公務労協は、9日、「国家公務員法等の一部を改正する法律案骨子(イメージ)」(2009年度公務労協情報No.30参照)について、公務員事務局との3回目の交渉・協議を実施した。
交渉・協議は、14時45分から行われ、公務労協側から岩岬・藤川両副事務局長ほかの実務交渉メンバーと構成組織担当者が参加し、公務員事務局側は淵上・古賀両審議官らが対応した。
冒頭、古賀・淵上両審議官から、公務労協が提示した別紙「内閣人事局・行政管理局の設置等に関わる改正法案の問題点」について、次の通り、回答があった。
1.採用・任用・研修の企画立案移管の理由等について
今回の改革の趣旨、柱は、行政の中枢に近い機関において、行政需要、人材ニーズに対応した多様かつ優秀な人材を活用できるようにしたいこと、及び人事管理について官房長官が国民に対する説明責任を果たせる体制を作る必要があることであり、これらが移管の理由。前者に戦略中枢的に重要な意味を持たせることを位置づけている。他方、憲法15条2項の公務員は「全体の奉仕者」という考えを維持することとするが、公正確保の具体的方法は立法政策の問題であり、いまの制度を動かしてはいけないということではない。しかし、人事院からいろいろご懸念をいただいているので、あらかじめ人事院の意見を聴くことにしているところであり、人事行政の公正性確保のため、十分な配慮をしている。
2.級別定数について
時代の変化に伴う、ポストの重要性の変化に機動的に対応し適切な人材を充てていくためには、行政管理局の機能と合わせ級別定数を、内閣人事・行政管理局が担うことが大切である。級別定数は組織管理と密接に関連する機能であり、定数を決める前提として、ポストの重要性、困難性を見ており、管理運営事項的側面が強いが、定数が昇格の運用に影響を与え、勤務条件との関連もある。そのため、移管の提案に当たっては、あらかじめ人事院の意見を聴取する仕組みを設けることによって、これまで組合を含めて関わられてきた経緯に配慮している。具体的な仕組みは、人事院と十分相談していきたいと思っており、組合の意見を聴きながら決めていく仕組みにしないといけないと思っている。
なお、給与法6条3項(分類の基準)や8条2項(職務の級の決定基準)は引き続き人事院の所管としている。
労働基本権の問題が解決していないとしても、問題のない仕組みであると考えている。
3.内閣総理大臣による人事院への意見申出と職員団体の同様の扱いについて
職員団体からも意見の申出を行えることにすることについては、非常に強い要望があり、再度検討するということを前回申し上げた。いま、制度官庁、人事院と調整しており、皆さんのご意見に近い、新しい考え方の案を改めて提示したいと思っている。
4.幹部職員の任用弾力化と管理・一般職員の取扱いについて
情実任用になることはないと思っている。人事院が政令の改廃に対して意見の申出をすることにしているし、任用の根本基準の実施に必要な事項についても人事院の意見を聴くことにしており、人事院による是正指示も設けるので、公正確保は十分図られると思っている。今も、政治家である大臣が人事を行っており、あらたに、内閣人事・行政管理局が適格性審査をするほか、3大臣(首相、官房長官、各府省大臣)協議もあるので、情実任用などおかしなことはむしろやりにくくなるのではないか。
幹部職員の任用の特例を設けるのは、基本法で幹部職員、管理職員の範囲で昇任、降任できる弾力的な措置を講ずることが求められており、今回、盛り込むことにしたものであり、幹部職員の人事管理の一元化にあたり、より適材適所の人事を行うため必要と考えている。また、今回、管理職員と一般職員はやらないことにしたのは、人事院の勧告を経る必要があり、間に合わないということがある。なお、幹部職員は一官一給与であり、任用で給与が決まるため、勧告を受ける必要性がないということで措置することにした。検討課題とは認識しているが、管理職員と一般職員に同様の措置を設けることは難しいと思っている。
5.内閣人事・行政管理局が指定職の号俸決定を行うことについて
法制局長官も、級別定数を移管することが直ちに憲法上許されないわけではないと国会で答弁しており、指定職の号俸決定も同様と考えている。指定職だからと言って、直ちに一般職とは別とは考えておらず、労働基本権制約も踏まえ、あらかじめ人事院の意見を聴くことにしている。
6.内閣人事・行政管理局の機能について
基本法で、内閣官房長官が政府全体の人事管理について説明責任を負うことにされるとともに、内閣人事局の機能を実効的に発揮するため必要な範囲で機能移管するとされていることから、逸脱したものとは考えていない。組織定員と級別定数を一体的に管理することで、行政需要の変化に応じたポスト、人材配置が可能となるし、内閣全体として行政改革全般に取り組むことは国家公務員の制度を社会経済情勢の変化に対応したものとするという基本法の趣旨に沿うものである。
法制局も慎重な審査を行っており、いろいろなところで人事院の関与を設け、憲法上の問題を生じない形で提案を行っている。
鳩山総務大臣と甘利公務員制度改革担当大臣が話し合い、内閣官房に行政管理と人事管理を集約するとともに、引き続き行政改革を推進することしたものであり、行政管理の一環として情報システムも入っている。全体として、行政管理の適正化、効率化を図っていくための措置と位置づけられている。
これに対し公務労協側は、「全体として、極めて不十分で不満な回答」との認識を示した上で、次の通り、公務員事務局の見解を質した。
(1) 法案の閣議決定のスケジュールはどうなっているのか。
