妥当する当然の制約理由である。
 一方で、その給与が基本的には国民の租税負担により賄われるという「公務員の地位の特殊性」については、近年、独立行政法人、国立大学法人及び指定管理者制度が導入されており、また、「公務員の職務の公共性」については、公共サービスの多くが民間委託などにより民間労働者によっても担われつつあるという現状にある。よって、この2つの制約理由については、当時ほど絶対的なものではなくなっているといえる。
 また、「市場の抑止力の欠如」については、労使交渉の結果や経過を公開して、国民・住民の監視を可能とすることで、過度な要求や安易な妥協がある程度、抑止されることが期待できる。
 このように、公共サービスをめぐる環境の変化を踏まえ、現行の制約を緩和する余地はある。もちろん、議会制民主主義、財政民主主義の要請があり、また、公務員の地位の特殊性、職務の公共性、市場の抑止力の欠如といった基本的制約理由もなくなるものではないから、現行の制約を緩和するに当たっては、これらの制約理由を十分に踏まえ、適切かつ合理的な制度的措置を併せて講じることが必要であり、また重要である。

三 改革の具体化にあたり検討すべき論点

 労使関係制度等の改革の具体化にあたっては、多くの論点について検討し結論を得る必要がある。その主なものは次のとおりである。いずれも重要であり、そして簡単ではない。また、相互に関連する論点も多い。よって、十分な時間をかけ集中的に、かつ慎重に検討を行うことが必要である。

1 基本権付与の前提について

(1)労使の理念の共有

 公務員は全体の奉仕者であるから、交渉等においても、労使は「効率的で質の高い行政サービスの実現」という理念を共有して行うべきである。

(2)労使交渉の透明性の向上

 労使交渉の透明性の向上については、交渉結果である協約はもちろん、交渉過程まで含めた情報公開が必要である。この点、情報公開の具体的方法等について、検討が必要である。

(3)国における使用者機関の確立

 使用者として人事行政における十分な権限と責任を持つ機関を確立することが必要である。このため、具体的にいかなる機関のいかなる権限が、責任ある使用者機関が担うべき権限として移管されるべきか、早急な検討が必要である。

(4)交渉当事者の体制の整備

 一定の非現業職員に協約締結権を付与する際には、国の中央レベル、各府省レベル及び地方支分部局レベル並びに地方公共団体それぞれにおいて、労使交渉に必要な体制を整備し、十分な準備期間を設けて、試行等により習熟していくことについて、検討が必要である。

2 協約締結権について

(1)付与する職員の範囲

 協約締結権を付与する非現業職員の具体的な範囲については、検討が必要である。
 この点、次の理由などから、「団体交渉権を有する非現業職員のうち、管理職員等以外の職員に付与すべき」との考えがある。
・ 管理職員等は、使用者側に立つ職員であり、協約締結権を付与すれば、自らの勤務条件を自らが決定することになりうる。
・ 民間と同様の取扱いとすべきである。
 また、次の理由などから、「団体交渉権を有する非現業職員のうち、権利義務設定・企画立案など、行政に固有の業務に従事する職員以外の職員に付与すべき」との考えがある。
・ 行政に固有の業務に従事する職員については、憲法上の要請である議会制民主主義に基づき、その勤務条件は国会・地方議会が法律・条例で決定すべきであり、労使交渉により決定すべきではない。
・ 行政に固有の業務に従事する職員については、公務外に同種の業務が存在しないため、労使交渉により合理的な決定が期待しにくい。
 一方で、次の理由などから、「権利義務設定・企画立案など、行政に固有の業務に従事する職員か否かという区分けにより、付与の可否を決めるべきではない」との考えがある。
・ 議会制民主主義は憲法上の要請であり、法律・条例が協約に優先する(三2(3)参照)ことは当然であるが、それ以上に協約締結権自体を否定する理由にはなりえない。
・ 公務外に同種の業務が存在しなくとも、民間一般の水準は存在するし、労使双方がそれぞれ考慮すべきと考える事項を交渉において主張しあうことで、より合理的な決定が期待できる。
・ 実際の業務仕分けが困難である。
・ 複数の職務を有する者の取扱いが難しい。

