連合官公部門連絡会は、6月26日、第3次中央行動として東京の厚生年金会館で、「労働基本権を確立し民主的公務員制度改革を求める中央集会」を開催した。この集会には全国から2000人の組合員が参加し、政府が「基本設計」の発表以降、12月に「公務員制度改革の大綱」の取りまとめを予定していることから、今後、内閣官房との交渉・協議を本格的に行い、「労働基本権の確立」を前提とした「民主的な公務員制度改革」を実現するために一層の態勢強化をはかっていくことを確認した。
また、集会に先立って、11時から石原行革担当大臣と交渉。6月14日に提出した「要請書」にもとづいて、具体的設計について「職員団体との交渉・協議により取りまとめる」という点について確約を求めた。これに対して石原大臣は、「基本設計は制度の具体的内容を決定するものではなく、基本設計後も関係職員団体と幅広く誠意ある交渉・協議を行っていく。職員団体と合意した事項について互いに履行すべく力を尽くすのは当然のこと」の見解を示した。
<6・26中央集会の概要>
集会は、13時30分から、対策本部の宮入副事務局長の司会で始まり、集会議長に丸山副本部長(国公総連委員長)を選出した。
冒頭、主催者を代表して、対策本部の榎本本部長(自治労委員長)が次のようにあいさつした。
@政府・行革推進事務局は、3月の「大枠」、6月の「基本設計」と労働組合の関与を拒否し、一方的に作業を進めてきた。その姿勢と手法を糾弾する。
A政府の「改革」は公務職場に市場原理と競争を持ち込むものだが、公務はそのような市場の暴力から国民を守るという特性を持っている。公務の活性化をめざすというが、逆に公務の効率的遂行を妨げ、行政サービスを低下させるのではないか。また、人事院の権能について変更することを提起しているのに労働基本権についてもふれていない。
Bこのような政府の「改革」を容認することは出来ない。ただ、状況は、単に反対ですむような情勢ではない。また、現在の公務員制度も戦前からの制度を引き継いでいる部分もある。そのため、「私たちの提言」を提起し、各政党、国民世論、国際的に働きかけるために各種の行動に取り組んできた。また、連合も、この問題を重要課題として取り組んでいる。
Cその結果、ILOの場で政府見解を引き出し、石原大臣からも、「大枠」、「基本設計」は今後の具体的内容を制約するものではない、労働組合と誠実に交渉・協議を行うなどの回答を引き出すことができた。また、政府のスケジュールについても変えさせることができた。この成果を確認しつつ、7月以降、実効ある交渉・協議の実現を迫っていく。
続いて、連合の笹森事務局長があいさつし、「小泉首相の改革は、本当に国民や働くものにふさわしいものかどうかを慎重に見極める必要がある。公務員制度改革も、本当に国民のためのものか疑問がある。現在は、一部の公務員の不祥事が取り上げられ、改革に異議を唱えることが困難かもしれない。しかし、公務員が国民のための行政サービスを担っていることを示すことができるのは、連合官公部門連絡会だけである。連合は公務員制度改革を、官と民との共通の課題として、目標を達成するまで全体で取り組む」と激励した。
各政党からの激励あいさつでは、民主党の古賀公務員制度改革プロジェクトチーム座長が、「行革推進事務局は、労働基本権のことにはふれないまま『基本設計』を発表しようとしている。改革のアドバルーンをあげてはいるが、全体の設計については疑問が多い。人事院の権能を変更するならば、労働基本権に言及をしなければならない。民主党は、公務員制度改革プロジェクトチームを立ち上げ、みなさんとともに取り組む」と連帯の意を表明した。
社民党からは、中西副党首(公務員特対委員長)が、「『基本設計』は経済産業省の官僚が中心になって進めているが、労使関係も、労働基本権についてもまったく認識していない。労働基本権は憲法で保障された国民の権利である。この権利をどうたたかいとり、発展させていくのかが重要である。小泉人気を盾に踏みにじろうとする動きを許してはならない。私たちは、今までたたかいの中で民主主義を発展させてきた。この経験を活かして今後もたたかう」と決意を表明した。
自由党からは、塩田団体渉外委員長があいさつし、「労働基本権は人権である。その代償措置といわれる人事院、給与勧告制度を変更するのならば、労働基本権を返すべきである。労働者の意見が反映されない『基本設計』は認めることは出来ない。職場で不当な介入や、恣意的な人事が行われるとしたら大変なことである。労働組合と十分に協議し、意見を反映して改革に取り組むべきだと考えている」と主張した。
