公務員連絡会書記長クラス交渉委員は、17日午前、政府を代表して片山総務大臣から13日に提案された国家公務員の給与引下げ案について、内山総務大臣政務官と交渉を行った。政務官は前回公務員連絡会が指摘した事項に回答するとともに、「皆さんからのご指摘を踏まえ、給与額の少ない中堅、若手層には一定の配慮を行った」として、俸給月額については一律1割削減ではなく、職務の級に応じて傾斜をつけた削減案とし、本府省課室長級10%、本府省補佐・係長級8%、係員級5%をそれぞれ削減するほか、俸給の特別調整額及び一時金については一律1割削減とするなどの具体的提案を行った。公務員連絡会は、この提案内容について持ち帰り検討することとした上で、回答内容等について、政務官を厳しく追及し、政府に対して引き続き誠意ある交渉を行うよう要求した。
内山総務大臣政務官との交渉の経過は次の通り。
<内山総務大臣政務官との交渉経過>
公務員連絡会書記長クラス交渉委員は、10時30分から、総務省内で内山総務大臣政務官と交渉を行った。
冒頭、内山政務官は「本日の交渉については、片山大臣を補佐するよう指示を受けている私が、大臣の代理として担当させていただくのでよろしくお願いする。前回の交渉において、皆さんからいただいたご指摘のうち、後日回答することとした事項について、お答えする」と前置きした上で、以下の通り回答した。
(1) 第1に、給与カットの理由・必要性を説明していただきたい、また、人件費削減の全体像の中での給与カットの位置づけを示していただきたい、とのご指摘があった。
国家公務員の人件費の削減については、昨年11月の人事院勧告の取扱いを決める段階で、菅政権としては、給与の引下げを行うべく表明している。これは、当時の極めて厳しい我が国の財政事情を念頭に置きながら検討したもので、その結果、次の通常国会に法案を提出することを決定した。
そのようななか、今年3月に東日本大震災が発生し、これに対処するために巨額の財源が必要となり、更なる歳出削減が不可欠となっている。このため、国家公務員の給与引下げにより捻出された財源は、震災復興のためにも使われることが予想される。
また、今回、1割カットを基本としているのは、このような厳しい財政状況と東日本大震災への対処のため、更なる歳出削減が不可欠であることから、職員の皆さんに最大限の協力としてお願いすべく提案させていただいている。削減率の設定にあたっては、地方公共団体においても厳しい財政事情に鑑み、様々な給与削減の取組を行っており、そういった取組みについても参考とさせていただいた。
今回の給与カットの位置づけは、昨年来、皆さんと協議させていただいた人件費削減の流れの中で行うものである。法案提出時には、今後の国家公務員の総人件費削減に向けた「各般の取組み」を明らかにすることとしており、その中で、給与以外の措置についても方針的なものをお示ししたいと考えている。
(2) 第2に、総人件費削減に当たり、東日本大震災への対応に取り組んでいる中、これまでのような定員削減の取組みは凍結するとともに、超勤予算を確保すべき、とのご指摘があった。
今般の大震災の発生に伴い、現在は、純減目標を掲げて大掛かりに定員を純減することを検討しうるような状況ではないと認識している。
24年度においては、大震災の対応には配慮するが、例年どおり、厳しく業務の見直しや効率化に取り組み、通常の定員審査は進めたいと考えている。
25年度以降の定員の取扱いについては、大震災対応に伴う復旧・復興等の業務の見通しや、地方移管の進展状況を踏まえて検討することしている。
また、超勤については、昨年に比べて、震災対応は、各省の職員に相当負担をかけていると考えている。予算については、それぞれの省で確保することになるが、総務省としても、実態に応じた支給がなされる必要があると考えており、必要な対応を検討したいと考えている。
(3) 第3に、削減率は一律とせず、特に給与の絶対額が少ない若年層には特段の配慮をすべき、とのご指摘があった。
こちらについては、本日、これから具体案をお示しするが、本指摘も踏まえたものとさせていただいている。
(4) 最後に、給与引下げ措置を退職手当の算定に反映しないこと、とのご指摘があった。
こちらについても、ご指摘を踏まえ検討したが、今回の給与引下げは、臨時異例の措置であることから、勤続報償的性格を持つ退職手当に反映させることには馴染まないと考えており、反映させないこととしたいと考えている。
なお、今後の退職手当の取扱いについては、人事院に依頼して今年度実施予定の官民比較調査の結果を踏まえて給付水準の見直しを行うこととしている。
調査の実施時期については、東日本大震災の影響で人事院における給与実態調査が遅れていることから、現在、着手できる時期を調整中である。
