2012年度公務労協情報 53 2012年10月4日
公務公共サービス労働組合協議会

第4回「地方公務員の自律的労使関係制度に関する会議」が開催される−10/3
−全国知事会からのヒアリングを行う−

 10月3日18時15分から、総務省において第4回「地方公務員の自律的労使関係制度に関する会議」が開催された。
 最初に、全国知事会からのヒアリングが行われ、岡山県の石井正弘知事が「昨年から国との意見交換の場で、検討されている案の問題点を指摘してきたが、国からは納得できる明確な回答はなく、地方の意見を真摯に反映した制度見直し案でなければ、制度の法案化には反対である」と発言。さらに、「素案」への意見として、@改革案について、国は抽象的な説明に終始しているため、具体的な検討経過を明らかにすべき、A現行制度は客観的・合理性を担保し、住民目線にも合致している、B国公での措置を先行し、運用や効果を検証した上で地公の制度を検討すべき、C給与決定に至るまでの行政コストが増大する、D消防職員への団結権等については、緊急時の指揮命令系統に重大な支障を及ぼす懸念があるため、付与すべきでない、などと主張した。
 それに対する質疑応答の概要は、以下の通り。

<質問>
(1)現在でも、現業や公営企業など協約締結権を有している職員の組合との交渉を行っていると思うが、その際に「行政コストの増大」や「現場の混乱」などの実態があるのか。また、現行制度下においても労使交渉は実施しているものと思うが、なぜ、協約締結権付与によって現場が混乱すると考えるのか。むしろ、労使が責任を負うことで、成熟した労使関係が築かれる。協約締結権は、不安定な労使関係を解決する効果を持つのではないか。
(2)組合が複数ある場合、どのように交渉しているのか。異なる内容で妥結することもあるのか。
(3)地方自治制度の特性に配慮した制度設計と、国公の運用状況を考慮した制度設計との関係はどう考えているのか。
(4)情勢適応の原則や民調が残ることを考えれば、新制度導入でもそれほどの混乱は考えにくいのではないか。
(5)公務員の身分保障は、労働基本権とは制度上は関係がないもの。「実質的な身分保障」と書いているが、これまでの意見書や決議には「実質的」という文言は入っていなかった。入れた理由は何か。
(6)交渉概要の公表などでは、透明性の確保は不十分と考えるのか。
(7)ILOや国際標準からすると、中核的な政策決定を担う公務員についての権利制約は認めるものの、現場的な職員には権利を認めるべきとの考え。国公に先行して権利を認め、地公はその後というのは、逆に理由が見いだせないのではないか。
(8)価値観や考え方が様々な職員がいる中で、組合はその不満等を吸収し、職員を統制する機能を持つのではないか。組合の機能をどう考えるのか。
(9)自律的に賃金を決定するということと、地方財政との関係をどう考えるか。
(10)独自の賃金カットを続けているが、こうした不利益変更の場合には特に、組合側の納得・理解を得るための努力を惜しむべきではなく、それをコストの増大として否定的に捉えるべきではないのではないか。また、労働委員会は、いきなり裁定まで行くのではなく、双方の意見を聞いて落としどころを探る。また、「来年以降は労使できちんと決めるべき。もう労働委員会には来ないように」と、裁定の際に注文を付けることもある。仲裁裁定が常態化するというのは、事実誤認ではないか。