続いて、「公務員制度改革の課題と問題点」と題して、毎日新聞の山路論説委員から講演を受けた。
ついで、斎藤事務局長が次のように基調を提起した。
@対策本部は6月末をヤマ場にすえて、「提言」を取りまとめ、緊急署名、職場討議、地域での学習会・各種集会、ILO総会対策などに取り組んできた。その結果、組織内署名は、約168万人分、連合加盟の民間組合の団体署名は、全53団体から寄せられた。集会は、各県、各構成組織の100ヵ所以上で開催された。また、ILOでは、政府から重要な見解を引き出すことができた。
Aこの間の私たちの取り組みによって、政府は、私たちと誠実に交渉・協議を行うことを約束せざるをえなくなった。また、当初のスケジュールを変更し、6月29日の「基本設計」を発表後、12月の「公務員制度改革の大綱」の取りまとめにむけて作業を行い、2005年までに法改正を行うとしている。
B対策本部の今後の対応については、6月29日の対策本部会議で決定するが、6月以降、本格的に交渉・協議を行い、労働基本権の確立、「提言」の反映、「基本設計」再考を迫ることにする。そのため、対策本部の体制についても継続・強化したい。
また、各構成組織からも決意表明が行われ、税関労連から吉田事務局次長、全印刷から江畑書記長、自治労から佐藤副委員長、都市交から松島書記次長が、今後も組織の総力をあげてたたかうと決意を表明した。
集会は、日教組の大場さん(神奈川県教組)が集会決議を提案、採択し、榊原副本部長(日教組委員長)の音頭で団結ガンバローを三唱し、最後までたたかう決意を確認した。
<石原行革担当大臣交渉の概要>
政府の「基本設計」取りまとめを目前に控えて、連合官公部門連絡会は、26日11時から、内閣府で石原行革担当大臣と交渉し、「基本設計」後の、具体的設計について「職員団体との交渉・協議により取りまとめる」という点についての確認を求めた。交渉には、石原大臣のほか行革推進事務局の西村事務局長、春田公務員制度等改革推進室長が同席した。対策本部からは、榎本本部長(自治労委員長)、丸山副本部長(国公総連委員長)と斎藤事務局長、宮入・轆轤両副事務局長、山本事務局次長が出席した。
冒頭、榎本本部長から、公務員制度改革についての検討作業の進捗状況や、「基本設計」の性格について見解を質した。これに対し石原大臣は次のように見解を示した。
@「基本設計」については6月29日に行革推進本部決定を目指し作業をしている。
A「基本設計」は政府の共通認識として、新たな公務員制度の骨格と具体化に当たっての検討課題を示すものとしたい。
こうした見解を受け、組合側は次の2点について申入れ、明確に見解を示すよう求めた。
@ILO総会での日本政府の見解は、いわば国際公約とも言うべきもので、大変重い意味を持っているものだ。7月以降、制度改革の具体案作りに向けた交渉は、使用者としての政府と労働側との交渉であり、ある意味で現行法制度の枠とは異なる性格を持つと認識している。交渉合意事項に対して互いに誠実に履行の責任を負うことはもとより、国際基準に沿った交渉であることを確認したい。
A交渉事項以外の課題についてもきちんと協議を行い、私たちが取りまとめた「提言」を最大限尊重した内容となるよう制度設計に尽力していただきたい。
こうした申入れに対し石原大臣は、先のILO総会における日本政府代表が示した「6月末の基本設計も制度の具体的内容を決定するものではなく、基本設計後も関係職員団体と誠意ある交渉・協議を行っていく」という見解を引用し、「我々としては、誠意を持って対応したい。職員団体と合意した事項について互いに履行すべく力を尽くすのは当然のことと考えている」とした上で、「今後とも職員団体とは幅広く交渉・協議してまいりたい」との見解をあらためて示した。
<毎日新聞・山路論説委員の講演概要>
(1)今回の公務員制度改革は中途半端で整合性のない改革になるのではないか。総論はもっともらしく共感できるが具体性がない。人事院、公務員制度調査会等からさまざまな意見がだされ、部分的な改革は進んできているが、最大の課題は霞ヶ関全体が変わることである。
(2)「大枠」は職務給原則による給与制度と人事院による級別定数制度を廃止し、時代に対応できる能力主義を導入するとしている。
