人事院は、本年の民間給与実態調査に関する方針について、賃金・労働条件専門委員会にその骨格を示した。
冒頭、好岡職員団体審議官付参事官は、「本年の民調実施について、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、調査の開始を見送ってきたが、今月末から調査を開始することとしたので概要について説明する」と述べ、以下の通り基本的な骨格を明らかにした。
○例年は調査員が事業所を直接訪問し、月例給(4月分の個人別給与)と賞与等について一括して調査を実施しているが、本年は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を考慮し、賞与等の調査については訪問によらない方法で先行して実施する。月例給の調査については、今後の状況を踏まえて実施時期等を判断する。
1.調査対象事業所
調査対象事業所については、例年、国・地方の公務、外国政府・国際機関等を除く民間のすべての産業の中で、企業規模50人以上でかつ事業所規模50人以上の事業所を母集団事業所として、層化無作為抽出法により抽出した事業所を調査対象としている。本年は新型コロナウイルス感染症に対処している医療現場の厳しい環境に鑑み、病院は調査対象とはしない。それ以外に例年との変更はない。その結果、母集団事業所は約54,800所(昨年は約58,800所)、調査対象事業所は約12,000所(昨年は約12,500所)となっている。
本年の調査対象事業所を抽出する基礎となっている病院を除いた全国の母集団事業所(約54,800所)は、平成28年経済センサス−活動調査における会社組織の事業所に占める企業規模50人以上の事業所数の割合が25.8%、従業員数(正社員)の占める割合が65.6%である。この割合については昨年と変わっていない。
2.調査機関
人事院と都道府県等の人事委員会
3.賞与等の調査(先行実施する調査)
(1)調査の期間
6月29日(月)〜7月31日(金)までの33日間とする。
昨年の調査期間は、月例給の調査、賞与等の調査も一括して行い、4月24日〜6月13日までの51日間。本年は、まず先行して賞与等の調査を行う。
(2)調査の方法
調査事業所に調査票を郵送し、必要に応じて調査員が電話等によって補足説明を行うことにより実施する。
(3)調査の内容
この調査は、従来から事業所単位で行う事項として実施してきた調査であり、具体的には、賞与及び臨時給与の支給総額と毎月きまって支給する給与の支給総額、本年の給与改定等の状況(ベース改定、定期昇給、賞与の支給状況等)、諸手当(家族手当、通勤手当の支給状況)、高齢者雇用施策等の状況(一定年齢到達時に常勤従業員の給与を減額する仕組み等)について調査する。
調査の内容について、昨年からの変更点は以下の通り。
【本年の給与改定等の状況】
昨年実施した定期昇給制度の内容(例えば自動昇給なのか査定昇給なのかなど)については調査をしない。理由として、例年、調査項目についてその必要性を考慮した上で調査を行っているが、平成29年3月、政府の規制改革推進会議において行政手続コストを20%削減することが決定されており、人事院としても調査項目の削減等に取り組む旨を盛り込んだ基本計画を定めたところ。その方針も踏まえ、本年も必要性について一層精査した上で、調査項目を選定した結果、近年の調査結果に大きな変化がみられないことから、定期昇給制度の内容については調査をしないこととした。
【諸手当の支給状況】
家族手当については、調査項目を変更し、縮小して引き続き調査を行うこととした。平成28年給与法改正による扶養手当見直しの段階的実施は完成したところだが、配偶者手当を取り巻く状況等、その後の民間企業の動向については引き続き注視していく必要があることから、本年も引き続き調査を行う。調査項目の設定については、行政手続コスト削減の取組方針も踏まえ、必要性について一層精査した結果、配偶者への支給の有無、収入制限の状況、支給水準について調査を行うこととした。
通勤手当については、昨年は調査を行っておらず、新規に調査を行う。具体的には、1つ目が新幹線・在来線の特急利用者についての調査、2つ目として交通用具の使用者についての調査を実施する。理由について、新幹線・特急利用者の調査については平成8年に新幹線等特例に係る通勤手当を措置したところだが、その後、平成26年に調査を行ったのみであること、昨年10月の消費税率引上げに伴い、各交通機関において運賃、料金が引き上げられたことから、最新の民間における支給状況を把握するために調査を行う。
交通用具使用者の通勤手当の調査については、これまで民間の同種手当の支給状況を基本としつつ、ガソリン価格の動向等を参考に総合的に考慮して改定を行ってきた。昨年10月の消費税率引上げなどを踏まえ、最新の民間における支給状況を把握するため、調査を行う。
