みんなの力で、労働基本権の確立と民主的な公務員制度改革を実現しよう

労働基本権確立・公務員制度改革

対策本部ニュース

No.73 2001年12月25日

連合官公部門連絡会


第8回対策本部会議を開催し、ILO提訴・署名運動の取り組みを決定
政府が「公務員制度改革大綱の閣議決定を強行
対策本部は「抗議声明」を確認

 政府は、本日(12/25)10時30分から閣議を開催し、公務員制度改革大綱の閣議決定を強行。
 この「大綱」は、6月に発表された「基本設計」に基づいて行革推進事務局が作業を進めてきたもので、@人事行政制度における人事院の機能・権限を内閣と各府省に移行し、それぞれの機能・役割分担を大きく転換すること、A能力等級制度を基礎とした能力・実績主義に基づく新人事制度を導入することなどを主な内容としている。
そして、今後の作業の進め方として、2003年中に国家公務員法・地方公務員法の改正案を国会に提出、2005年までに関係法令を改正し、2006年度から新制度に移行するとしている。
 連合官公部門連絡会・対策本部は、政府の閣議決定強行に対して、本日8時からKKRホテル・東京で第8回対策本部会議を開き、「『公務員制度改革大綱』の閣議決定強行に対する抗議声明(別紙1)」を採択し、今後の取り組みについて決定した。
公務員制度改革は「大綱」閣議決定を受け政府部内での法案化作業に移行することになることとなる。対策本部としてはこれまでの要求を堅持し、連合と連携しつつ、ILO提訴、国会闘争、署名活動など運動を一層強化し要求実現を目指すことを決定した。
 また、本日、13時30分から、東京・一ツ橋・日本教育会館で、連合、連合官公部門連絡会共催で緊急抗議集会を開催し、石原大臣宛の「抗議文」を採択し、政府・行革推進事務局に対して抗議行動を行う。なお、本日の緊急抗議集会、抗議行動の内容については、対策本部ニュースNo74でお知らせする予定。

【第8回対策本部会議の概要】
 会議の冒頭のあいさつで、対策本部の丸山本部長は、「本日の閣議決定を受けて我々のの運動は新たな段階に入った、今後の方針を確認し決意を固めよう」と訴えた。
続いて、山本事務局長が12月に入ってからの取組み経過を報告した。そのなかで行革推進事務局との交渉経過に触れ、労働働基本権の在り方について一切提示のないまま制度設計の具体化を進めてきた推進事務局や、交渉に応じない石原行革担当大臣の姿勢を厳しく批判した。また、政党対策として、労働基本権をめぐって自民党と厳しくやり合った意見交換の経緯も報告された。
 経過報告を確認した後、「大綱」の閣議決定強行に対する「抗議声明」を採択、「大綱」の評価に関する連合官公部門の見解をまとめた「基本的問題点」(詳細な分析は1月末に発行する『討議資料No5』に掲載する。)を確認した。
 「抗議声明」では、まず、手続きについて、十分な交渉・協議を経ずに閣議決定を強行したことを「政府の暴挙」として厳しく批判、「大綱」の基本的内容を「労働基本権制約を維持したことで内閣や各府省の権限が一層強まり、労働側は無権利状態に置かれることになり認められない」「4原則2要件を具備した評価制度を明確な形で担保しないまま、新人事制度を導入しようとしていることは人事の不透明性と当局の恣意性を強める」「幹部育成制度や天下り容認にみられる霞ヶ関キャリア官僚の権益温存のお手盛り改革にずぎない」と断じて、「大綱」に反対の態度を示した。
 続いて、今後の取り組み方針について協議し、本日午後の緊急抗議集会の開催(13時30分〜・日本教育会館)と、抗議団を編成しての政府・行革推進事務局長との交渉について確認し、抗議集会で、「労働基本権の在り方」について回答を示さなかった石原行革担当大臣に対する「抗議文」を採択することにした。また、26日の職場集会の実施と政府への抗議打電行動の取り組みについて再度意思統一した。
 「大綱」では、法制化スケジュールについて、@2003年中に国公法・地公法改正案を国会提出、A2005年度末までに関係法令を整備、B2006年度から新制度に移行、との考えが示されている。
 このように、具体的な法制化作業をめぐる局面に移行することになり、昨年12月の行革大綱の閣議決定にはじまった公務員制度改革の闘いは第2段階に入った。こうした認識のもとに「今後の取り組み方針」を協議し、法案化や同国会審議を視野に入れた2005年までの中期展望にたった方針として、連合との連携強化のもと以下の「基本スタンス・要求の柱」と「運動の組立」に基づいて取り組むことを決めた。
(1) 「大綱」に基づく法案化に反対し、法案化作業と同国会審議を視野に収め、2005年までの中期展望に立って取り組む。
(2)「法案要綱」策定のメドとなる2002年12月を節目として、次期通常国会を第1の山場に設定して取り組む。

