2011年度公務労協情報 46 2011年8月9日
公務公共サービス労働組合協議会
公務員労働組合連絡会

総裁が要求に"疑念"を表明したことから厳しく追及-8/9
−人事院総裁に2011年夏季・秋季における要求書提出−

棚村議長(左)が江利川人事院総裁(右)に要求書を提出  公務員連絡会の棚村議長ほか委員長クラス交渉委員は、9日11時から、江利川人事院総裁と交渉を持ち、@民間給与実態調査結果等に基づく給与改定勧告は行わないことA段階的定年延長を実現するための「意見の申出」の速やかな実施B非常勤職員制度の抜本的な改善C厳格な勤務時間管理と実効性ある超過勤務縮減策の実施Dメンタルヘルス対策の一層の強化、などを重点課題とする「2011年夏季・秋季における要求書」を提出した。これにより、2011年夏季・秋季の取組みは正式にスタートした。

 交渉の冒頭、議長は要求書(別紙)を提出し、次のとおり要求した。
(1) 本年の民間組合の春季生活闘争は、山場において東日本大震災が発生し、回答がずれ込んだが、全体としては賃金カーブ維持分を確保した上で、一部の組合でベアを獲得する結果となり、一時金についても昨年を若干上回る水準を獲得している。
(2) 他方、公務員を巡っては、昨年11月の人事院勧告取扱いの閣議決定で、次期通常国会に自律的労使関係制度を措置するための法案を提出すること、及びその実現までの間においても人件費削減措置について検討することが明記され、国家公務員給与の引下げが課題とされ、公務員連絡会と政府との間の交渉の焦点となった。公務員連絡会は、この課題について、国家公務員制度改革による自律的労使関係制度の構築を先取る形で、片山総務大臣と2回、内山政務官と2回、真摯な交渉を行い、5月23日に合意・決着し、臨時特例法案が国会に提出されている。
 この労使合意は、2013年度までの国家公務員の給与について、公務員の労働基本権確立を前提に労使の交渉・合意で労働条件を決めるという本来あるべき姿を先取って決着したものである。
 以上申し上げたように、給与については決着済みであり、人事院に対し、本年は給与改定勧告は行わないよう強く求める。
(3) 給与以外の課題では、人事院は昨年の報告で段階的定年延長の実施に向けた意見の申出を昨年中に行うことを約束しておきながら、いまだそれを実施していない。定年延長の実施に向けて、定年そのものや給与などの直接的な勤務条件のみならず退職手当の見直し、共済組合制度の取扱い、さらには地方公務員の対応など検討を要する多くの課題があり、もはや遅すぎるとも言えるギリギリの段階にきている。改めて、段階的定年延長という基本方針を堅持した、速やかな意見の申出を行うことを要請する。
 あわせて、一刻も早い大震災からの復旧・復興をめざし、身を粉にして働いている公務員労働者に少しでも報いるため、要員不足の下での実効性ある慢性的超過勤務縮減対策、メンタルヘルス対策の一層の強化、非常勤職員の制度・処遇の改善などについても抜本的な改善を実現してもらいたい。
(4) 本日の要求提出を機に、事務レベルで交渉を積み上げさせていただくが、然るべき時期には総裁から直接要求に対する回答をいただきたいと考えているので、よろしくお願いする。