能力主義が本来の機能を発揮するためには、評価をガラス張りにし情報を公開すること、そして、苦情処理をきちっとする仕組みを作る必要がある。
そのためには労働組合に権利が与えられ、評価に対する苦情処理を職場で受け止め、是正をすることができるかが課題である。つまり、公務員に労働基本権が与えられなければ中途半端な能力主義に陥るだけだ。労働基本権の代償機能である人事院制度をなくし各省で処遇を決定するのであれば労働基本権を与えることが必要でそれを抜きに能力主義は考えられない。
(3)キャリア制度を廃止しなければ「霞ヶ関」の改革は進まない。キャリアが絡んだ不祥事が多く起きている。22、23歳で入り口の1回の採用試験に通っただけでその後のポストが保障されることがさまざまな弊害を生んでいる。連合官公部門が「キャリア制度の廃止」を提言していることは大変よいことである。
(4)早期退職制度は「天下り」を前提に成り立っている。選別にもれた人の受け皿として特殊法人、公益法人がある。公務員の専門能力を高めるのであれば、50代前半で辞めていく早期退職の慣行は矛盾している。スタッフ職として政策の企画立案にかかわっていくような仕組みを考えるべきである。しかし、今回の改革の具体的な内容をみると、「天下り」を各府省大臣の承認制にするなど不純な部分がある。「天下り」の緩和と大臣承認による政治主導を強めるということになる。官民の交流などの狙いは、「天下り」の拡大になる。
(5)公務員制度改革には3つの課題が有る。
一つは、キャリア制度の廃止である。採用の入り口でその後が決まるのではなく、30〜40歳のところで資格試験をするほうが合理的である。
二つは、縦割り行政の弊害をなくすこと。そのためには各省の個別採用をなくし、一括採用として、交流を進め風穴をあける必要がある。
三つは、能力主義を取り入れるのであれば、団結権、団体交渉権、スト権の労働基本権を与え、対等の労使関係を作るべきである。管理職と対等に話し合える環境を整えなければ、生き生きとした職場は作れない。つまり国民のための公務員制度改革にはならない。
<集会決議文>
集 会 決 議
私たちは、「公務員制度改革の大枠」公表以降の3ヶ月、160万人分を超える緊急個人署名と、連合に結集する全ての民間労組・53構成組織より支持・賛同を得た団体署名、3次にわたる中央行動や全国統一行動などの諸行動を展開し、「基本設計」への対応を中心とした取り組みの強化をはかってきた。
また、6月5日に開会されたILО総会は、条約勧告適用委員会が87号条約の日本の適用状況と今回の公務員制度改革に関わる問題を個別審査案件として取り上げ、日本政府の見解と併せて日本の条約違反状況を指摘し、日本政府に対し誠実な政労交渉に基づく改善を求めた議長報告などを採択した。
私たちは、これらの取り組みと本日の交渉における到達点を踏まえ、現段階において政府が本年12月を目途に予定している「公務員制度改革の大綱」に向けて、引き続き、次の取り組みを進める。
その第一は、公務における対等・平等な労使関係の構築が必要であること。そのため、本年のILО総会の指摘もふまえ、国際的労働基準としての労働基本権の確立と労使協議制度の創設が不可欠であること。
第二に、賃金・労働条件は交渉により決定することが原則であり、政府・行革推進事務局における改革の検討は、全てにわたって私たちとの交渉における合意が前提であることを明確にさせること。
第三に、入り口選別主義とキャリア制度を廃止し、複雑・高度化する行政と公共サービスに適切に対応するための人材を確保・育成するとともに、男女平等参画や公務内の社会的不公正を是正するシステムを確立すること。
第四に、政官財の癒着を完全に解消し、中立・公正な行政を進めるため、「天下り」を全面的に禁止すること。
第五に、国と地方の役割分担を分権社会にふさわしいものに見直すとともに、それぞれの役割に沿った形で国家公務員制度、地方公務員制度を確立することである。
公務員制度改革をめぐる情勢は、「基本設計」以降、私たちとの交渉・協議が本格化することとなる。
私たちは、当面する参議院議員選挙への対応に全力をあげるとともに、引き続き、「労働基本権の確立」を前提とした「民主的な公務員制度改革」を実現するため、より一層の体制強化をはかり、最後まで総力を挙げた取り組みを展開する。
以上、決議する。
2001年6月26日
連合官公部門連絡会
労働基本権を確立し民主的な公務員制度改革を求める6.26中央集会
以上