【基本スタンス・要求の柱】
@ 公務員の労働基本権を確立し、団体交渉に基づく賃金・労働条件決定制度を実現すること。
A 新たな人事制度の設計は、労働組合との交渉と協議に基づくこと。また、評価制度に係る「4原則2要件」を実現すること。
B キャリア制度を廃止し、天下りを禁止した民主的で国民に開かれた公務員制度とすること。
C 一方的な法案化作業を許さず組合との誠実な交渉協議に基づいて進めることを求める。

【運動の組立】
(1)「大綱」の閣議決定に抗議しILOへ提訴することとし、連合と連携して準備を進める。
(2) 02年春季生活闘争の重要な柱と位置づけ、職場からの大衆的行動・学習活動を推進する。
@ 連合が提起する雇用、医療制度の課題に対する行動に取り組むとともに、連合官公部門連絡会として、「民主的な公務員制度改革」を求める一大署名運動を展開する。
A 中央・地方で連合民間構成組織への第2次要請行動を実施し、連合が提起する「内閣総理大臣宛の抗議と民主的な公務員制度改革を求める内閣総理大臣宛要請書」(詳細は後日決定)の機関決定などの協力を求める。
B 各政党への要請・協議を進め、国会での論戦に備える。
C 国会議員、地方議員を対象に支持署名集めを行い、それを集約しつつ地方議会での意見書採択に取り組む。
D 具体的な制度設計への労働組合の関与を担保するための取り組みを進める。
(具体化に向けた詳細な方針、体制などについては、次回1月の対策本部会議で確定)


別紙1

「公務員制度改革大綱」の閣議決定強行に対する抗議声明


(1) 政府は、本日、「公務員制度改革大綱」の閣議決定を強行した。
 われわれは、十分な交渉・協議を経ず一方的に「大綱」を閣議決定した政府の暴挙に対して強く抗議するとともに、公務員制度改革に名を借りた霞ヶ関の一部特権官僚と与党・自民党のご都合主義的な「お手盛り改革」にすぎない「大綱」に反対するものである。