その上で、内山政務官は「先日大臣から「俸給・ボーナスについて1割カットすることを基本として国家公務員の給与引下げを行う」旨を提案したが、その具体案をお示ししたい」として、別紙「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示し、「俸給月額については1割を基本とし、皆さんからのご指摘を踏まえ、給与額の少ない中堅、若手層には一定の配慮を行った」と説明した。
また、村木人事・恩給局長が@俸給月額は、月例給については、とくに若手職員に配慮するようにということで半分の削減率とし、本府省課長補佐・係長相当職は俸給の逆転が生じないようにということも配慮し、8%の削減率としたこと、A本府省業務調整手当、俸給の調整額は減額しないこと、B減額措置期間終了後は、政府が別途検討している労働基本権付与の法案が成立した後であれば、労使交渉で改めて決まるという考え方であること、を補足説明した。
提案に対し、公務員連絡会側は、「若手については一定の配慮をいただいたが、全体として厳しい提案であることに変わりはない。本日の具体的提案については、組織に持ち帰って検討する」ことを表明した上で、次の通り、内山政務官を追及した。
(1) 冒頭、政務官は"大臣の代理"の立場で対応すると述べられたが、本日の交渉及び回答は総務大臣政務官としてではなく、政府代表としての交渉であり、回答と理解してよいか。
(2) 交渉はいかに誠実に行われたかどうかが大事であり、@提案に対して譲歩の姿勢があったかどうか、Aわれわれへの説得と納得のできる十分な説明責任が果たされたかどうか、が重要だ。先週われわれが指摘したことを踏まえた具体的提案が行われたということであり、@については確保されたと理解する。しかし、今日及び今後の交渉でAが確保されるかどうかが問題であり、誠実に対応いただきたい。
(3) 地方公務員の給与引下げについて、マスコミによる報道が先行したということがあったが、内閣の中から、この問題に対していとも簡単に政府方針と異なる発言がなされるのでは政府としての誠実性が担保されない。この点について、内閣全体として明確に確認いただきたい。
(4) 大臣から、地方交付税や義務教育費国庫負担金は削減しないとのことだが、いつまでのことか。総務省にそのつもりがなくても財務省は削減対象にしようとしているのではないか。また、国立大学法人や独立行政法人の運営交付金、国有林野についてはどう考えるのか。地方公務員はもとより、これら独法等への影響についても遮断してほしい。
(5) 今回の給与削減の対象範囲はどこまでか。国家公務員の給与を下げると、民間企業にも影響することになるので、マクロ経済を含めた影響についても十分配慮すべきであり、影響させないよう政府としての明確なメッセージを発していただきたい。
(6) 政務官は給与削減の目的を厳しい財政状況と震災復興費用の捻出と述べられたが、改めてその目的について伺いたい。結果として復興財源となることを否定しているわけではないが、復旧・復興ありきという点で地方公務員への影響などの混乱を招いており、政府は世の中に対しても十分説明責任を果たしていない。
(7) 今回、1割削減を基本としているがその根拠は何か。
(8) 今回の給与削減をしたところで、国の財政状況がよくなるとは思えないが、この削減にどれほどの効果があると見込んでいるのか。地方では厳しい起債制限もあり財政運営上どうしても足りないと言うとき、そのなかで労使のギリギリの努力で人件費を削ってきた。地方自治体の例を参考にといっても、無制限に国債を発行してきた国と、地方とを同列に考えることはできない。
(9) 給与の1割削減でギリギリのところであり、民主党マニフェストに掲げられている総人件費2割削減については白紙に戻してほしい。
(10) 震災から2ヶ月が経ち、被災した国家公務員は経済的な面での苦痛に直面している。こうした状況のなかでの給与削減は辛いものであり、前年の収入ベースで課税される住民税等税制面での負担もあり、給与削減が及ぼす影響はさらに大きいものになることを考慮いただきたい。自衛官以外にも、現地で頑張っている国家公務員がいることを理解いただきたい。また、40、50代の職員は住宅ローンや教育費負担を抱えており、給与削減が家計に与える影響は非常に大きい。他の俸給表の適用者、とくに構造上水準の低い職員への配慮を求める。
(11) 給与削減法案と公務員制度改革法案と同日に提出することを確認したい。
(12) 片山総務大臣は今回の給与削減について、人勧があるなかで"極めて異例のこと"と述べられたが、これは憲法問題を意識してのことか。労働基本権の付与が前提であり、政府としても責任を持って進める姿勢を示していただいた。しかし、今通常国会は閉会間近であり、与党として政治の重い責任を担っていることについて、決意を聞かせていただきたい。
