公務労協地方公務員部会は、2月5日、全国人事委員会連合会(全人連)に対して、2016年度地方公務員の賃金・労働条件等に関する要請を行い、要請書に対する回答を引き出した。
14時30分から都内で行われた全人連への要請には、地方公務員部会からは永井議長(全水道委員長)のほか、幹事、事務局長が出席し、全人連からは青山会長(東京都人事委員会委員長)をはじめ、都道府県人事委員会のブロック代表および政令市の代表者が対応した。
冒頭、永井議長は要請書(資料1)を提出し、次の通り述べた。
(1) 政府は、2015年12月、財政健全化計画の初年度となる2016年度予算案を閣議決定したが、地方財政については、一般財源総額は確保されたものの、税収増を見込み、地方交付税総額の減、交付税の「別枠加算」の廃止等が示されており、地方における格差拡大につながることが懸念される。地方創生、地方の活性化が求められる中で、地域の行政需要を的確に反映させ、地域公共サービスの実態に見合った財源の保障が必要だ。
(2) 昨年は、ほとんどの人事委員会において月例給、一時金の引上げ勧告が行われたものの、国家公務員給与に係る立法措置が遅れたことや、総務省から「国家公務員の給与法の措置を待って行うべき」との指摘がなされたことにより、労使交渉が進まない自治体も多く、地方公務員の給与決着に大きく影響した。1月20日に給与法等改正法案等が成立したことを受け、地方では、2月・3月議会における給与条例の改正、年度内の差額支給実施に向けた取組みを強化しているところである。
(3) 行政や公務員労働者が、国民の期待に応え、質の高い公務・公共サービスを確実に提供していくためには、公務労働者の雇用の安定と賃金・労働条件の改善・確保が不可欠だ。そのためにも、各人事委員会が、労働基本権制約の代償機関の立場から、職員の利益保護の役割・使命を十分認識され、これから申し上げる事項の実現に向け最大限の努力を払われるよう要請する。
続いて、加藤事務局長が要請書の趣旨を説明した。
こうした地方公務員部会の要請に対し、青山全人連会長は以下の通り回答した。
<全人連会長回答>
平成28年2月5日
全人連会長の青山です。
私から全国の人事委員会を代表してお答えいたします。
ただいまの皆様からの要請につきましては、確かに承りました。
早速、全国の人事委員会にお伝えします。
さて、折角の機会ですので、現在の状況認識等について、ご存じのこととは思いますが、一言、申し上げます。
まず、最近の経済状況を見ますと、本年1月20日に発表された政府の月例経済報告では、景気について「一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」との判断が示されております。また、先行きについては、「雇用・所得環境の改善が続くなかで、緩やかな回復に向かうことが期待される」としつつも、「アジア新興国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある」としております。
一方、賃金については、1月29日に日本銀行が発表した経済・物価情勢の展望において、「企業収益が過去最高水準にあり、失業率が3%台前半まで低下していることとの対比でみると、これまでのところ賃金の改善の程度はやや鈍い」とされていることから、今後の動向が注目されるところです。
また、既に始まっている本年の春季労使交渉では、賃上げについて様々な議論がなされているところであり、業種や企業規模の違いを超えてどこまで賃金改善の動きが広がるのか、賃上げの手段等を含め、今後の行方を注視していく必要があると考えております。
現在、人事院及び各人事委員会では、民間給与の実態を的確に把握できるよう、本年の民間給与実態調査の実施へ向け、その準備を進めているところです。
今後、各人事委員会においては、社会経済の動向なども踏まえながら、本日の要請内容も含め、本年の勧告に向けた検討を進めていくことになろうかと思います。
改めて申すまでもありませんが、公務員の給与等の勤務条件について、社会情勢に適応した適正な水準を確保することは、人事委員会の重要な使命であると認識しております。
全人連といたしましては、本年も各人事委員会の主体的な取組を支援するとともに、人事院、各人事委員会との意見交換に努めてまいります。
私からは、以上です。
(資料1)