(2)「大綱」は、@人事院の権限を大幅に縮小して内閣と各府省の人事管理権限を拡大するための機能整理を行うことA能力等級制度を基礎とした能力・実績主義に基づく新人事制度を導入することB2003年中に国家・地方公務員法の改正案を国会提出、2005年度末までに関係法令を改正し、2006年度から新制度に移行すること、などの内容とスケジュールを打ち出している。われわれは、この「大綱」の問題点を以下の通り確認する。
 その第1の問題点は、十分な交渉・協議を経ず一方的に閣議決定したことである。
 政府は、本年6月のILO総会で「職員団体と誠実に交渉・協議する」ことを国際公約として言明し、われわれにも再三にわたって「誠意ある交渉・協議」を行うことを約束してきた経緯がある。こうした経緯を一切無視し、当事者責任を持つ石原行革担当大臣との交渉も拒否し労働基本権の在り方についての回答を示さないまま、政府が閣議決定を強行したことは、国際社会に対する公約違反であるとともに、われわれに対する重大な背信行為であり、到底許すことができない暴挙である。
 第2の問題点は、労働基本権のあり方を「現行の制約を維持する」とし、依然としてもはや時代にそぐわなくなった現行の労働基本権制約という立法政策に固執し、労働基本権制約の代償システムとしても致命的欠陥を持っている人事院勧告制度を維持していく選択を行ったことである。
 このことによって、使用者としての内閣や各府省の人事管理権限だけが強まり、労使関係の一方の当事者であるわれわれ公務員労働者はほとんど無権利の状態に置かれることになり、労使関係は著しくバランスを欠いた一方的なものになるといわざるをえない。こうした国際労働基準からもかけ離れた時代遅れの立法政策を維持し、労働組合の決定過程への参加を拒否し続ける制度設計を行うのであれば、われわれは中立・公正な人事行政の観点からも大きな問題を含んでいる中央人事行政機関の機能分担の見直しについても強く反対せざるを得ない。
 第3の問題点は、明確な理念も目的もなく、「信賞必罰」の考え方に基づいて能力等級制度を基礎とする能力・実績主義の新人事制度を導入しようとしていることである。
 われわれは、制度の整合性もなく、評価の4原則2要件が明確な形で担保されない新人事制度に対しては、人事行政の不透明性と当局の恣意性を強めるものとして強く批判せざるを得ない。また、今回の新人事制度は国家公務員行政職の制度にすぎないものであり、その他の多様な職種や地方公務員の制度の在り方について一切の検討を行わないまま、法改正のスケジュールだけ提示することは極めて無責任といわざるを得ない。
 第4の問題点は、われわれが強く求めていたキャリア制度の改革や天下りの禁止に全く手がつけられていないばかりか、それを逆に強化、固定化する「集中育成制度」や天下り容認システム(大臣承認制)などの制度設計が行われていることである。
 このことは、行政改革推進事務局が進めてきた今回の公務員制度改革がまさに“霞ヶ関のキャリア”のための生き残り策にすぎなかったことを如実に示している。政官財の癒着構造と霞ヶ関キャリアの権益を温存しようとする今回の「大綱」の改革方向は、決して国民からの強い公務員批判の声に応えたものではなく、それに逆行したものである。

(3) 以上のことからわれわれは、政府・与党に対して、国民も公務員労働者も排除して密室で決定された「大綱」を撤回し、改めて国民的広がりをもった議論の場を設置し、21世紀に相応しい国民本位の公務員制度改革の方向性を取りまとめるよう強く求めるものである。あわせてわれわれは、「大綱」に基づく法制化作業に対して、ILO提訴や国会の場での闘い、国民的規模での署名運動を含め、総力を結集して反対の闘いを組織することを重大な決意をもって宣言する。

(4) 公務員制度改革をめぐる取り組みは、本日の「大綱」の閣議決定を経て具体的な法制化作業をめぐる新たな局面に移行することとなる。われわれはこの局面を2000年12月1日の行革大綱の閣議決定に始まった公務員制度改革をめぐる闘いの第2段階と位置づけ、2005年度の集中改革期間までの中期的な展望に基づき、新たな決意をもって粘り強い取り組みを進めていかねばならない。
 連合官公部門連絡会は、今回の公務員制度改革の動向が本格化して以降、本年3月に「対策本部」を設置し、21世紀に相応しい国民本位の公務員制度改革を求める「提言」を取りまとめ、その実現を目指して連合とともに国民的広がりを持つ運動を追求してきた。こうした今日までの運動の成果を踏まえつつ、引き続き、連合に結集し傘下の民間労働組合の支持・協力を得ながら、「雇用確保」や「医療制度の抜本改革」の取り組みとともに、労働基本権の確立・公務員制度の抜本的改革をめざした「提言」の実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決意する。

2001年12月25日
連合官公部門連絡会労働基本権確立・公務員制度改革対策本部


別紙2 〈討議資料〉

「公務員制度改革大綱」の基本的問題点


 以下については、閣議決定内容を踏まえて対策本部で取り急ぎ基本的問題点を整理したものである。「公務員制度改革大綱」の詳細にわたる問題点の分析は、引き続き作業を進め、1月下旬発行予定の「討議資料NO5」に掲載することとする。