(2)交渉事項・協約事項の範囲

 一定の非現業職員に協約締結権を付与する際に、交渉事項の全部を協約事項とするのか、一部に限定して協約事項とするのか、検討が必要である。
 この点、「任用・分限・懲戒に関する事項については、これらが成績主義(メリットシステム)、人事管理の公正性の確保という面を強く有することから、協約締結事項から除外すべき」との考えがある。
 一方で、「職員の関与により成績主義や人事管理の公正性が損なわれるという理由は成り立ちえず、民間と同様に、交渉事項の全部を協約事項とすべき」との考えがある。
 この他、交渉事項・協約事項の範囲に関して、「交渉事項・協約事項の拡大は重要であるから、公務員については「勤務条件」ではないとされているが民間労働者では「労働条件」とされている事項について精査し、できる限り交渉事項・協約事項とすべき」との考えがあり、検討が必要である。
 また、この他、「管理運営事項」については、公務の特性に鑑み、交渉事項・協約事項から除かれるべきであるが、労使の責任を明らかにするためにも、管理運営事項の範囲を明確化していくことが必要である。

(3)法律・条例、予算と協約との関係

 一定の非現業職員に協約締結権を付与する際に、労使交渉の裁量の余地を広げるため、法律・条例等の改正を必要とする協約や、予算措置を必要とする協約の締結を認めるべきである。
 この場合、憲法上の当然の要請である議会制民主主義及び財政民主主義の観点から、法律・条例、予算は協約に優先すべきであり、そのため、法律・条例、予算と抵触する部分が効力を有するために必要な手続等について、検討が必要である。

(4)少数組合等の協約締結権の制限

 一定の非現業職員に協約締結権を付与する際に、少数組合・職員団体が多数存在する場合には、交渉コストが多大になるおそれがあることから、一定の組織率を有しない少数組合・職員団体には協約締結権を付与しないこととすべきか否かについて、検討が必要である。
 この点、「民間と同様に、少数組合・職員団体にも付与すべきである」との考えがある。
 一方で、次の理由から、「民間と異なり、少数組合・職員団体には付与しないこととすべきである」との考えがある。
・ 特に公務部門は、租税により当局の交渉経費が賄われるため、コスト削減の仕組みが民間以上に求められる。
・ 民間の場合にはユニオン・ショップ協定(使用者が、自己の雇用する労働者のうち特定の労働組合に加入しない者及び当該組合の組合員ではなくなった者を解雇する義務を負う旨を定める協定)を結ぶことが可能であり、また実際そのような措置を講じているケースが少なくないが、公務の場合、禁止されている。

(5)協約締結権が付与されない職員の取扱い

 一定の非現業職員に協約締結権を付与する際に、なお協約締結権を付与されない職員について、給与等の勤務条件決定の仕組みをいかにすべきか、検討が必要である。
 この点、「現行どおり人事院勧告等により定めるべき」という考えがある。
 一方で、次の理由から、「協約締結権を付与された職員の協約を踏まえ、当局が定めることとすべき」との考えがある。
・ 協約が適正な水準に定まっているとの前提に立てば、これを踏まえて決定することで代償措置として十分といえる(現行の人事委員会のない自治体における国や都道府県の取扱いを参考に決定する方式と同様である)。仮に不足するとの判断があれば、当局が第三者委員会の意見を聴く等の手続を設ける方法も採りうる。
・ 人事院勧告等が残ることにより、コストが二重に発生する。
・ 交渉を通じて決定される勤務条件と、人事院勧告等を通じて決定される勤務条件との間での乖離が大きくなると、人事管理上、支障をきたすおそれもある。

3 争議権について

(1)争議行為の制限等

 争議権を付与する場合には、国民生活等への影響を考慮すると、争議行為の制限等は当然に必要である。そこで、設けるべき制限等について、検討が必要である。
 この点、まず、労働関係調整法において規定されている民間の公益事業に対する制限等と同様の仕組みが、当然に必要である。
 そして、これに加えて、
・ 「公務の場合、制度的に確実に紛争を終結させる仕組みが必要であるから、「緊急調整を経てもなお、交渉により紛争が解決される見込みがないと認められる事件について、内閣総理大臣の決定により仲裁が行われる仕組み」を設けるべき」との考えや、
・ 「労働委員会が争議行為の実施の可否を判断する仕組みを設けるべき」との考えがある。

