公務労協は、4月19日14時から、2010年度政策制度中央集会を自治労会館で開催した。現在公務労協では、公共サービスキャンペーンの一環として、昨年5月に制定された公共サービス基本法を受け、全国での基本条例制定運動を展開している。今回の集会は、公共サービス基本条例とは何か、なぜ条例制定が必要なのかをともに考え、理解を深めるとともに、運動の更なる活性化を目的として、「公共サービス基本条例を考える」をテーマにシンポジウムとして開催した。集会には、全国から180人の仲間が結集し、公共サービス基本条例制定の意義と重要性などについて理解を深め合った。
冒頭、徳永公務労協副議長が主催者挨拶に立ち、「公共サービス基本法の理念を現実の事務事業に具体化させ、国民の信頼を回復し、国民の安全・安心を確保することが、公共サービスに従事する労働組合の社会的責務として、我々に課せられた喫緊の課題だ」と述べ、「この日の集会を契機に、公共サービス基本条例の制定をめざして更にとりくみを進めていこう」と訴えた。
シンポジウムでは、パネリストを宮本太郎北海道大学大学院教授、嶋田暁文九州大学大学院准教授、池本修悟NPO事業サポートセンター専務理事が、またコーディネーターを藤川伸治公務労協副事務局長が務めた。
まず最初に、公務労協政策制度専門委員会において公共サービス基本条例の骨子を検討するにあたり大変尽力をいただいた嶋田准教授から、同条例の趣旨と条例の制定が必要となる今日的な背景が説明された。
嶋田准教授は、公共サービスは憲法上で国民に保障された社会的基本権を具体化したもので、公共サービスを供給する側はその責任を負うことを前提として、その享受は一人ひとりの市民の権利であるとした。その上で、そうした基本理念を実現するためには、@公共サービスは必要とする市民に不足なく提供されなければならないこと、A公共サービスの質と量は、市民の手の届くところで決定されなければならないこと、B公共サービスの主体は、それぞれの自律性等を前提としながらも相互に連携・協力することで「相乗効果」を目指さなければならないこと、C公共サービスの実施に携わる者は、公共の規律を遵守しなければならないこと、D公共サービスの実施においては透明性が確保され、情報公開されなければならないこと、E公共サービスの実施に従事する者の労働環境は、適正なものに保持されなければならないことという6つの原則が必要であるとした。そして「それらを具体化するのが公共サービス基本条例である」と述べた。
また、公共サービス基本条例においては、公共サービスをNPOや企業等が提供するサービスも含めて「公共サービス」と捉え、その必要充足性と品質を確保するため、市民が公共サービスにアクセスできる仕組み、多様な供給主体が調整し、役割を分担しながら認定された市民ニーズを充足する仕組み、苦情を受けてサービスの改善を図る仕組みなどを構築することが必要であり、地域公共サービス市民会議や、公金支出を受けてサービスを実施するNPO・企業等の活動も含めた苦情処理対応の仕組みの整備などを規定することが、条例を定める際の主要なポイントであるとした。地方分権や「官から民へ」の流れが強まり、「公共」の担い手が多様化し、社会的排除が進展し、社会的包摂の必要性が高まる中、公共サービスの基盤を整備し、公共サービス全体の質と量を確保するためにも、公共サービス基本条例の制定が重要であると訴えた。
公契約条例との関係では、公共サービスの質を担保するため取り組まなければならない課題を体系的に整理して位置づけたものが公共サービス基本条例であり、公契約条例は、そのうちの最も重要な柱の一つである公共サービスに従事する人の労働環境の整備などを規定したものであると述べた。そして、両者を車の両輪として同時に制定していくことが重要であると語った。
嶋田准教授の提言に対して、宮本教授は、公務労協が提唱した「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」の幹事として、公共サービス基本法につながる考え方をまとめた立場からコメントした。宮本教授は、現在の民主党政権が、強い行政不信のなかで成立したという事情から、その一つの現れとして子ども手当など現物支給が優先され、保育サービスや公的職業訓練などが後手に回る傾向があり、持続可能な福祉国家となりえるかという課題があるとした。また、強い行政不信への処方箋の一つである地方分権改革や「新しい公共」の形成などが公共サービス拡充の足かせになってしまう傾向にある現状に懸念を示した。その上で、人々の身近なところで、ニーズに見合った公共サービスを設計、実行するために基本条例が重要であることを訴えた。それが、行政への信頼の醸成につながるとともに、地方分権改革、公共サービス拡充の最良の処方箋であると指摘した。
池本専務理事は、「新しい公共」を掲げる鳩山政権に対し直接的な政策提言をしているNPOの立場からコメントした。「NPO事業サポートセンター」では、市民やNPOの行う公共・公益活動がさまざまな分野・場面への広がりを見せる中、地域や活動分野、所属の違いを超えて、市民自身が主体的に参加する新しい公共・公益の実現という社会的使命の達成をめざしていること、今年1月29日に設立した「市民キャビネット」では、NPOや市民団体が自らの責任で担い、政権がめざす「新しい公共」を実現するため政策提言を行うべく活動を進めていることを紹介した。そしてNPOとしては、公共サービスの担い手として、基盤の整備を進めるとともにNPO自身がその信頼性・公共性をピーアール(PR)していく必要があると述べた。
シンポジウムに先立ち、公務労協は、13時から「公共サービス基本条例に関する地方代表者説明会」を開催し、1月に確認し、すでに取組みを進めている@「公共サービス基本条例の制定を求める都道府県集会」の開催A街頭宣伝行動B「公共サービス基本条例制定」要請署名活動と地方議会議員への要請行動などを、さらに強化していくことを改めて確認した。
この説明会のまとめにあたり、吉澤公務労協事務局長は、要請署名について、@組織的活動への結集A民間組合の人々や市民・国民を含めた組織外への周知B議会・自治体への要請という、3つの位置づけがあることを改めて示すとともに、「公共サービス基本法をいかに広げ、深めていくかが重要である」とし、公共サービスに従事する労働組合としての社会的責任を果たすべく、基本条例の制定に向け、お互い共通認識を持ってさらなる取組みを進めていこうと訴えた。
以上