一、「労働基本権の制約を維持する」ことの問題点について

 「大綱」は、「改革の基本理念」において、「公務の安定的・継続的な運営の確保の観点、国民生活へ与える影響などを総合的に勘案し、公務員の労働基本権の制約については、今後もこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持することとする」とした上で、「政府全体としての適切な人事・組織マネジメントの実現」において、「公務員の処遇を適切に確保するための枠組みを適切に設計することが必要である」としている。
 この「これに代わる相応の措置」と「処遇を適切に確保するための枠組み」が、「基本権制約の代償措置・機能」を意味するものと考えられ、人事・給与制度における使用者としての内閣や各府省の権限を強化する一方で、「協約締結権に基づく団体交渉権」、「争議権」は引き続き制約し、現状の労使・労働関係を継続することを明らかにしている。
 なお、その理由とされている「公務の安定的・継続的な運営……を勘案し」について、12月4日に自民党・行革推進本部と実施した意見交換において党側が、「改革検討のスタート時点において、基本権制約に抵触しない範囲で、どこまでやれるかを推進事務局に検討するよう指示した」と発言しており、これまで一環してそのことを明らかにせず、「重要な問題と認識しており早期に検討する、与党との調整も必要であり早く結論を出してもらうようお願いしている」という姿勢に終始した石原担当相及び政府行革推進事務局の対応は、まさに言語道断であるとともに、制度設計の結実に位置付けられた 「大綱」においてこのような理由を付すことは論外である。
また、「大綱」は、@公務員制度改革は、行政改革の中核をなすべきもの、A行政が直面している問題・批判は、人事行政のあり方にも一部起因していること、B政府全体としての適切な人事・組織管理が必要、という点を基本的な視点としている。
 そして、公務員制度の決定原則が勤務条件法定主義にあることをことさらに強調し、あくまでその前提においての「公務員の処遇を適切に確保するための枠組みが必要である」ことを指摘している。
 具体的には、@人事院による情勢適応原則に基づく給与勧告制度の維持、A勤務条件法定主義、財政民主主義を優先する観点からの人員枠の意見の申出、B救済機能の充実、強化について提起しているが、これらは基本権制約の代償性・機能が、給与勧告制度、勤務条件法定主義、救済制度のみに存しており、これを担保していれば代償性を果たし得るという発想に基づくものであると言える。一方、ILОにおける代償措置論は、「制度の構成、手続、実効性の確保などの点において、労働者の要求を十分にみたしうるものでなければならず、それによってはじめて基本的権利尊重の趣旨と整合性を確保しうる」としている。政府は、「誠実な交渉・協議」をILО総会において公約している以上、これらの代償措置についての明確な説明責任があるとともに、これまで我々に対して一切そのことが果たされていないことも厳しく非難されるものである。
 なお、現在の人事院の機能・権限を使用者である内閣または各府省に移行することは、第三者機関としての人事院に付与されている「職員の利益を保護するための権限」を阻害し、代償機能の低下を招くことが必然的であり、労働基本権を現行と同様の扱いとすることは断じて容認できるものではない。