なお、昨年調査をした住宅手当の支給状況の調査は、本年は実施しないこととした。住居手当については、令和元年勧告において、いわゆる基礎控除額を引き上げるとともに、最高支給限度額を引き上げる見直しを行ったところであること、また、この見直しに伴い、令和2年度中は経過措置を設けており、本年においては他に優先して調査を行うという判断には至らなかった。
【高齢者雇用施策等の状況】
昨年と同様で変更点はない。
4.月例給の調査
月例給の調査については、今後の状況を踏まえて実施時期等を判断する。
月例給の調査については、従来から従業員別に行う事項として実施してきた調査であり、@4月分初任給月額、A4月分所定内給与月額(月例給の民間との比較の基礎として、役職、年齢、学歴等従業員の属性、4月分のきまって支給する給与総額とそのうちの時間外手当額、通勤手当額)、について調査を行うものである。
昨年と異なる点は、従業員ごとの4月分の所定内給与月額の調査について、従業員の性別欄を削除した。官民給与比較では、性別を比較要素として使用していないことから、影響はない。また、個人票における性別欄の削除については、民間企業における調査負担の軽減につながるものと考える。調査職種については、医療関係の職種を対象としない分だけ、例年より少なくなっている。
人事院の説明に対し、渡辺賃金・労働条件専門委員長は「本年は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響、とりわけ全国を対象とした緊急事態宣言の発令などから、例年の調査時期から大きくずれ込み、かつ、賞与等の調査の先行実施となるとのことではあるが、まず3点確認する」と述べ、次の通り見解を質した。
(1) 例年は、賞与等の調査についても月例給と一括して実地による調査を行っている。調査票を郵送し、必要に応じて電話等による補足説明をするとのことだが、例年通りの高い調査完了率となるのかどうか懸念されるが人事院の認識如何。
(2) 月例給の調査については、今後の新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて実施時期等を判断するとのことだが、その見通し如何。また、従前通り実地による調査を行うことで準備を進めているという認識でよいか。
(3) 賞与等の調査を先行実施し、月例給の調査時期は今後判断するとのことだが、民調結果等を踏まえて勧告することとなった場合、賞与と月例給等の2段階での勧告を想定しているのか認識如何。
これに対し、好岡参事官は、以下の通り答えた。
(1) 本年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、民間企業にご協力を頂くことが例年にも増して厳しい環境にあると考えているが、人事院としては、本調査の重要性を丁寧に説明し最善を尽くしたい。
(2) 月例給の調査の実施時期等について、現時点では確たることは申し上げられない。今後の状況を注視しつつ、実施にむけて準備を進めていきたいと考えている。なお、実地調査の前提である。
(3) 賞与と月例給の2段階で勧告を想定しているのかとのご質問を頂いたが、月例給の調査時期については、今後の状況を踏まえて判断していく必要があり、ご質問頂いた点については、現時点では確たることは申し上げることができない状況である。
回答に対し、渡辺専門委員長は、更に次の通り人事院の見解を質した。
(1) 新型コロナ下において、民間事業所の理解を得るために、人事院としてどのような方策を講じていこうとしているのか、その具体策如何。また、今後の月例給についての訪問調査の協力要請については、賞与の郵送調査の際に書面で言及するのか。
(2) 今後の新型コロナウイルス感染症の状況は正確には予測できないが、第2波、第3波も想定されている中でどのような環境になれば実地調査を行えると判断するのか。例えば、新型コロナがゆるやかに収束に向かう時点か、全国的に経済活動が再開される環境になった時点なのか。事態は地域によって大きく異なる中でどのように人事院として判断するのか。
(3) 仮に今後、再度の緊急事態宣言が発令され、様々に自粛要請がなされるなどした場合に、訪問調査を行うことが困難と判断された際には、本年の月例給の調査を行わないことも想定しているのか。また、人勧制度の下で過去に調査が行われなかったことはあるのか。
(4) 月例給調査の実施の判断時期によっては、賞与等の郵送調査と並行した実地調査となることも想定しているのか。
これに対し、好岡参事官は、以下の通り答えた。
(1) 先行して行う賞与等の調査については、調査員が電話等により協力依頼を行うとともに、調査票についても、調査事業所に郵送した上で、電話等により補足説明を行うこととしている。調査の重要性や内容について丁寧にご説明し、民間企業の協力をお願いしていきたい。月例給の調査の協力要請については、先行調査の依頼時に本調査には月例給の調査もあることを伝え、改めてご協力をお願いする旨説明することとしている。