(2)争議行為を行うことのできる事項

 争議権を付与する場合には、争議行為の対象について、検討が必要である。
 この点、「争議行為が国会・地方議会への圧力になってはならないから、争議行為の対象として、国会・地方議会が議決すべき事項(法律、条例、予算に係る事項)を除外すべき」との考えがある。
 一方で、次の理由などにより、「争議行為の対象は、協約事項全てとすべき」との考えがある。
・ 正当な争議行為は、協約締結の手段として使用者に対して行われ、国会・地方議会に対し行われるものではなく、実質的にも、国会・地方議会における審議は、協約締結後になされるから、その審議の圧力になりえない。よって、国会・地方議会が議決すべき事項を争議行為の対象から除外すべきとの考えに合理的な理由はない。
・ 争議権が憲法上の権利であり、争議行為は団体交渉上の目的を追求してなされるものであるから、争議行為の対象は、協約事項全てとするのが本来の姿である。

4 協約締結権等を支える仕組みについて

(1)地方自治体における交渉円滑化のための全国レベルの仕組み

 個々の自治体の交渉の円滑化に資するため、組合・職員団体の代表と地方団体の代表が、給与などの枠組みについて協議する全国レベルの仕組みの必要性や内容について、検討が必要である。

(2)交渉不調の場合の調整(争議行為に関する調整は三3(1)を参照)

 交渉不調の場合の調整の仕組みをいかにすべきか、検討が必要である。
 この点、争議権を付与する場合には、民間と同様に、第三者機関(民間の場合、労働委員会)によるあっせん、調停、仲裁(双方の同意が必要)の手続を設けるべきである。
 また、争議権を付与しない場合には、民間と同様の手続に加えて、
・ 「現在の現業等と同様に、代償措置として、労使一方の申請等による仲裁を認める仕組みとすべき」との考えと、
・ 「現在の現業等の仕組みを基本としつつも、法律・条例事項について交渉不調の場合には、当局が組合・職員団体の意見を添えて法案等を提出し、国会・地方議会の判断に委ねることとすべき」との考えがある。
 なお、交渉不調等の処理を担当する機関については、
・ 「民間と同様に既存の労働委員会が担当すべき」との考えと、
・ 「公務員関係の問題を特別に処理する機関を設けて担当させるべき」との考えがある。

(3)民間準拠原則の必要性

 公務員の勤務条件について、民間の労働条件に準拠すべきか否か、準拠すべきとする場合、どの程度とすべきか、検討が必要である。
 この点、「現在と同様に、引き続き、民間の平均的水準に詳細に準拠すべき」との考えがある。
 一方で、「給与総額など、全体的な水準については民間の平均的水準を考慮することとしても、詳細に準拠することとすれば、現在の勧告による決定方式と結果において変わることとならない。行政の組織パフォーマンスを向上させるためには、公務の特性に応じた主体的な勤務条件の設定が必要であり、そのためには当然に相当程度の独自性が認められるべき」との考えがある。

(4)民間給与等の実態調査等

 一定の非現業職員に協約締結権を付与し、人事院等による給与勧告を廃止する場合に、交渉や仲裁の基準として、客観的なデータを第三者機関が調査収集する仕組みが必要か、検討が必要である。
 この点、次の理由などから、「詳細な独自調査が、なお第三者機関(人事院等又は交渉不調等の処理を担当する機関(三4(2)参照))により行われるべき」との考えがある。
・ 国民・住民が納得するメルクマールが必要である。
・ 団結権を付与されない職員等に適正な待遇を決める上でも必要である。
 一方で、次の理由などから、第三者機関による調査を必要としつつも、「毎年行う必要はない」、「詳細に行う必要はない」とする考えや、「第三者機関の調査は不要であり、交渉当事者が適宜、既存の調査の活用や独自調査を行うことで足りる」との考えがある。
・ 現行の民間の平均的水準に詳細に準拠することは止めるべきであり(三4(3)参照)、その場合には、独自調査も簡素化又は廃止が可能なはずである。
・ 現在の詳細な独自調査には相当の人員と経費が投入されており、当該コストが引き続き残ることとなる。

