多摩市は2011年12月21日、定例議会において公契約条例を全会一致で採択した。野田市、川崎市に続く3番目の条例制定である。
条例制定の発端となったのは、阿部裕行市長が2010年3月の市長選挙で「公契約条例と公共サービス基本条例の制定」を掲げて初当選したこと。阿部市長は、当選直後の市議会で公契約条例の制定を表明するとともに、制度の検討に向け調査検討委員会等を設置。また、労働環境アンケート調査や「公契約条例制定に向けた基本的な考え方」についてのパブリックコメントを実施してきた。さらに多摩市自治基本条例に基づき「多摩市の公契約制度に関する審査委員会」(学識経験者1名、事業者団体代表2名、労働団体代表2名の5名で構成。労働側は連合三多摩地協、全建総連東京都連多摩地区協議会から参加)を設置し、その「意見書」を踏まえ条例案の策定を進めてきた。
こうした阿部市長の取組みを連合東京などの労働団体や市民団体がバックアップ。これら団体が実行委委員会を立ち上げ、昨年6月に開催した「多摩市の公共サービス基本条例・公契約条例をめざすシンポジウム」に市長をパネラーとして招き、公契約条例制定に向けた機運を盛り上げてきた。(良質な公共サービスキャンペーン情報2011年6月20日号参照)
条例は、その目的を「多摩市が締結する請負契約に基づく業務及び市が指定管理者に行わせる公の施設の管理業務において、当該業務に従事する者の適正な労働条件等を確保し、 もって労働者等の生活の安定を図り、公共工事及び公共サービスの質の向上に資するとともに、 地域経済及び地域社会の活性化に寄与すること」としている。
対象となる労働者等には派遣労働者なども該当させるとともに、適用範囲を予定価格が5千万円以上の工事または製造の請負契約(5千万円以上としたことで、過去の工事請負費総額に対する平均で50%以上を確保)、予定価格が1千万円以上の請負契約のうち市長が別に定めるもの(契約金額のうち人件費が占める割合が高い業務(清掃業務、子育て支援業務、高齢者支援業務など)を予定)としている。
工事または製造の請負契約では二省単価(農水省及び国交省の公共工事設計労務単価)を採用。工事及び製造以外の請負契約(業務委託契約)については、業務の種類及び内容に応じて、当該業務の標準的な賃金と認められる額。ただし、市長が別に定める期日までの間、生活保護水準を下回らない額となった。パブリックコメントの時点では、業務委託契約は「多摩市における生活保護基準(895円)」とされたが、審査委員会の連合三多摩所属委員が「公契約条例における労務報酬下限額は、あまねく労働者が人間らしい生活をおくることができるよう、まず地方自治体が公契約においてその範を示す意味で設定する基準であり、生活困窮者に対するセーフティネットの救済基準として設けられている生活保護基準とは意味合いを大きく異にするもの」として公の基準としての「多摩市給料法に定める額」を主張。これにより「当面の間、生活保護水準を下回らない額」となったもの。
雇用の安定に関しては、「当該契約締結前から当該業務に従事していた労働者のうち特段の事情がない限り希望する者を雇用するように努めること」と継続雇用義務の規定が盛り込まれた。また、労務報酬の下限額を定める際には多摩市公契約審議会の意見を聴かなければならない」とされ、同審議会には労働者代表が入いることとなった。
多摩市公契約条例は、野田市、川崎市を先例に、市長を先頭にした体制整備をはじめ、審査委員会や市議会における真摯な議論、連合東京や全建総連など労働団体をはじめとした各団体の取組みの成果である。
格差・貧困(ワーキングプア)問題が日本社会の待ったなしの課題となっている中、連合東京・公務部門連絡会は、地方自治体としてやれることがあるのではないか、との問題意識で取組みを進め、今回の条例制定に結実したとしている。また、今後は、多摩市公契約審議会を通してより良い条例をめざし取組みを進めるとしている。
なお、12月22日には神奈川県相模原市で4番目となる公契約条例が採択されている。
※多摩市公契約条例については、
http://www.city.tama.lg.jp/dbps_data/_material_/common/koukeiyakujyourei.pdf
を参照のこと。
以上