二、内閣と第三者機関(人事院)の機能整理の問題点について

 「大綱」は、現在の人事院による事前かつ個別詳細なチェックが、各主任大臣による人的資源等の活用と機動的な行政運営への制約になっているとの指摘のもと、人事制度の企画立案についての現在の枠組みが第三者機関に大きく依存していることを批判し、内閣による適切な企画立案を提起している。具体的には、@法律によるルールの明確化=人事行政制度の法律・予算による規制、A各主任大臣の「人事管理権者」としての制度上の明確化、B内閣による人事制度の企画立案、総合調整機能、C人事院には、内閣に対する勧告・意見申出、事後チェック、救済機能としている。これらは、現在の人事行政制度における内閣、各府省、人事院の機能・役割分担を大きく転換するものであり、その内実は、単に現在の人事院の機能・権限を内閣、各府省に移行し、使用者権限を拡大・強化することを目的とするものであると言える。
 さらに「大綱」は個別課題においても、@職員採用の企画立案を内閣が実施し、人事院の権限は意見の申出に限定の上、人事院が実施する採用試験を事実上、資格試験化する、A「官民人事交流制度」、「任期付職員制度」における人事院の事前承認・協議手続等を見直し、事後チェック機能にとどめるなど、明らかに人事行政における政治的影響を拡大・強化するための措置を提起している。
 一方、近代的な政治体制と公務員制度は、政治的意思の決定に当たる政務職とその決定に基づいて執行に当たる行政職とは機能的に分化していることを前提としている。つまり、「行政」に対し「政治」が必要以上に介入することは、行政の継続性、安定性を大きく損なうこととなり、行政の公正性、中立性に影響を及ぼすおそれがあることが否定できないという観点からの問題意識である。
 その意味で現行の国家公務員法では、職業公務員グループについては、このような政治的影響を排除し、中立公正な人事行政を展開することが必要であるとし、そのことを機構面から確保するため、議院内閣制のもとで政治的な影響力に左右される内閣や各府省主任大臣から独立した第三者機関としての人事院に、広く人事行政に関する事項を所管させているものであると言える。
 したがって、これらの原理原則を無視した「大綱」の提起は、明らかに中立公正な人事行政を形骸化し、行政の中立公正的、また継続的、安定的かつ効率的な運営を阻害するとともに、今日の行政に対する様々な国民の批判に逆行する措置として厳しく非難されるものである。

三、新人事制度等の問題点について

 大綱は、「職務」ではなく「能力」を基本にすえた新たな人事制度を構築することをめざしているが、実際には職務主義が残された矛盾だらけの制度設計となっており、実現不可能な提案であることをまず確認しておきたい。
 勤務条件に関する事項については、「人事・組織マネジメント」の中に書かれているように、「勤務条件の基準化と事後チェック化を通じて各府省の弾力的な対応を可能とする」という基本的考え方に基づいて、人事管理制度が設計され、運用されることになる。したがって、どこまでが人事院の関与する基準であり事後チェックの対象となるのか、事後チェックの実効性はどのように担保されるのか、そしてどこからが各府省権限となるのかが、明確にされる必要がある。また、各府省権限とされた事項について、労働組合がどのように関わっていくかが、公平、公正で公務員に相応しい勤務条件を確保しうるかどうかを規定することをまず確認しておきたい。そういった観点から見たとき、大綱に盛り込まれた具体的人事管理制度の提案は、使用者の権限や裁量権を拡大する一方、労働組合の関与は従来と変えないというもので、到底認められない。

1.能力等級制度
 能力等級制度は、「職務遂行能力」に基づいて、職員を能力等級に格付けることで、任用や給与、評価の基準とし、「トータルシステムとしての人事システム」の根幹とする仕組みである。
 この仕組みは、第1に、現行官職分類のヒエラルキー構造に基づいて、組織段階、基本職位、代表職務の分類を行うなど、能力等級といいながら、官職分類を前提とするという基本的矛盾を内包している。その結果、能力評価は、原理的には絶対評価たらざるを得ないが、官職分類を前提することに由来する人員枠にしばられて、評価されてもそれが任用や処遇に反映されないことになる。
 第2に、等級別の「人員枠」について、府省の要求に基づいて内閣が予算に盛り込み、人事院は国会や内閣に意見の申し出を行うこととされていることである。人事院は従来は予算案決定にかかる査定権を有していたことと比べ、「事後チェック」という意見の申し出によっては実効ある勤務条件確保を担保しえないといわざるを得ず、労働基本権の回復が必要である。
 加えて、現在の指定職につては「上級幹部職員」と位置づけて、基本職位を設けるにもかかわらず能力等級制度は適用しないということも、矛盾に満ちた制度であることを物語っている。
 なお、今回の大綱には盛り込まれていないが、能力基準表が先に示された程度のものであれば、職員が納得する客観的な能力評価は不可能であるという他ないし、それだけに人事管理権者の恣意性も排除できない代物である。昇格は、「上位の等級に求められる能力の発揮への期待度」から判断するというのであるから、なおさらである。