(13) 定員削減の凍結についてもメッセージを発信し、明確にしてほしい。
追及に対し、内山政務官らは次の通り応えた。
(1) 政府を代表して皆さんと交渉を行う片山大臣の代理であり、政府代表として臨んでいる。
(2) 皆さんのご指摘を踏まえ、若年層へ配慮するとともに、超勤については必要な対応を図ることを回答させてもらった。
(3) 昨日の衆議院の予算委員会で、菅総理は「地方公務員については、国の取扱いを参考にしてくれると思っている」と発言しているが、過日片山大臣が申し上げたように地方公共団体が自主的に判断すべきものという考えであり、この方針を変えるつもりは一切ない。
(4) 地方交付税や義務教育費国庫負担金、独法の運営費交付金等の扱いについては、整理・検討して後日回答する。
(5) 削減対象となる範囲は、最終的には一般職・特別職を含む国家公務員全体となるが、ここでの議論は一般職非現業職員を対象にしており、その他の職員については今回の議論をベースに検討していくことになる。民間への影響は十分理解できるし、国家公務員の動向が一つのメルクマールになることから、メッセージ性も考慮に入れた対応をしたい。
(6) 国家公務員給与引下げの目的は、総人件費2割削減の一環という話と震災復興の予算の捻出と両面がある。震災対策以前から民主党のマニフェストとの関係から人件費削減の話は出ていた。その後大震災が起こり、結果として人件費削減の新たな要素となったと認識している。こうした経緯のため、削減分は復旧・復興に充てられることになると考えている。復旧・復興については、国民全体で負担するべきと考えており、誰もが当事者であり、財政を何とかしなくてはいけないので、協力すべきと考えている。
(7) 1割削減の根拠については生活できるかどうかという観点からギリギリの線として打ち出した。住宅ローンや教育費など職員それぞれの生活状況を鑑みても、1割が限界だ。また、実際厳しい給与削減を行っている地方自治体の水準を参考にした。
(8) 国家公務員給与の引下げは、財政構造改革の一環であると考えており、これだけで財政再建ができるわけではない。財政再建に向けて様々な方法を検討していきたいと考えている。税制や社会保障について検討しているところであり、国民全体での負担、協力をお願いするところだ。
(9) マニフェストの総人件費2割削減を白紙に戻してほしいということについては、党に伝える。
(10) 被災された国家公務員も一律に給与削減の対象とするというのは過度であると理解する。この点について次回、回答できるように準備したい。
(11) 給与削減法案と公務員制度改革法案を同時に提出し、決着できるようすすめていく。
(12) 給与削減と労働基本権の付与は一体のものだ。人勧制度のあるなかでの給与削減は極めて異例のことであり、十分話し合ったうえで進めるべきことと考えている。
これらの意見を踏まえ、内山政務官は「今日は、貴重なご意見をいただいた。引き続き残された課題については次回説明をしたい」と述べた。
最後に、森永国公連合書記長が、「様々な課題について、私たちの主張をしっかりと受け止めていただき、次回までに明確な見解を伺いたい」と回答を求め、本日の交渉を締めくくった。
(別紙)
一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)
T 俸給月額、俸給の特別調整額、期末手当及び勤勉手当の支給減額率
1 俸給月額
@ 本省課室長相当職員以上(指定職、行(一)10〜7級) ▲10%
A 本省課長補佐・係長相当職員(行(一)6〜3級) ▲8%
B 係員(行(一)2、1級) ▲5%
その他の俸給表適用職員については、行(一)に準じた支給減額率
※1 平成17年給与法改正法附則第11条の規定による俸給(給与構造改革に伴う経過措置額)についても、俸給月額と同率で減額
※2 55歳超職員の給与減額支給措置(▲1.5%)適用後の俸給月額等についても、同率で減額
2 俸給の特別調整額(管理職手当) 一律▲10%
3 期末手当及び勤勉手当 一律▲10%
4 委員、顧問、参与等の日当 一律▲10%
U 俸給月額に連動する手当等の減額支給
1 地域手当等の俸給月額に連動する手当(期末手当及び勤勉手当を除く)の月額は、減額後の俸給月額等の月額により算出
2 超過勤務手当等の算出基礎となる勤務1時間当たりの給与額や休職者の給与は、減額後の俸給月額等の月額により算出
※ 扶養手当、住居手当等の俸給月額に連動しない手当については、減額の対象外
V 給与減額支給措置期間の終期
平成26年3月31日
以上