公務員連絡会幹事クラス交渉委員は、3日午後、総務省人事・恩給局次長、人事院職員団体審議官と交渉をもち、2月15日に提出した2008春季要求に対する中間的な回答を引き出した。しかし、この日の回答では総務省、人事院ともに抽象的で不満な回答にとどまった。とくに、人事院交渉では、公務員連絡会が反対してきた「本府省手当」について「本年の勧告も視野に入れた検討」が提案されるなど、受け入れがたい見解が示された。このため、公務員連絡会は本府省手当の提案を撤回するよう厳しく追及した。
総務省、人事院交渉の経過は次の通り。
<総務省人事・恩給局次長交渉の経過>
公務員連絡会幹事クラス交渉委員は、13時30分から、総務省人事・恩給局阪本次長と交渉を実施し、2008春季要求書に対する検討状況を質し、中間的な回答を求めた。
はじめに、岩岬副事務局長が要求に対する総務省の回答を求めたのに対し、次長は「去る2月15日に要求書を受け取って以来、部内において誠意を持って検討を行ってきたところである。本日は、現段階における当局の考え方を主な要求事項に沿ってお答えしたい」として、次の通り回答を示した。
1 総人件費削減の実行計画と雇用確保について
総人件費改革に伴う国家公務員の配置転換については、先日の国家公務員雇用調整本部において取組の3年目となる21年度の実施計画が決定されたところである。取組みに当たっては、内閣官房行政改革推進室が職員団体と十分意見交換を行いつつ進めてきていると承知している。
職員団体においても、取組みの後半を迎えるこれからが正念場であるという認識を共有していただき、雇用の確保を図るという観点から、職員が自らの将来を主体的、自律的に考えるよう真摯な対応をお願いしたい。
なお、総務省としても政府全体としての取組みが円滑に進むよう、今後とも積極的に協力していく所存である。
2 2008年度の賃金改善について
(1) 人事院勧告を受けての国家公務員の給与の取扱いについては、従来から、内閣において、給与関係閣僚会議を開催し、国民、公務員双方の理解が得られるよう、人事院勧告制度尊重の基本姿勢に立って、国政全般との関連について検討した上で方針を決定しているところである。総務省としては、今後とも、このような給与改定の基本的な仕組みを通じて、円滑に人事院勧告が実施されるよう努めてまいりたい。
(2) また、官民比較方法見直しの再要請については、人事院に対して圧力をかけるものとは考えておらず、中立第三者機関である人事院において主体的に検討が行われることを期待するものである。
3 労働時間、休暇及び休業等について
(1) 所定内労働時間の短縮については、勤務条件に関わることであり、人事院においてまずは判断することであり、総務省としては、引き続き人事院における検討状況を注視してまいりたい。
(2)また、超過勤務の縮減については、超過勤務を命ずべき業務について、政府全体として業務量を減らす取組み、厳正な勤務時間管理や現場における時間効率の向上等の取組みを行うことが重要と考えている。各府省において、「国家公務員の労働時間短縮対策について」に基づいた様々な取組みが的確に行われるよう徹底してまいりたい。
4 新たな人事評価制度の実施について
新たな人事評価制度の設計に当たり、これまでの試行や検討により得られた知見を行革事務局に提供してきており、それらも踏まえて信頼性の高い人事評価制度を構築するべく行革事務局が中心となって制度設計が行われているところである。その中で、評価結果のフィードバックや苦情処理の仕組みに関しては大きな論点と認識しており、総務省としても、行革事務局と連携・協力しつつ検討を進めることとしている。今後も職員団体と十分話し合っていくことは必要と考えている。
5 新たな高齢者雇用施策について
今後、公的年金の受給開始年齢の段階的な引上げが行われることにより、60歳定年退職者についていわゆる無年金期間が発生することから、公務においても、雇用と年金の連携を図り、職員が高齢期の生活に不安を覚えることなく、職務に専念できる環境を整備することが必要であると考えている。
先般提出された「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」の報告では、当面、再任用制度の拡充により雇用機会を確保することなどが提言されているところであるが、総務省としても、今後、高齢者雇用の推進を図る方向で研究を行ってまいりたい。
6 退職手当の支給のあり方について
「公務員の給与改定に関する取扱いについて」(平成19年10月30日閣議決定)に基づき、不祥事を起こした国家公務員に対する退職手当の支給の在り方等を見直すため、昨年11月末以降、有識者からなる検討会を開催し、退職手当の不支給・返納制度に関する法制上の課題について専門的な検討を行っており、今年の春までを目途に結論を得ることとしている。1月に公務労協からご意見を伺ったところであるが、今後の検討に際しても、公務労協・公務員連絡会からのご意見は十分伺ってまいりたい。