2.任用制度
 任用制度では、人事管理権者が個別官職を基本職位に分類することを前提に、基本職位を跨る任用を昇任・降任と位置づけている。
第1の問題は、昇任要件である。昇任は、@能力評価の結果A適性Bその他の事情、を「総合的に考慮する」ものとされ、能力基準に基づくといいながら、不透明な決定方式として人事管理権者の恣意性を排除できない仕組みにしていることが根本的な問題である。
 能力主義を徹底するというのであれば、キャリア制度を廃止した上で能力評価が前提であることを明記すべきであるし、誰もが納得できる客観的昇任基準も設けるべきである。また、上位の等級の能力を有しない者について、特例昇任を認めていることも、能力等級制度の基本原則をねじ曲げるものであり、上級幹部集中育成課程における特例昇任とあわせ、矛盾した内容である。
 第2は、免職・降格について、基準及び手続きを定めることによって、「厳正に対処」するという問題である。原案の中では、免職・降格基準に該当した場合には、所要の手続きを経た後は、ほぼ自動的に免職・降格処分を可能とする仕組みが具体的な提案されていたが、非処分者に対する民主的手続きが一切言及されていないことである。労働組合の関与や事前の事情聴取等、処分の公正性確保の仕組みを設けることが不可欠である。

3.給与制度
 第1に、給与決定について、「人事院は給与水準等を設計し、国会及び内閣に勧告する」とされているが、提案されている基本給(能力給)、職責手当(職責給)、業績手当(業績給)という新たな制度の下で、どこまで関与するのかが不明である。現業と異なって非現業の場合は協約締結権を有しないことから、現行制度の下では人事院が第三者機関として、級別定数の設定と合わせ、個別配分まで行ってきた。こうした点が、人事管理権者の権限強化の中でどうなっていくのか、極めて曖昧であることが問題である。
 第2に、具体的な給与水準が示されないまま、制度改革だけを提案していることも無責任といわざるを得ない。公務員それぞれが、それぞれの役職とライフステージの中で、どういった給与を支給されるのか、具体的な給与水準が現在とどう異なるのか、といった勤務条件の基本が示されないのでは、いい制度なのか悪い制度なのか、判断のしようがないからである。
 第3に、基本給である能力給の加算額が「能力評価」ではなく「業績評価」でなされるという非整合性、職責手当といいながら実態は超勤見合い分の管理職手当に過ぎないこと、業績手当は過度の定額化により家計のもっとも苦しい中高齢組合員層の支給額を大幅に減額する制度設計であること、など多くの問題点を持っている。
 さらに加えて、本府省だけに支給する「本府省手当」を設けるということも、今回の制度改革が地方に在勤する組合員をどれほど無視したものか語ってあまりあるものである。

4.評価制度
 現行の勤務評定制度が機能していないのは職員の信頼が得られていないからであり,新たに提案されている制度も被評価者の信頼が確保されなければ、同様の結果になることは明らかである。大綱では、任用、処遇に反映させるトータルシステムとして実施することをうたっているが、被評価者の信頼と安心を確保しつつ、段階的に適用していく必要がある。まず、管理職から導入することや、評価結果は能力開発や配置から適用し、被評価者の信頼を得てから、昇任・昇格、処遇に活用するなど、段階的な導入でなければならないことも明確にすべきである。
 「能力評価」と「業績評価」を行って、昇任・昇格や処遇に反映させることが、新たな評価制度導入の狙いであるが、われわれが評価制度導入の条件として求めてきた「4原則(公平・公正性、透明性、客観性、納得性)・2要件(苦情処理制度と労使協議制)」が明確に担保されていないことが根本的問題である。
 制度設計から運用に至るまでの労働組合との協議を制度化するとともに、苦情処理についても、人事当局が対応するのではなく、労働組合が参加する苦情処理制度を各府省・職場に設けることが不可欠である。こうした点で、大綱は基本的に不十分である。