(5)労使協議制度

 民間では、@団交前段的労使協議制、A団交代替的労使協議制、B経営参加的労使協議制、C人事の事前協議制などが、代表的な労使協議制として設けられている。
公務部門における労使協議制については、「効率的・効果的な事務事業の遂行、国民・住民に対する良質な公共サービスの提供を促進するため、労使間の意思疎通を図るツールとして労使協議制度を整備すべき」との考えがある。
 労使協議制は、団体交渉を補完するというその性質上、基本権の付与拡大のあり方が具体的に定まらないと、その必要性及び内容について、定めることは困難である。よって、まず、基本権付与拡大のあり方を具体的に定めた上で、検討することが必要である。

四 終わりに

 本報告は、長年、維持されてきた労使関係制度等について、国・地方の双方を対象として、抜本的な改革を提言しているものであり、もとより、その実現は、一朝一夕でなしうるものではない。労使関係の自律性の確立や、使用者機関の確立や体制の整備などについて、国・地方ともに概ね5年程度の期間が必要になると考えられる。
 そして、何より、改革に対する国民の理解を得ることが重要である。よって、改革に先立ち、その改革の全体像を国民に提示して、その理解を得ることが必要不可欠である。
当専門調査会は、本報告が、今後の労使関係制度等の改革において礎となることを期待する。


(別紙2)
「行政改革推進本部専門調査会」報告についての見解


1.行政改革推進本部専門調査会(座長:佐々木毅学習院大学教授)は、10月19日、「公務員の労働基本権のあり方について」と題する報告を取りまとめ、渡辺喜美行政改革担当大臣に提出した。
 その内容は、「一定の非現業職員について、協約締結権を付与する」こと及び「第三者機関の勧告制度を廃止」することを明記し、「報告が、労使関係制度等の改革において礎となることを期待する」ことを求める一方、「消防職員及び刑事施設職員に対する団結権の付与」及び「争議権の付与」については、両論併記にとどまっている。

2.専門調査会は、連合・公務労協と政府の間で行われた政労協議における合意に基づいて2006年夏に設置されたものであり、連合、公務労協から3名の委員が参加し、国・地方の非現業・現業公務員の労働基本権確立を基本とし、連合の提訴に対するILOの三度にわたる日本政府への勧告事項の実現を盛り込むよう主張してきた。
 具体的には、@刑事施設職員、消防職員への団結権付与A人事院勧告制度等の廃止による一般の職員への協約締結権と争議権の付与、を最重点に位置づけてその確立を求めてきたものである。
 これに対し、報告が「労使関係の自律性の確立」を指摘し「協約締結権の付与」を明記したことは、公務員の労使関係改革に向け確かな一歩を踏み出したものであり評価できる。また、すでに協約締結権を持つ現業公務員についても、勤務条件の自主的・主体的な決定の阻害要因となっていた人事院勧告の影響を排除するものとなる。
 しかしながら、他方で「付与」についてコスト論から「慎重な決断」を求めていることは政府に先延ばしの口実を与えるものであり遺憾である。加えて、公務における労使関係を確立する観点からは、消防職員等の団結権について検討の必要性にすら言及しなかったことや協約締結権と一体であるべき争議権について付与の方向性を示さなかったことは極めて不満である。
 また、報告は、協約締結権を付与する公務員や協約締結事項の範囲、争議権を付与する場合の制限等については「検討する必要がある」との指摘にとどめ、具体案の策定は先送りしている。
 ILO勧告との関係では、協約締結権の付与が職員団体登録制度、管理職範囲、不当労働行為救済制度等の諸問題を解決する可能性を有するものの、「協約締結権付与」以外の勧告事項については、具体的に勧告に応える方向性を示すには至らなかった。

3.以上のように、報告は公務員の労働基本権確立に向けて一歩を踏み出した点で評価できるが、政府に改革実現先送りの口実を与えたことや、団結権と争議権を含めた労使関係の一体的改革を提言しなかった点で重大な問題を残した。今後、検討事項の具体化と協約締結権の付与を早期実現し、さらに争議権や消防職員等の団結権の議論を改めて促進するため、政府内外で強まりつつある現状維持を求める圧力をはねのける、一層の取り組み強化が不可欠である。
 社会経済の変化に応え得る民主的公務員制度を確立するためには、労働基本権の付与による労使関係の改革のみならず、公務員制度全体として整合性ある抜本的改革が急がれねばならない。
 政府には、この報告を踏まえ、公務員労使関係の抜本的な改革に向けた法案を作成し速やかに実施に移す責務があり、労使協議の場を設置して具体化作業を推進することを強く求める。
 公務労協は、この報告を到達点として、ILO勧告を満たした労働基本権の確立と民主的公務員制度改革実現に向けて、連合とともに粘り強く奮闘するものである。