<回答>
(1)現場においては、真摯な交渉を重ね、最終的には合意を得て妥結している。しかし、それを「権利」として与えることには、住民からの厳しい目があることを意識すべき。客観的指標としての人勧がなくなることで、交渉の拠り所がなくなり、交渉が長期化したり、先鋭化したりする恐れがある。また、仲裁裁定まで行くことが常態化し、結果として行政コストが増大することを危惧している。
(2)交渉項目によっては、合同での交渉も個別組合との交渉もある。交渉形態は大・中・小とあり、小は部会や職種、職場ごとの交渉、中は非現業の職員団体である県職労との交渉、大は使用者側は知事・教育長・公営企業長、組合側も県職員全体の複数組合による連合体との交渉となる。やり方は事務折衝の中で整える。
(3)これまで知事会が指摘してきた事項に対する納得できる回答がないことがまずは問題。国公が先行して制度を導入し、その運用状況を見ながら、国公と同じ制度でいいのか、二元代表制や複数の任命権者の存在などの地方自治制度に合致したものとなるよう、再度、地公の制度を検討すべき。
(4)これまでの人事委員会勧告は、単なる賃金のプラス・マイナスではなく、細かな給料表への配分も含めた人事制度の設計を含むもの。それを廃止して「自律」といいながら、国公準拠や諸原則を残すことは整合性がとれていないと考える。
(5)「身分保障があるのに、さらに権利を与えることは公務員優遇である」との社会全般の公務員に対するイメージである。
(6)現在でも、交渉過程や結果は公表している。新制度導入であるならば、組合側も、交渉そのものをマスコミに公開するくらいの覚悟・姿勢が必要である。
(7)国と地方では、そもそも制度が違う。あえてこの制度を入れるというのであれば、疑念を解決する検証がされて然るべきである。
(8)新制度によって労使が共に説明責任を負うことになれば、確かに職員の意識改革につながる可能性はある。
(9) 地方交付税の給与単価は人事委員会勧告などをもとに算出されている。新制度においては、給与関係経費をどう算定するのかという疑問がある。
(10)交渉にかける労力を惜しむべきではない、とは確かに思う。しかし、交渉が長期化したとしても、予算を作成し議会に提案するための期限がある。また、交渉が難航すれば仲裁裁定まで行かないと労使双方が納得できないということは想定されるし、勧告がない中で、議会も労使交渉の結果だけでは賃金決定の論拠に欠けると考える可能性もある。

 この後、委員間でのフリーディスカッションを行うにあたり、渡辺座長の指示に基づいて総務省が作成した「議論のポイント」について、植田公務員課長より説明があった。各項目に関する説明は、以下の通り。

【1 協約締結権を付与する意義】【2 協約締結権付与の便益・費用】
 @締結権付与の意義・目的・必要性、A現在の自治体における労使関係の課題、B締結権付与による便益・費用がどのように生じるか。
【3 公務における労働組合の役割】
 @民間と公務の違い、A国際的にみて日本の公務の労使関係制度の実態がどのように位置づけられるのか。
【4 協約締結権付与した場合の懸念に対する考え方】
 @人件費が増大、A労使の対抗緊張関係の発生、B住民サービスへのに影響、などの意見に対する懸念に対して、どう考えるか。
【5 消防職員への団結権・協約締結権付与の目的】【6 消防職員に団結権・協約締結権を付与する場合の懸念に対する考え方】
 @団結権・締結権付与の意義・必要性、A事務職との対抗関係の発生、指揮命令系統の混乱、警察・自衛隊などと一体的で活動する場合に支障が出る等の懸念に対して、どう考えるか。

 続いて、ポイントの1と2について、フリーディスカッションが行われ、@便益・費用については、短期的・長期的に分けて考えるべき、A締結権付与について、労使交渉に関わるコストを避けるべきではなく、特に給与削減の交渉では職員の納得を得るためにも十分な時間が必要、B抽象的な言葉だと納得されないので、現行と新制度のメリット・デメリットを一覧にしないと不安は解消されないのではないか、C「締結権を制限する合理性はない」とこの会議の報告書に記載すべきではないか、などの意見が出され、次回においても「議論のポイント」について引き続き議論することを確認した。
 最後に、稲見総務大臣政務官が、「地方公共団体では給与の独自カットについて、労使双方が人勧によらず交渉・合意している。その実態からすると、お話に出ていた仲裁裁定が常態化するなどという懸念はないのではないか。引き続き議論をお願いしたい」とあいさつし、会議を終了した。
 次回は、10月12日(金)開催予定であり、全国市長会からのヒアリングを行うとされている。