7 非常勤職員等の労働条件の改善について
非常勤職員の実態については、現在、人事院において各府省から聴取していると聞いている。総務省としては、人事院とは別に調査を実施するということではなく、人事院に対し政府としての必要な協力を行っていきたいと考えている。
これらの回答に対し、公務員連絡会側は次のとおり考え方を質した。
(1) 国家公務員の配置転換についての取組みは、正念場を迎えている段階にある。こちらとしても「職員団体もこの間の状況を組合員に伝えてほしい」との要請を受け止めて対応しているが、使用者としての最終責任は当局にあることをふまえ、総務省としても雇用調整本部に対する「協力」以上の雇用確保の取組みを行ってもらいたい。
(2) これまで総務省は、人事院勧告の尊重と完全実施が基本姿勢であったはずだが、昨年来の対応を見ると「円滑に実施されるよう努力」とニュアンスが異なってきているのではないか。まずは、昨年の閣議決定で指定職については不完全実施となったことをどう捉えるのか。人事院勧告に対して政府が「国民の理解が得られるかどうかの視点で検討」することは人事院勧告制度自体を政府が否定していることではないか。そうであれば、決定システムを変えなければならないのではないか。
(3) 人事評価については、本格実施へのヤマ場となっていると認識している。4原則2要件が確保された人事評価にむけた一層の努力を求めるが、具体的には、試行段階の際に問題となっている評価結果の本人への開示と、職員代表が参加する苦情処理については未解決のままである。春闘期のやり取りを通じて明確な回答を求める。
(4) 高齢者雇用施策については「当面、再任用制度の拡充」としているが、将来的な定年延長を含め、拡充の具体的内容を明確にしてもらいたい。
(5) 退職手当の支給のあり方については検討会に対し意見を述べてきたところであるが、今年春を目途に結論を得るとしている具体的時期および内容を明らかにしていただきたい。
(6) 国の非常勤職員については、これまで悉皆調査はまったく行われていない。勤務時間や賃金、職務内容について、各省も集約しきれない状況ではないか。格差問題が社会的に大きく取り上げられる今日、雇用問題を含めた実態改善のためには人事院の「処遇」に関わる調査だけでは不十分ではないのか。
これらの点について、総務省側は次のとおり考え方を示した。
(1) 総務省としては政府全体の取組みが円滑に進むよう協力していくものである。
(2) 昨年の人事院勧告が不完全実施となったことに対する不満については理解するが、給与改定内容に対する国民の理解も重要と認識する。ただし、総務省として人事院勧告を最大限尊重して対処する基本的な姿勢には変わりはない。国政全般との関係を十分に把握しながら、十分な協議を行っていく。
(3) 評価結果の開示と苦情処理システムに重大な関心を持っていることは十分認識している。いずれにしろ、人事評価の公平性・信頼性を高めるためには、職員団体との十分な協議が必要と認識している。
(4) 「懇談会」の報告内容は、当面、再任用制度の活用が重要と考えるというものであったと理解している。定年延長は今後の課題であり、政府としてどちらにするか結論を出しているわけではないが、内閣官房などとの連携を強化し研究して参りたい。
(5) 退職手当検討会の報告時期については、具体的なスケジュールを申し上げる段階にはない。報告後において、総務省の施策の検討に当たって公務員連絡会と意見交換することは当然である。
(6) 非常勤職員の職種が多岐に渡っていることは認識している。各府省において責任をもって適切に任用していると考えており、人事院の調査を注視していきたい。したがって、総務省としての独自の調査は予定していない。
この回答に対し、さらに公務員連絡会側は「完全実施ということを言わなくなっているのは事実だ。基本的立場が変わらないのであれば、完全実施への明確な姿勢を内外に示すべきではないか」「非常勤職員は不安定雇用のままである。本人への任用条件の提示が行われているかどうかの調査や、本人の希望に沿った任用の継続を保障すべきではないか」などと、重ねて総務省の見解を追及したが、総務省は「人事院勧告の尊重と実施に向けて最大限努力していく」「労働条件などについては、任用時に任命権者から告知されている」と、これまでの回答を繰り返し、明確な見解を示さなかった。
そのため公務員連絡会側は、「要求事項に関わる本日の回答はまったく納得できるものではなく、非常に不満である。本日のやりとりを踏まえ、引き続き検討の上、3月12日の書記長クラス交渉の段階では具体的で誠意ある回答を示すよう強く要請する」と求め、交渉を終えた。
<人事院職員団体審議官との交渉経過>