 2007年10月19日

公務公共サービス労働組合協議会
労働基本権確立・公務員制度改革対策本部



(別紙3)

2007年10月19日

行政改革推進本部専門調査会報告「公務員の労働基本権のあり方について」に対する談話


日本労働組合総連合会
事務局長 古賀 伸明


1. 本日、行政改革推進本部専門調査会(座長:佐々木毅学習院大学教授、以下「専門調査会」)は、「公務員の労働基本権のあり方について(報告)」を取りまとめた。改革の方向性として、「労使が自律的に労働条件を決定するシステムへの変革を行わなければならない」とし、「一定の非現業職員について、協約締結権を新たに付与する」べきであることなどを報告している。専門調査会は、連合と政府との政労協議における「公務における労使関係を変えていく必要がある」「労働基本権付与の可能性を含め、幅広く検討していく必要がある」との合意内容を踏まえて昨年7月に発足し議論を重ねてきた。連合は、日本の労働運動を代表する立場から労働基本権の確立に向けて積極的に意見反映を行ってきた。

2. 公務員制度改革について、連合は、「公務員制度改革に関する研究会」の「中間報告」(2004年6月23日)に基づき、この間様々な提言を行ってきた。2002年には、労働基本権の制約を維持するもとで一方的に公務員制度改革をはかろうとする政府の動向に対してILOに提訴を行い、既に三度にわたる改善勧告を得ている。これらに示された観点からすれば、今回の「報告」において明確に前進であると評価できるのは、「一定の非現業職員に対する協約締結権付与」と「国における使用者機関の確立」のみであり、他方で「付与」についてコスト論から「慎重な決断」を求めていることは、改革を先延ばしにする口実を与えるものであり遺憾である。また、「団結権」「争議権」「労使協議制」等に関連する事項は、「両論併記」にとどまり、不満であると言わざるを得ない。しかし、現行公務員法制度が成立してから約60年が経過し、また、かつて様々な審議会等において公務員制度改革に関する提言があったにもかかわらずほとんど改革が行われてこなかった中で、労働基本権そのものの改革を提言したことは極めて重要である。一方、「報告」が指摘した「国民・住民に対する説明責任の徹底」については、公務における労使関係が国民・住民に開かれた民主主義プロセスのもとに置かれるべきものである以上、労使はこれを積極的に受け止める必要がある。

3.「報告」は、「改革の具体化にあたり検討すべき論点」を示しているが、「一定の非現業職員に対する協約締結権付与」などに伴う、詳細かつ重要な課題について、すべて「両論併記」とされており、方向性は不分明である。「報告」にある「労使関係の自律性の確立」という改革のためには、協約締結権のみならず、団結権、団体交渉権を機能・促進させる争議権付与についての検討が不可欠であり、これらを中心に、さらに議論を尽くして結論を得る作業や詳細設計の作業こそが重要である。これらの作業は、使用者側事務局である制度官庁に一方的に任せるべきでなく、その詳細設計の作業を、新たな労使交渉システムの準備段階として位置づけ、使用者側と労働者側の代表による機関を設置し、透明かつ誠実な協議を行っていくべきである。

4.今回の「報告」は、総理大臣の下におかれた「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」の結論とともに、政府が次期通常国会に提出する予定の公務員制度改革に関する基本法に盛り込まれる、こととされている。これまでの公務員制度改革に関する審議会の「提言」同様、店晒しにすることだけはあってはならない。労働基本権を中心とした公務労使関係の改革と、国民の負託にこたえる開かれた公務員制度の構築をめざし、改革が着実かつ速やかに実現される必要がある。連合は引き続き、労働運動全体を代表する立場から、関係構成組織とともに、そのための一翼を担っていく。

以上