 続いて、吉澤事務局長は、本年は大震災の影響により民間給与実態調査が約2ヶ月遅れたことや5月23日の国家公務員給与の臨時特例法の労使合意・国会提出など、前例のない異例の年となったことにふれ、臨時特例法について片山総務大臣が「人勧制度は労使交渉による勤務条件決定の代償措置である。今回、労使交渉により給与改定が行われることになればその前提に立って対応したい」と明確に回答していることを踏まえ、本年の給与勧告は必要ないことを主張した。そのうえで、6月3日の臨時特例法案の閣議決定を受けて同日人事院総裁談話が出されたことを踏まえ、@2000年代後半以降、公務員の給与・勤務条件が厳しい視線に晒され、社会的・政治的に不安定であることに対して、お互いの立場、責任としてどのように対処していくべきなのかA厳しい財政事情や東日本大震災への対応・認識、について今後十分に議論をさせてほしいと求めたうえで、「定年延長をはじめとした給与以外の課題について人事院の機能を最大限発揮していただきたい」として、要求書の重点事項を説明した。
 これを受けて総裁は、「要求の趣旨は承った。人事院として真剣に取り組んでいくこととするが、一部内容には疑念に思うところもある。労働基本権制約の下で、人事院としては、国家公務員法第28条に基づき、勤務条件が社会一般の情勢に適応するよう国会及び内閣に対し勧告を行うという本院の責務を着実に果たしていく所存である。本年の民間給与実態調査は、東日本大震災の影響を受けて例年よりも遅れて実施することになったが、調査自体は順調に進んでいる。今後、皆さんの意見も聞きながら、ゥ課題について検討を進めていくこととしたい」と応えた。
 この人事院総裁回答について、吉澤事務局長は、「疑念に思うところがある」と指摘したことに対して、「われわれの人事院に対する要求は主体的な責任と判断に基づいて決めたものであり、撤回を求める」と強く迫った。
 総裁は、「内閣は法律に基づいて行政を行うものであるが、現行法上、公務員給与は人事院勧告を踏まえて決定されるべきものである。そうしたなかで、従来と異なる決定方法をとるのであれば、法改正してから行うべきである。行政は法律に基づいて行うという原則を棚上げして行うべきではない。以上のことから、今回の国公給与特例法案の閣議決定の内容を含めて、全体の流れに疑念があるということだ」と述べた。

 これに対し、各交渉委員が総裁の姿勢を厳しく批判するととともに、吉澤事務局長が「国公給与特例法案を巡っては、5月13日に政府からの提案を受けてわれわれは交渉に応じてきたもので、政府を代表する総務大臣が自律的労使関係そして人勧制度廃止の先取りを提起し、それを前提として決定したものだ。そうであれば勧告は必要ないということになる。疑念は経過に対するものか、われわれの要求に対するものか」と改めて追及した。
 総裁は、「皆さんの対応は全体の流れを構成している面があるが、経過についての疑念である」と述べたうえで、「吉澤事務局長が指摘した2つの論点についての認識は大変重要なものであり、こうした流れを受けて人事院としてもどうするべきか考えていきたい。また、一連の流れの中で、人事院の答えられるスタンスを明示していきたい」と回答した。
 さらに、棚村議長は「労働基本権を回復させる明確な方針を持った政権において、昨年11月から春にかけて使用者である政府から提案を受け、厳しい判断ではあったが私たちは真正面から交渉に応じてきた。賃金水準だけにとどまらず、賃金以外の定員、超勤などの課題についても政府と向き合って概ね整理したところだ。賃金引下げは、組合員には大きな痛みを伴うものであるが、使用者と向き合って決着をつけたという自らの判断に確信を持っており、疑念はない。政府との労使交渉の経過を踏まえれば、基本的に向こう2年間の賃金の決着はついており、給与改定勧告は必要ないし、政府としても受け取りようがない。その他の勤務条件や段階的な定年延長の問題については今後議論させてもらいたい」と重ねて強く要請した。

 総裁は、「この間の経緯は十分理解している。人事院としては法律上の責務があるから、お互いに立場が違うところがある。定年延長の意見の申出が遅れているのは大変申し訳ないが、しっかりと整理してから行わなければ混乱をきたすので、慎重に行っている。必ず行うつもりだ」と回答した。
最後に、棚村議長が今後要求に係る真摯な協議を行うことを要請し、提出交渉を締めくくった。