公務員連絡会幹事クラス交渉委員は、14時30分から、井原職員団体審議官、松尾参事官と交渉を行った。
冒頭、公務員連絡会の岩岬副事務局長が「2月15日に総裁に要求書を提出したので、重点事項についてのこの間の中間的な検討状況を伺いたい」と人事院の回答を求めたところ、審議官は「2月15日に総裁宛に統一要求が提出された。3月19日の最終回答に向けて、今後もしっかり意見交換を行っていきたい」と述べた上で、次の通り答えた。
1 賃金要求について
(1) 本年の民間春闘において、経営側は、支払い能力を基準とした個別企業の賃上げは容認するものの市場横断的なベースアップはもはやあり得ないとの姿勢を示している。また、労働側については、既にベア要求を行っている大手企業の要求額は、あまり大きくはない状況である。年明け以降の経済情勢の厳しさを受け、春闘状況は予断を許さないものとなっており、3月中旬以降行われる回答・妥結の動向を注視していきたい。
(2) 人事院としては、例年と同様、情勢適応の原則に基づき、民間給与の実態を精緻に調査した上で、民間給与との精確な比較をして、較差を解消することを基本に給与勧告を行う。
(3) 政府の官民給与比較方法の検討の要請に関しては、人事院としては、まずは現在進めている給与構造改革を着実に実施していくことが肝要であると認識しているが、公務員給与の在り方については、情勢適応の原則に基づき常に検討を続けているのであって、政府からの要請を含め、広く各方面の意見を聴きながら公務員の適正な給与の確保に向けて、人事院の使命に鑑み、その責任を果たして参りたい。
なお、比較対象企業規模については、同種同等の業務を行っている者同士を比較するという民間準拠方式の下で、民間企業従業員の給与をできるだけ広く把握し、反映することが適切であり、現行の50人以上という規模は、現段階では妥当なものと考えている。
(4) 住居手当の見直しに関し、自宅に係る住居手当については、平成15年の勧告時の報告において基本的な考え方を示しているが、2,500円という月額は、手当としての意義が薄れており、また、最近、財形持家個人融資の件数が極めて少なくなってきていることから、これを廃止する方向で検討している。
(5) 特地勤務手当については、現行基準に基づく級地と実際の格付級地との乖離が大きくなっており、また、へき地手当の見直しが行われることを考慮し、見直しを図るものであり、ご理解をいただきたい。現在、見直し作業を進めており、今後、各府省を通じた実態の把握等を行うこととしているが、職員団体等関係者のご意見も聞きながら検討を進めてまいりたい。
(6) 給与構造改革については、今後とも公務員連絡会の意見も伺いつつ引き続き具体化に向けて検討を進めて参りたい。なお、本府省手当については、本府省における職務の特殊性・困難性などを考慮して新設するものであり、本年の勧告も視野に入れ具体化に向けて準備を進めているところである。
2 労働時間等について
(1) 所定勤務時間の短縮については、新たな勤務時間に対応した適切な勤務体制等や関連諸制度の検討等の所要の準備を行った上で、本年の民間企業の所定労働時間の調査結果を考慮して、民間準拠を基本として勤務時間の見直しに関する勧告を行いたいと考えている。
(2) 超過勤務の削減については、各職場を含め政府全体の取組みが必要である。まずは、各府省において不必要な在庁時間を削減するとともに、超過勤務を命ずべき業務についても、業務量を減らす取組み、厳正な勤務時間管理や現場における時間効率の向上の取組みを行う必要があると考えている。現在、各府省の実態に即した具体的な取組みに向け、内閣官房及び関係機関を中心に各府省との間で協議を行いつつ、取組みの計画、スケジュール等について検討を進めている。
3 非常勤職員の処遇改善について
(1) 現在、非常勤職員の給与に関し、実態に合った適切な給与が支給されるよう、各府省から実態等を聴取しつつ、必要な方策について検討を進めているところである。また、休暇についても、従前通り民間の状況等を踏まえ、適切に対処して行く所存である。
(2) 非常勤職員の問題は幅広い問題であり、予算・定員等の関係も念頭におきながら、民間の状況も見つつ、その位置付け等も含めて、人事院のみならず政府全体で幅広く検討される必要があると考えている。
4 新たな人事評価の活用について
人事院としては、人事行政の公正の確保や職員の利益保護を図る観点から、新たな評価制度が納得性・信頼性の高いものとなるよう適切に役割を果たしてまいりたい。また、新たな人事評価制度の任用・給与への活用の在り方等については、公務員連絡会を始め関係各方面のご意見を十分に伺いつつ、さらに検討を進めてまいりたい。
5 新たな高齢雇用施策について
