人事院は、本年の民間給与実態調査に関する方針が固まったとして、公務員連絡会・労働条件専門委員会にその骨格を提示した。
この民間給与実態調査は、夏の人事院勧告に向けた基礎作業として例年5月から実施されており、公務員連絡会は4月にその内容を確認する交渉を行ってきたことから、本年もその提示がなされたものである。
冒頭、人事院の上山参事官は、次のとおり基本的な骨格を明らかにした。
1.調査期間については、5月1日(土)〜6月18日(金)の49日間(昨年と同じ)。
2.調査対象事業所は、企業規模50人以上で、事業所規模50人以上とする母集団約51,000事業所(昨年は約50,200事業所)から抽出した約11,100事業所(昨年と同じ)。カバー率は昨年とほぼ同水準の65%程度である。
3.調査方法は、人事院と、47都道府県、19政令指定都市、特別区、熊本市、和歌山市の69人事委員会が分担し、職員が直接事業所を訪問して調査を行う。調査員は、昨年同様約1,200人である。
4.調査の内容は以下の通り。
(1) 事業所単位で行う調査事項
@賞与及び臨時給与の支給総額
A毎月きまって支給する給与の支給総額
@、Aに関わって、ボーナスの民間との比較の基礎として、賞与及び月例給の支給状況
B本年の給与改定等の状況
ベース改定、定期昇給の状況、賞与の支給状況等
C高齢者雇用施策の状況
定年制度の状況、定年前の給与減額の状況、役職定年制の導入状況、定年前の短時間勤務制度の状況等
(年内に段階的定年延長について意見の申出を行うこととしていることから、詳しい調査を行うこととしたほか、従業員別に行う調査において、60歳を超える従業員(再雇用者等)の給与についても調査する。)
D家族手当・住宅手当・単身赴任者に対する手当の支給状況
(住宅手当については、支給額のほか、支給の趣旨や支給額決定要素も調べる。単身赴任者に対する手当は平成19年、20年に調査し、昨年は行っていないが、本年調査する。)
E改正労働基準法の施行に伴う時間外労働等の割増賃金率の引上げの状況
(公務員連絡会の強い要望を踏まえ、月45時間未満の割増率や法定休日・所定休日の取扱い等を含めて詳細に調べる。)
F雇用調整の状況
平成22年1月以降における措置の状況、4月分給与の減額の状況等
(昨年同様、ワークシェアリング、賃金カットを含めて調べる。)
(2) 従業員別に行う調査事項(調査職種78、うち初任給関係19)
月例給の民間との比較の基礎として、年齢、学歴等従業員の属性とその4月分所定内給与月額(4月分のきまって支給する給与総額と、そのうちの時間外手当額、通勤手当額
(初任給については、新たに総合職、一般職に分けて調べる。)
これに対して、公務員連絡会側は、次の通り、人事院の見解を質すとともに要望を行った。
(1) 本年、新たに60歳を超える従業員の給与水準を調査するとのことであるが、改めて調査の趣旨を説明していただきたい。個人別に調べるとなると官民較差に算入することが懸念されるが、官民較差には算入しないと受け止めてよいか。また、再雇用者には企業年金や高年齢雇用継続基本給付金が給付される場合があるが、その額も調べるのか。
(2) 本年個別に調査する住宅手当、単身赴任手当は、公務員連絡会として春闘要求でも具体的に要求しているので調査結果を踏まえた対応については、勧告期に向けて公務員連絡会と十分話し合いながら作業を進めていただきたい。なお、国家公務員については、昨年の勧告で持家に対する手当が廃止されたが、民調でも調査対象外とするのか。
(3) 時間外手当の割増率について、われわれの要求を踏まえて幅広く調査することについては評価したい。調査結果を踏まえて、官民均衡の原則に基づいて改善することが重要であり、取扱いについては公務員連絡会と十分協議しながら進めていただきたい。
(4) 高齢者雇用施策について詳細な調査を行うこととしているが、段階的な定年延長の意見の申出に向けた制度設計に当たっては、調査結果を含めて、公務員連絡会との十分な交渉・協議、合意に基づいて作業を進めることを再確認していただきたい。
(5) 初任給について、総合職、一般職の別に調査することにした理由は何か。
これらに対し、上山参事官は次の通り答えた。
(1) 60歳を超える再雇用者等の給与を個人別に調査することにしたのは、定年を延長するための意見の申出を行うとき、民間における高齢者の状況を詳しく調査し、それを制度設計に役立てようということである。官民較差に取り入れるものではない。また、企業年金等は受給の有無の調査であり金額は調べない。
(2) 住居手当や単身赴任手当の調査結果に基づく対応については、公務員連絡会の皆さんと十分議論させていただく。なお、民調では借家・借間、持家、社宅を含めて調査することにしている。
(3) 時間外割増率等については、改正労基法の施行に合わせて民間企業がどのように対応しているのかを把握し、その結果、国家公務員の制度改正が必要となれば、その基礎資料としていくための調査でありその取扱いについては皆さんと議論していく。
(4) 高齢雇用施策の調査についても、必要に応じ、皆さんにその結果をお示ししながら、議論して参りたい。
(5) 初任給調査については、これまでも複数の初任給を設定している企業が相当あり、それを備考で整理してきた実態があった。そこで本年は調査しやすいように調査票を設計したということである。
最後に公務員連絡会は「公務員を巡る状況は、定員が削減される一方、業務は減らないなど極めて厳しい。5月からの調査に当たっては、民間実態を精確に把握し、公務員の給与を改善するという意気込みを持って調査に臨んでもらいたい。また、6月には人勧期要求を提出することにしているので、調査結果等については、勧告前に公務員連絡会と十分な交渉・協議ができるよう配慮していただきたい」と申し入れ、交渉を終えた。
以上