「新人事制度の原案」をめぐる交渉が再開され、「対策本部」は12月7日午前8時30分から行革推進事務局との間で、4回目の交渉に入った。
交渉は、「新給与制度」、「評価制度」及び「本府省幹部候補職員集中育成制度」について行われ、「対策本部」から、山本事務局長及び書記長クラスが出席、行革推進事務局側は、春田公務員制度等改革推進室長、高原・井上両参事官らが対応した。
「原案」では、新給与制度として、@基本給(能力給)〈定額部分と加算部分で構成〉、A職責手当(職責給)〈課長等の職責に対応する給与〉、B業績手当(業績給)〈一時金に当たり基礎的支給部分と業績反映部分から構成〉、の新設を提案している。また、評価制度では、@「能力評価」を能力等級への格付け、任用や免職・降格の「重要な参考資料」に、A「業績評価」を基本給の加算部分や業績手当の業績反映部分の決定の「重要な参考資料」にする、としている。
冒頭、「原案」をめぐる交渉に入る前に、山本事務局長から、4日に提示された「内閣と第三者機関の機能の整理」「人件費予算の決定の枠組み」などの「検討案」について、次のような意見を述べた。
@ 労働基本権を現行のままとして、内閣及び各府省の人事管理権限を強めることは、代償機能の空洞化を招き、認められない。人員枠の設定の枠組みも代償機能が担保されたものとは到底いえず、認められない。
A 中立・公正な人事行政の枠組みを大きく変更し、その担保としての第三者機関の役割を事後チェックに限定して法律で決定すればよしとする考えは問題で、反対である。
B こうした切り分けを行うなら、団体交渉による賃金決定制度の確立は不可欠である。労働基本権を現行のままとする制度設計には反対である。
こうした意見を示したあと、交渉課題ごとに次の点について推進事務局の見解を質した。
〈新給与制度〉
@ 新給与制度については、給与決定制度やその水準のあり方など、最も基本的な問題が提起されておらず、この「原案」では、議論のしようがない。この点を認識され相互に確認すべきだ。
A 現行の「職務給」がなぜ問題なのか、なぜ廃止して新たな給与制度を導入せねばならないか、明確な理由を述べてもらいたい。
B 基本給・職責給・業績給の3区分とした理由は何か。
C 新給与制度は、能力等級制度が官職主義になっていることとの関係で、「能力給」とはいえない。この新制度で年功主義が払拭される保障はないと考えるが、それでいいのか。
〈評価制度〉
@ 多くの犠牲をだした過去の勤評闘争の歴史の教訓を踏まえ、まず、信頼性の高い評価制度自体をきちんと確立するよう努めるべきで、そうでないと実効あるものにはならない。最初からトータルシステムとして制度設計するのは問題だ。評価制度については、昨年12月の行革大綱の閣議決定以前に、総務庁(省)・人事院から検討結果の「報告」がなされており、そうしたものも無視すべきでない。実施するにしても管理職からの試行から始めて、時間をかけて段階的に進めるべきだ。
A 評価制度導入の前提として求めている4原則2要件が明確に担保されておらず、その意味で完成度の低い制度設計である。「評価結果の本人開示」「制度の設計、基準設定等での労使協議制」「各府省ごとに労働組合が参加する苦情処理システムの確立」などについて、どう考えているか。
〈本府省幹部候補職員集中育成制度〉
われわれが強く指摘してきた「入り口選別主義」の弊害を改めず、むしろ国民の批判に反し、そして時代に逆行するキャリアシステムを制度化するもので、断固反対であり、撤回すべきだ。
こうした基本的な問題点の指摘に対し、推進事務局側は、次のような見解を示した。
@ 現行給与制度については、「職務給」原則のもと、年功的な昇給・昇格の画一的運用が行われており、こうした問題を改めて、職員の能力の発揮・職責・業績をきちんと反映した処遇を行うことができるようにするため、そうした機能が発揮できる給与制度を考えた。