(別紙)2011夏季・秋季における要求書

2011年8月9日



人事院総裁
 江 利 川  毅 殿

公務員労働組合連絡会
議 長  棚 村 博 美



2011年夏季・秋季における要求書


 本年の春季生活闘争は、すべての労働者の処遇改善に向けた2年目のたたかいとして取り組まれ、山場において東日本大震災が発生し、回答がずれ込んだものの、全体としては賃金カーブ維持分を確保した上で、一部の組合でベアを獲得する結果となり、一時金についても昨年を若干上回る水準を獲得しました。
 一方、公務員を巡っては、昨年11月の人事院勧告取扱いの閣議決定で、次期通常国会に自律的労使関係制度を措置するための法案を提出すること、及びその実現までの間においても人件費削減措置について検討することが明記され、国家公務員給与の引下げが課題とされました。これについて、公務員連絡会は、国家公務員制度改革関連四法案がめざす自律的労使関係制度の構築を先取りする形で政府との間で交渉を積み重ね、2013年度末までの間、月例給与を5〜10%、一時金を10%それぞれ引き下げることを合意し、国会に臨時特例法が提出されています。
 この労使合意は、2013年度までの国家公務員の給与について、公務員の労働基本権確立を前提に労使の交渉・合意で労働条件を決めるという本来あるべき姿を先取って決着したものです。
 給与以外の課題では、人事院は昨年の報告で段階的定年延長の実施に向けた意見の申出を昨年中に行うことを約束しておきながら、いまだそれを実施していません。定年延長の実施に向けて、定年そのものや給与などの直接的な勤務条件のみならず退職手当、共済組合制度、さらには地方公務員の対応など検討を要する多くの課題があります。段階的定年延長という基本方針を堅持した、速やかな意見の申出を求めるものです。
 そのほか、要員不足の下での実効性ある慢性的超過勤務縮減対策、メンタルヘルス対策の一層の強化、非常勤職員の制度・処遇の改善などが重要な課題になっています。
 今、公務員労働者は公務を取り巻く厳しい状況の下にあって、大震災からの一刻も早い復旧・復興をめざし、それぞれの持ち場で全力を挙げて取り組んでいます。
 貴職におかれては、こうした点を十分認識し、本年夏季・秋季における人事院の取組みにあたり、下記事項を実現することを強く要求します。



1.職種別民間給与調査結果の取扱いについて

 本年は、公務員連絡会と政府との交渉・合意に基づいて「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」が国会に提出されていることを踏まえ、民間給与実態調査結果等に基づく給与改定勧告は行わないこと。

2.労働諸条件の改善について

(1) 労働時間の短縮について
@ 本府省における在庁時間削減の取組みの実施状況を踏まえ、その取組みを継続、拡大・深化させることとし、人事院として積極的役割を果たすことにより、在庁時間の一層の削減に努めること。
A 他律的業務を含む超勤上限目安時間については、完全に遵守できるよう各府省に対する指導を強化すること。
B これらの取組みに基づき、厳格な勤務時間管理と実効性ある超過勤務縮減策を取りまとめ、直ちに実施すること。

(2) 男女平等の公務職場の実現について
@ 改定された「女性国家公務員の採用・登用拡大に関する指針」の着実な実施に向けた指導、メンター制度の実効性確保に向けて取組みを強化すること。
A  育児休業及び育児のための短時間勤務について、非常勤職員を含めて制度を十分に活用できるよう周知と取得しやすい職場環境の整備を図るとともに、数値目標を設定した男性取得の促進策をとりまとめること。

(3) 福利厚生施策について
@ メンタルヘルスに問題を抱える職員が増加していることから、「職員の心の健康づくりのための指針」等に基づいた心の健康診断、カウンセリングや「試し出勤」など復職支援施策の着実な推進を図ること。
A 公務災害補償制度について、民間企業における精神障がいの認定基準見直しに遅れることなく対応すること。

3.新たな高齢者雇用施策について

(1) 新たな高齢者雇用施策については、65歳までの段階的定年延長を実現するための「意見の申出」を速やかに行うこと。
(2) 新たな施策の実施に関わる給与体系・水準のあり方を含め、具体的な施策の内容について、公務員連絡会と十分な交渉・協議を行い、合意に基づいて検討作業を進めること。
(3) 意見の申出後も、関連事項について、公務員連絡会と十分交渉・協議し、合意に基づいて作業を進めること。

4.非常勤職員等の制度及び処遇改善について

(1) 「非常勤職員給与ガイドライン」の実施状況を点検し、その遵守を徹底すること。
(2) 期間業務職員制度について、当該職員の雇用の安定と処遇の改善となるよう、適切な運用に努めること。
(3) 非常勤職員制度の抜本的な改善に向けた検討に着手することとし、公務員連絡会と十分交渉・協議しながら、作業を進めること。

5.民間企業の退職金調査について

 民間企業の退職金調査を実施する場合には、その調査、比較方法等について、公務員連絡会と十分な交渉・協議を行い、合意に基づいて作業を進めること。

6.その他の事項について

 公務職場に外国人の採用、障がい者雇用を促進すること。そのために必要な職場環境の整備を行うこと。

以上