2016年2月5日
全国人事委員会連合会
会 長 青 山 ●(やすし) 様
公務公共サービス労働組合協議会
地方公務員部会議長 永井 雅師
要 請 書
各人事委員会の地方公務員の給与・労働条件の改善に向けたご努力に敬意を表します。
さて、政府は、2015年12月、財政健全化計画の初年度となる2016年度予算案を閣議決定しました。2020年度の基礎的財政収支の黒字化に向け、一般歳出及び社会保障費それぞれの伸びを歳出改革の目安の範囲内に収めるとともに、国債新規発行額はリーマン・ショック前の水準となっています。しかし、地方財政については、一般財源総額は確保されたものの、税収増を見込み、地方交付税総額の減、交付税の「別枠加算」の廃止等が示されており、地方における格差拡大につながることが懸念されます。地方創生、地方の活性化が求められる中で、地域の行政需要を的確に反映させ、地域公共サービスの実態に見合った財源の保障が必要です。
一方、昨年は、ほとんどの人事委員会において月例給、一時金の引上げ勧告が行われたものの、秋の臨時国会が見送られたことにより、国家公務員の給与決定が遅れたこと、また総務省から「国家公務員の給与法の措置を待って行うべき」との指摘により、地方での労使交渉が進まない自治体も多く、地方公務員の給与決着に大きく影響しました。1月4日に開会された通常国会において、国家公務員の給与法案等が可決・成立したことを受け、地方では2月・3月議会における給与条例の改正、年度内の差額支給実施に向けた取組みを強化しているところです。
行政や公務員労働者が、国民の期待に応え、質の高い公務・公共サービスを確実に提供していくためには、公務労働者の雇用の安定と賃金・労働条件の改善・確保が不可欠です。
そのためにも、各人事委員会が、労働基本権制約の代償機関の立場から、職員の利益保護の役割・使命を十分認識され、下記事項の実現に向け最大限の努力を払われますよう要請します。
記
1.2016年度の給与改定に当たっては、民間賃金実態を精確に把握するとともに、公民格差については給料表を中心に確実に配分するなど、地方公務員の生活を改善するため、賃金水準を引き上げること。
2.公民給与比較方法について、当面現行の比較企業規模を堅持するとともに、社会的に公正な仕組みとなるよう、抜本的に改善すること。また、一時金の公民比較は、月例給と同様に、同種・同等比較を原則とするラスパイレス比較を行うこと。
3.諸手当の改善については、地域の実情を踏まえつつ、組合との十分な交渉・協議に基づくこと。
4.臨時・非常勤職員の処遇改善に関わって、総務省通知「臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等について(2014年7月4日、総行公第59号)」を踏まえ、人事委員会として可能な対応を行うこと。
5.雇用と年金の接続について、当面、職員の希望通りの再任用等を実現するとともに、高齢期の生活水準と適切な労働条件を確保するための対応をはかること。また、年金支給開始年齢が63歳になるときまでには定年延長を確実に実現すること。
6.公立学校教職員の賃金に関わり、各人事委員会が参考としうるモデル給料表を作成する際には、関係労働組合との交渉・協議を行うこと。
7.公務における超勤縮減、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、年間総労働時間を早期に1,800時間程度に短縮し、引き続き次の事項の実現に努めること。
(1) 厳格な勤務時間管理と実効性ある超過勤務縮減のための積極的施策の推進
(2) 年次有給休暇取得の促進
(3) 労働時間短縮のための人員確保等の施策の構築
8.各種休暇制度を新設・拡充し、総合的な休業制度を確立すること。とくに、家族介護を理由とした離職を防止するための介護休業制度の整備をはかること。また、育児休業・介護休暇の男性取得促進のための必要な措置を行うこと。
9.公務職場における男女平等の実現を人事行政の重要課題と位置づけ、必要な施策の確立をはかること。
10.実効性あるハラスメント防止策を引き続き推進するため、積極的な対応をはかること。
11.公務職場における障がい者、外国人採用を促進すること。
12.各人事委員会の勧告に向けた調査や作業に当たっては、組合との交渉・協議、合意に基づき進めること。
以上