(2) 内閣に戦略中枢機能を持たせたいということであれば、そうした機能を付与すればいいのであって、人事院の採用・任用・研修の企画立案機能を移すことは別の話だ。現行公務員制度の根幹である中立公正性が損なわれる危惧がある。内閣人事・行政管理局に移したとき、中立公正性はどう確保されるのか。成績主義の原則をどう担保するのか。
(3) 定員を削減したいのであれば、級別定数をやるということではなく、定員自体を削減すれば済む話ではないか。級別定数を内閣人事・行政管理局に移管した後、意見を申し出る権限のある人事院と交渉しろというのも無責任な話だ。内閣人事・行政管理局とは交渉できないとすれば、交渉機能が低下するのではないか。移すのであれば、バランスを取るために、協約締結権の付与に先立って、現在の交渉の仕組みを強化すべきだ。
(4) 職員団体の意見の申出は、われわれの要求を踏まえて具体化していただきたい。
(5) これまで、身分保障は官職の保障という理解であったが、「幹部職員という身分」の保障に変わるのか。また、任用の弾力化は、管理職員は検討する、一般の職員はやらないと受け止めていいか。降任の必要性はどのように判断するのか。
(6) 労働基本権は、労使双方を制約しているのであり、たとえ幹部職といえど使用者が政令で勤務条件を一方的に決めることはできないのではないか。
(7) 幹部職員の一元管理を行うという精神で、与野党合意で「人事管理庁」が「人事局」に修正された経緯から見ても、内閣人事・行政管理局は基本法を逸脱している。
また、人事院に意見の申出を行わせれば憲法違反にならないという説明も納得できないので、使用者の権限を強化するのであれば、直ちに労働基本権を保障していただきたい。
これらの追及に対し、公務員事務局側は、次の通り答えた。
(1) 法案についての政府部内の調整は、人事院を除いてほとんど終わった。要望のある職員団体の意見の申出については、今、作業を行っている。
法案について、甘利大臣からできるだけ早く決めたいと言われているし、官邸も遅れることなくと言っているが、与党の調整が残っており、いまのところ具体的日程の見通しは立っていない。
(2) 級別定数の移管に当たっては、労働基本権の代償機能、中立公正確保を含めて、あらかじめ人事院に意見を出してもらうことで、開かれた議論、交渉ができると思う。交渉機能が低下するとは考えていない。これまで勤務条件に直接影響する事項として、組合と人事院と交渉してきた経緯があり、内閣人事・行政管理局とも交渉することになると思うが、どういう仕組みにしたらいいのか、人事院と相談したい。
(3) 任用の弾力化について、管理職員は基本法に書いてあるが、一般職員は書いてない。幹部職員の降任については、争い、裁判になっても持ちこたえられるような客観的な事実がないとできないと考えており、そんなに起こるものではない。
以上のように、公務員事務局側が納得できる説明を行わなかったことから、公務労協は「今日の説明では納得できない。作業の進捗状況を踏まえながら、引き続き議論をさせていただく」とし、第3回の交渉・協議を締めくくった。
(別紙)
内閣人事局・行政管理局の設置等に関わる改正法案の問題点
2009年3月5日
公 務 労 協
1.採用・任用・研修の企画立案を人事院から移管しなければならない理由を説明されたい。現行公務員制度の根幹である政治からの中立公正性が損なわれないとする根拠を示されたい。
2.級別定数を管理運営事項とする明確な根拠を示されたい。級別定数は、給与制度の一環であり、具体的に官職の責任と複雑度に応じて給与水準を決定する仕組みであり、明確に勤務条件であると考えるが、それを内閣人事・行政管理局に移管することとなれば、労働基本権問題も同時に解決し、団体交渉で決定する仕組みも制度化しなければならないと考えるが、どうか。
3.内閣総理大臣が人事院規則の改廃に関して意見の申出を行うこととしているが、これは使用者にとって都合の悪い規則を変えろという圧力を人事院に加える仕組みとなり、実質的に労働基本権制約の代償措置を空洞化することとなるのではないか。
また、使用者のみが人事院に意見の申出を行う仕組みは制度的なバランスを欠くこととなるのではないか。行政措置要求に「職員団体」を加えることがこれに対応する措置としているが、行政措置要求と意見の申出の仕組みは全く性格の異なるものであり、現実の機能としても到底対抗措置とはならないのではないか。
貴職は、3日の交渉・協議で「再検討して回答する」との見解を示しているが、撤回するか、少なくとも、108条の2の「職員団体」の項に同様の規定を設けるとの回答を示すべきではないか。
4.幹部職員の任用については、人事管理の当事者が適格性を審査することとしたのでは、その中立公正性を損ね、情実任用が跋扈することを防げないのではないか。加えて、降任の特例を設けることは、管理職員・一般職員を含めて、身分保障に抵触するものであり、認められない。
5.たとえ幹部職員であっても、指定職俸給表の号俸決定まで政令で定めることは、労働基本権制約下においては問題あると考えるが、見解を示されたい。
6.今回の内閣人事・行政管理局の設置は、公務員制度改革基本法の枠組みを大きく逸脱し、強大な権限を持った中央人事行政機関を発足させることとなるものと考える。基本法から逸脱した制度設計は行うべきではないのではないか、また、可能と考える根拠は何か、示されたい。
すくなくとも、労働基本権を直ちに付与し、団体交渉で勤務条件を決定するシステムを発足させない限り、憲法上の問題を惹起することとなると考えるが、見解は如何に。
また、人事管理に責任を持つ、内閣人事・行政管理局の事務として、何故、情報システムの整備及び管理の事務まで入るのか、その理由を示されたい。
以上