A 評価制度については、職員の能力や仕事の成果を評価を通じて任用や給与に反映させるため、人事・給与制度の「要」という認識に立っている。このため、総務省・人事院での検討の経過も踏まえ、十分実効性のあるものとして組み立てていきたいと考えている。
B キャリア制度については、これまで退職時まで採用年次に基づく一律的な運用が行われ競争原理が働かない等の反省のうえに立って、高いレベルの政策企画立案能力が求められる本省幹部職員としての人材を計画的に確保する必要性から、本省幹部候補の集中育成制度を設けることにした。
以上のような基本的な見解を受け、個別課題について以下のようなやりとりが行われた。
組合 基本給の水準については、どう考えているのか。また、定額部分と加算部分の比率はどうか。
推進事務局 水準のあり方については、基本権の帰趨がまだ決まらないので、現段階では申し上げられない。また、定額部分と加算部分の割合についても、まだ、具体的にいえる段階でない。
組合 給与制度の検討に当たって具体的な水準が明示されなければ賛否の態度は表明できなず、この問題でこれ以上のつっこんだ議論はできなくなる。
推進事務局 水準問題や割合について数値を示さないもとで、組合のいい分は分かる。
組合 基本給は月例給与、職責手当は俸給の特別調整額、業績手当は期末・勤勉手当と理解してよろしいか。
推進事務局 新給与制度では、職員の能力・職責・業績を適切に反映させるものとして設けたもので、必ずしも現行制度を引き写したものではない。基本給は、能力評価に基づき定額部分の格付けが決まり、業績評価に基づき加算部分が決められる。
組合 現行の仕事を基準とした制度は、長年にわたって定着している制度であり、職の責任に着目し仕事との関連性を客観的にみることができる。「同一価値労働同一賃金」という基準からみても、また、国民への説明責任という透明性の確保の観点からも合理性のある制度といえる。それに対し、「人」に着目した今回の能力・業績主義の給与制度は不透明な制度になるといわざるをえない。
推進事務局 必ずしも現行制度が透明性が高く、新制度が不透明になるという理解には立たない。職務に応じた給与というが、その者の働き具合を考慮する物差しがない現行制度は画一性に偏しており、透明性があるとはいえない。新制度は、働き具合・能力をより反映した給与として、外からみても明確な制度となり、透明性は高まると考えている。
組合 賃金については、最低限生計費を保障したものがベースに置かれるべきものと考えるが、基本給のうち定額部分がそれにあたるものとして理解してよいか。
推進事務局 定額部分だけでなく加算部分を含めて考えるべきものといえる。
組合 評価制度については、最初から任用・給与に活用するというような構えでなく、まず、評価制度そのものが4原則2要件を満たすものとして制度設計をすべきである。いまのままでは、「苦情処理制度」も万全でなく、実効があがらないものとなるのは明らかだ。そして、この制度の活用について、組合との協議を保障するシステムとすべきだ。
推進事務局 評価制度を円滑に動かし、実効あるものにしていくことが必要と考えている。その意味でもよくみなさん方とも相談し、理解と納得のうえで進めて行きたい。
組合 「評価結果の本人の開示」「組合が参加する苦情処理制度」などをきちんと担保したシステムにすべきた。
推進事務局 評価される本人の納得が得られるようフィ−ドバックする制度を検討するが、フィ−ドバックの用語の定着、内容については、今後の検討課題である。
組合 試行はいつから始めるつもりか。われわれは、4原則2要件が担保されなければ試行にも反対する。
推進事務局 「大綱」策定後、できるだけ早く試行に入りたいと考えている。
組合 幹部養成システムは、キャリア官僚のお手盛りであり、断固反対で撤回するよう強く求める。
※ 次回の交渉は12月10日に行い、「原案」のうち残された課題について協議することにしている。
以上