人事院は、本年の民間給与実態調査に関する方針が固まったとして、賃金・労働条件専門委員会にその骨格を示した。
冒頭、好岡職員団体審議官付参事官は、以下の通り基本的な骨格を明らかにした。
1.調査期間
4月24日(水)〜6月13日(木)の51日間。
2.調査対象事業所
昨年と同様に、国・地方の公務、外国政府・国際機関等を除く民間のすべての産業の中で、企業規模50人以上でかつ事業所規模50人以上の母集団事業所約58,800所(昨年は約58,400所)より約12,500所(ほぼ昨年同様)を抽出して行う。なお、母集団事業所の従業員数(正社員)は平成28年経済センサスにおける従業員数(正社員)の6割を超える。
3.調査の方法
人事院、47都道府県、20政令指定都市、特別区及び和歌山市の69人事委員会の職員が分担し、実地調査で行う。調査員は約1,100人(昨年と同じ)である。
4.調査の内容
事業所単位で行う調査事項については、@賞与及び臨時給与の支給総額と毎月きまって支給する給与の支給総額、A本年の給与改定等の状況(ベース改定、定期昇給、賞与の支給状況等)、B諸手当の支給状況(住宅手当、家族手当の支給状況等)、C高齢者雇用施策等の状況(一定年齢到達時に常勤従業員の給与を減額する仕組み等)、について調査する。
従業員別に行なう調査事項については、@4月分初任給月額、A4月分所定内給与月額(役職、年齢、学歴等従業員の属性、4月分のきまって支給する給与総額とそのうちの時間外手当額、通勤手当額)、について調査する。
昨年からの変更点としては、@係員の平均改定率(額)ならびに基本給及び手当の改定状況、A配偶者に対する手当の見直しについて、昨年まで調査をしていた2点について、本年は調査を実施しない。
調査不実施の理由として、@政府の規制改革推進会議において行政手続きコストの20%削減が決定されたことから、人事院としても調査項目の削減等に取り組む旨を盛り込んだ基本計画を定めたところ、本年は必要性を精査した上で調査項目を選定した結果、本件について調査を行わないこととした、A配偶者に対する手当の見直しについては、昨年までの調査において、傾向に大きな変化が見られないことから、他に優先して調査をするという判断に至らなかったためである。
これに対し、渡辺賃金・労働条件専門委員長は以下の通り質問、意見を述べた。
(1) 厚労省等における統計調査の不適切な取扱いにより、政府の統計調査に対する信頼が大きく揺らいでいる中での調査となる。本年の調査に対する人事院の姿勢をまず確認する。
(2) 母集団事業所数、調査対象事業所数は、ほぼ前年並みと受け止めるが、特段の事情があれば明らかにすること。また、春の交渉においても確認しているが、企業規模、事業所規模、対象事業所の範囲、役職定義は昨年と同じということでよいか。
(3) 事業所単位で行う調査について説明があったが、昨年に引き続き、「時間外労働の割増率の状況」について調査が行われないようだが、その理由は如何。引上げを排除する趣旨ではないと受け止めるが、月45時間を超える場合の割増率の引上げは努力義務であり、人勧期要求では引き続き引上げを求めることとしており、勧告期に向けた検討を求めておく。
(4) 家族手当の支給状況について、2016年報告時において「本院としては、税制及び社会保障制度の見直しの状況や民間企業における配偶者に係る手当の見直しの状況に応じ、国家公務員の配偶者に係る扶養手当について、必要な見直しを検討していくこととしたい」として昨年まで調査項目となっていたことと、今回「配偶者に対する手当の見直し」をやめた理由との整合性如何。
(5) 住宅手当については、前年と同様の調査項目となっているが、現時点における見直しに向けた人事院内における検討状況は如何。春の交渉でも申し上げたが、特定の層がリスクを負うという見直しとならないよう、今後、前広かつ十分な議論を求めておく。
(6) 高齢者雇用施策に関わって、この間の交渉等において再任用職員に生活給的手当等を支給すべきであると要求をしているが、改善が進んでいない。春の交渉において人事院は「引き続き、民間の状況を踏まえ総合的に考えて検討していきたい」との回答であったが、民間の動向はどのように把握するのか。再任用職員の切実な要求であることを踏まえた対応を求めておく。
(7) 係員の基本給の除外理由について、コスト削減に掲げたために調査項目から外したように聞こえたが、この項目の削減によって調査結果に影響はないのか。
(8) その他、民調の対象とはなっていないが、非常勤職員の待遇を改善することが課題だ。民間における同一労働同一賃金の法整備が2020年4月より施行されることを踏まえ、勤務条件についての網羅的な点検作業を行い、公務における雇用形態の違いによる不合理な待遇差の改善に向けた検討作業も求めておく。
これに対し、好岡参事官は、以下の通り答えた。
(1) 人事院としてまずは正確な調査を行い、調査結果を踏まえて適切に対処することが重要だと考えている。まずはそのような姿勢で勧告に必要なデータがきちんと得られるようにしっかりと丁寧に調査をしていきたいと考えている。
(2) 母集団事業所数、調査対象事業所数については、例年通りの作業の結果であり、本年において特段の事情はない。企業規模、事業所規模、役職定義については、昨年と同様である。
(3) 時間外労働の割増賃金率については、平成29年まで調査を実施していた項目だが、本年においては様々な調査事項がある中で他に優先して調査を実施するという判断には至らなかった。懸念されている月45時間を超え、60時間以下の割増賃金率の引上げを排除しようとする趣旨ではない。平成29年までの調査結果においては、割増賃金率の動向は逓減傾向にあると承知している。
(4) 家族手当の調査項目の見直しについては、先ほど述べたとおり、配偶者手当の見直しについては傾向に大きな変化が見られないことから本年は他に優先して調査を行うという判断には至らなかったためであり、2016年の報告との整合性についても問題が生じることはないと考えている。
(5) 住居手当の見直しにあたっては、昨年の勧告時報告で述べたとおり、公務における実態や民間の状況等を踏まえ、宿舎使用料の値上げも考慮し、必要な検討を引き続き行ってまいりたい。
(6) 再任用職員の生活給的手当については、民間におけるフルタイムの再雇用者に対する生活関連手当の措置状況を平成28年に調査し、その結果として、当該調査により民間の状況は概ね把握できたと考えており、本年は調査の必要がないと判断したもの。再任用職員の給与については公務における人事運用の実態、民間企業の再雇用者の手当の支給状況を踏まえ、平成27年4月から単身赴任手当を支給するなど、見直しを行ってきているところである。人事院としては民間企業における定年制、高齢層従業員の給与の状況、各府省の再任用制度の運用状況を踏まえつつ、職員団体の皆さんの意見を伺いながら引き続き再任用職員の給与のあり方について必要な検討を行ってまいりたい。
(7) 係員の調査項目の削減については、調査に支障はないものと考えている。
(8) 非常勤職員の待遇改善について、給与については給与決定指針によって改善をし、休暇についても改善傾向にはあるが、ご要望いただいた点については承った。
見解を受け、渡辺賃金・労働条件専門委員長は「政府の統計調査に対する信頼が大きく揺らいでいる中での本年の調査となるが、民間給与実態調査は官民比較の基礎であり、人勧制度の根幹である。人事院におかれては、しっかりと調査を行って、夏の勧告では納得できる結果を出していただきたい。今後、公務員連絡会として、しかるべき時期に人勧期要求書を提出して交渉・協議を進めていくが、調査の進展や集計状況について、途中段階も含めた前広な説明と配分等についてしっかりと議論するよう強く求めておく」と求め、この日の交渉を終えた。
以上