(2) どのような環境になれば実地調査を行えると判断するか、調査を行うことが困難であると判断された時に調査を行わないことを想定しているか、判断時期によっては郵送調査と並行した実地調査を行うことも想定しているか、などについてはいずれも、現時点においては、状況を注視しつつ判断を行うとしか申し上げられない。
なお、月例給の調査について、過去においては、少なくとも現行のラスパイレス比較に基づき勧告を行っている昭和35年以降、調査が行えなかったことはない。
さらに、交渉委員から、次の通り人事院の見解を質した。
(1) 先行実施をする部分と月例給の調査を分けて行う際に、賞与等を先行して調査すると判断した理由如何。
(2) 民調は、実地調査でなくても対応できるのか。月例給について実地調査を行う際、合わせて賞与についても再度調査を行う事も想定しているのか。
(3) 賞与等の先行調査を行う事業所と月例給の調査を行う事業所は同一か。
(4) 例年通りの時期に人事院勧告がされないということか、人勧の見通しをどう想定しているのか。
これに対し、好岡参事官は、以下の通り答えた。
(1) 新型コロナに係る緊急事態宣言が解除された後も、人と人との接触回避が求められており、企業においてもテレワーク等による勤務が継続される見通しであることなどを踏まえると、現時点では実地調査を開始することは難しいと判断した。一方で、今夏の民間の賞与は厳しい状況になることも想定され、民間給与の状況を適正に把握した上で公務員給与に反映させることが必要であることから、民間の賞与の支給状況等の調査について実地によらない方法で先行して調査することが適当であると判断した。
(2) 月例給については、民間企業の従業員に4月分として実際に支払われた個人別の給与額を役職等の属性とともに調査しており、そのためには、職種を詳細に分類・整理しなければならないため、実地調査によることが必要である。他方、一時金については、事業所単位の支給総額をベースに調査をしており、当院で丁寧な説明資料を準備して調査員が補足をすることで、対応が可能であると考えている。
(3) 賞与等と月例給の調査を行う事業所は同一である。
(4) 例年同時期に勧告というのが難しいということはあるかもしれないが、勧告の時期については現時点で確たることを申し上げることはできない。
次に、他の課題について、渡辺専門委員長は次の通り人事院の見解を質した。
(1) 調査対象事業所について、「病院は調査対象としないこととした」とのことだが、勧告に与える影響如何。
(2) 春の交渉においても確認しているが、官民給与の比較方法・企業規模については、変更がないということでよいか。
(3) 諸手当については、通勤手当の支給状況を調査するとのことだが、調査の結果を踏まえ見直しを行うことを現段階で考えているのか。
(4) 高齢者雇用施策の状況の調査項目は、昨年と同様の調査項目とのことだが、この間の交渉等において、再任用職員の給与について、生活給的手当等の支給を含めて、改善を求めているが遅々として進んでいない。春の交渉において人事院は「引き続き、再任用の給与の在り方について必要な検討を行っていきたいと考えている」との回答であったが、民調を実施するに当たっての認識如何。
これに対し、好岡参事官は、以下の通り答えた。
(1) 病院を調査対象としないことについて、勧告に与える影響については現状申し上げることはないが、本年の官民比較については事務・技術関係職種について従来と同様の方法により調査を行うことが基本になると考えている。
(2) 官民給与の比較方法・企業規模については、変更はない。
(3) 諸手当について、通勤手当の見直しについては、現段階では何とも申し上げられない。
(4) 再任用職員の給与については、公務における人事運用の実態、民間企業の再雇用者の手当の支給状況を踏まえて、平成27年4月から単身赴任手当を支給することとするなど、見直しを行ってきたところ。民間企業における定年制や高齢層従業員の給与の状況、各府省における再任用制度の運用状況を踏まえつつ、皆さんの意見をお聞きしながら、引き続き再任用職員の給与のあり方について必要な検討を行ってまいりたいと考えている。
最後に、渡辺専門委員長は「新型コロナウイルス感染症の影響下での本年の調査となるが、民間給与実態調査は官民比較の基礎であり、労働基本権の代償措置としての勧告制度の根幹である。賞与等の調査の先行実施となるが、人事院におかれては、新型コロナ下で民間事業所も今までにない環境の中で業務を行っていることが容易に想像できることから、調査対象事業所の理解を得るために丁寧かつ十分な説明を行っていただきたい。なお、月例給の調査の実施についても勧告を見据えて実施時期を出来るだけ早期に判断し、従前通り実地による調査を行い、着実に調査を完了するよう強く求めておく。今後、公務員連絡会としては、民調の動向等も注視しつつ、しかるべき時期に人勧期要求書を提出して交渉・協議を進めていくが、調査の進展状況等について、こういう状況であるが故に、途中段階も含めて前広に議論することを求めておく」とし、この日の交渉を終えた。
以上