雇用と年金の連携を図り、職員が高齢期の生活に不安を覚えることなく職務に専念できるよう環境整備することは重要な課題と認識している。昨年の勧告時報告において、平成25年を見据えて公務における高齢期の雇用確保策について総合的に検討する必要がある旨を言及し、昨年9月から学識経験者等で構成する「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」を開催するなど検討を進めているところである。
検討に当たっては、必要に応じ、職員団体を始め関係者の意見を伺い、その理解を得ていくことが重要と考えている。
6 その他
国家公務員が裁判員等の職務を遂行する場合には、特別休暇として措置することを前提に、現在、その準備を進めている。今後適切な時期に所要の改正を行う所存である。
回答に対し公務員連絡会側は、次の通り人事院の見解を質した。
(1) 政府の官民比較方法の見直し再要請に対して、昨年の基本要求に対する回答では、まずは給与構造改革を着実に行うということで、圧力には屈しないとの姿勢が示されていたが、今の回答では一般論として常に適正なものとなるよう検討していくということなのか、要請に応えて見直さざるを得ないという意味なのかはっきりしないので明確にしてほしい。また、企業規模は変えないということも確認させていただきたい。
(2) 住居手当、特地勤務手当については昨年来の交渉経緯があり、人勧期まで十分に話し合って、納得の上で結論を出すよう重ねて要請する。始めに見直しありきではなく、較差や社会状況を踏まえて対応してほしい。特地勤務手当については、ルールを逸脱した見直し提案であり、来年行うということではなく、現地の声を十分に聞いて検討を進めていただきたい。
(3) 本府省手当については、昨年は22年度までに検討するという考えが示されていたが、いつ「本年の勧告も視野に入れ」ることにしたのか。われわれは、この手当については、給与構造改革の提案の際も反対であることを明確にしてきたが、本年の勧告も視野に入れるという見解はわれわれに挑戦状を突きつけるものだ。手当の趣旨も相変わらず理解できない。撤回を求める。
(4) 所定勤務時間の短縮については、昨年の報告や基本要求への回答のスタンスは変えずに準備を進める姿勢であると受け止めるが、間違いはないか。
(5) 超過勤務の縮減について、各府省の実態を調べながら具体案を検討しているということであるが、どのような内容であり、いつから実施するのか。
(6) 非常勤職員の処遇改善に向けた措置については、新年度から実施することができるよう、具体案が示されることを期待していたが、検討状況はどうなっているのか。また、処遇の問題は人事院が調査しているとのことであるが、任用状況については総務省も調査をしておらず、放置されている。今春闘では民間でも非正規職員の処遇等の改善に重点を置いておいて取り組んでおり、人事院としても関係機関の協議の場を呼びかけ、研究会を設置して検討するなど責任を持った対応を行うべきだ。
これに対し人事院側は、次の通り考えを示した。
(1) 政府の見直し要請に対する回答の趣旨は昨年から変わっておらず、情勢適応の原則を踏まえれば常に検討する必要があるということである。企業規模については、50人以上が妥当だと考えている。
(2) 本府省手当については、いろいろと検討していく中で本年の勧告も視野に入れて検討する必要があるということで提示しているものであり、これまでの考えを変えたものではないし、本府省勤務の困難性や人材確保のために検討するものである。いずれにしても十分ご意見を伺いながら検討して参りたい。
(3) 勤務時間の短縮については、本年の民間調査を踏まえて対処することにしており、昨年以来の姿勢に変わりはない。
(4) 超勤対策については、現在内閣官房を中心に実態を踏まえながら各府省と調整中であるが、できるだけ早く示せるよう努力したい。今の段階で内容や時期について申し上げることはできないが、固まった段階で意見を聞いていきたい。
(5) 非常勤職員の処遇改善措置については、基本要求に対する回答でもできるだけ早く示したいと答えて努力してきたが、予算などいろいろな問題があり、手間取っている。新年度から実施することは困難だが、できるだけ早く具体案を示せるよう努めたい。
その後、公務員連絡会側は、本府省手当の実施提案などをめぐって人事院を厳しく追及し、「本年勧告も視野に入れた検討」を撤回するよう再三にわたって求めたが、人事院側は撤回する姿勢を一切示さなかった。
このため、公務員連絡会側は、最後に「われわれが改善を求めている超過勤務の縮減や非常勤職員の処遇改善措置を先送りにする一方、われわれが反対してきた本府省手当については、突然本年勧告を視野に入れるというのでは極めて不満である。12日の書記長クラスと各局長との交渉では、本府省手当を撤回することはもとより、われわれの要求についてより明確で誠意ある回答を示して欲しい」と局長交渉では納得できる回答を行うよう強く求め、本日の交渉を打ち切った。
以上