5.採用試験・幹部集中育成
 採用試験について、企画立案権を人事院から内閣に移すことを提起しているが、成績主義に基づいた中立公正性がもっとも求められるだけに、公務員制度に対する信頼の根幹を揺るがすものであり、認められない。
 また、T・U・V種の区分を維持し、しかもT種については合格者数を大幅に増やし、人事管理権者の裁量の余地を増やし、情実採用をも可能にすることも、民主的公務員制度に真っ向から反する仕組みといわざるを得ない。
 しかも、T種採用者については、本府省幹部候補として「特別な人材育成を図る」というのであるから、大綱みずからが掲げる「改革の基本理念」である「真に国民本位の行政の実現」は望むべくもない。国民の行政・公務員不信の根幹は、国民感覚から遊離したキャリア制度そのものであるのに、それを一層固定化し、強化しようとするものだからである。国民の不信を払拭し、真の能力主義を徹底したいのであれば、特権的・閉鎖的なT種試験やキャリア制度は廃止することが基本でなければならない。

6.再就職・退職手当
 6月の基本設計の際、キャリア制度の維持と合わせ、国民から強く批判されたのは「天下り」の「大臣(=人事管理権者)承認」であったが、大綱でも「大臣承認」による「天下り」容認は維持されている。大臣が「責任を持」つし、「公表」も行うので、「押し付け的再就職」はさせないという判断であるが、第三者機関が厳格に関与する現在の仕組みであっても強い批判を浴びているのであるから、大臣承認への移行は業界との癒着を一層深めるものに他ならない。
 公務員は、基本的に公的人材であって公務内で活用されるべきであり、「天下り」は民間企業や特殊法人を問わず、全面禁止とすべきである。「職業選択の自由」を掲げ、「押し付け的再就職」でなければ問題ないとする考え方そのものを廃棄すべきである。
 退職手当については、「支給率カーブ、算定方式の在り方等」を見直すとしているのみで、具体的提案はなされていないが、現在総務省で作業が進められている民間実態調査の結果がまとまってくる段階で、水準とあわせ大きな問題になってくる。退職手当は、現業公務員を含む重大な労働条件であり、組合との協議と合意に基づいて進めるべきことが不可欠である。

四、行革推進事務局における今後の作業スケジュールについて

 行革推進事務局は、閣議決定の直前まで今後の作業の進め方やスケジュールについて明らかにしなかった。今後の法制化作業を引き続き行革推進事務局が行えるのか、改革プログラム等を定めた「基本法」などを作ることとするのか、などについて明確でなかったためである。

1.今後の作業体制とわれわれとの交渉・協議について
 最終的に明らかにされた方針によれば、「基本法」等は作らず、@今後の法制化作業の体制は引き続き内閣官房行革推進事務局が中心となって行うことA人事院に一層の協力を求めていくことB制度設計の詳細に向けて職員団体等とも十分意見交換を行っていくこと、などが示されている。しかし、@については今後の法制化に向けた専門能力が欠如しておりほとんど不可能であること、Aについては今後の作業過程で人事院の「意見の申出」等を経ないで法案要綱等を政府が一方的にまとめた場合は違憲性を問われること、などの問題点がある。また、Bについては、今日まで十分な交渉・協議を行わないまま一方的に閣議決定を行いながら、「十分意見交換」するとしても全く信憑性がないことと、そもそも「交渉・協議」ではなく「意見交換」としたことに政府の誠意のない姿勢が現れている。

2.法制化スケジュール等について
 今後の法制化スケジュールについては、@2003年中に国家公務員法改正案を国会提出しA2005年度末までに給与法等の下位法や関係法令の整備を行いB2006年度から新制度に移行することを目指す、との方針を示している。2005年度までの「集中改革期間」のスケジュールを一応定めたものといえるが、十分な交渉・協議を行う期間等を考慮せず、一方的にスケジュールを提起したとしてもそれは何の意味を持たないことを付言しておく。
 また、今回の「大綱」が国家公務員の行政職を中心とした制度設計にすぎないため、国営企業を含め行政職以外の職種についての制度設計については、今後、行政職に準じた検討を行うとしている。しかし、これについても国営企業労働者については協約締結権を有しており、賃金労働条件事項を一方的に政府・行革推進事務局が検討することは不可能といわざるを得ない。
 さらに、地方公務員制度についても、地方自治の本旨に基づき、地方公共団体の実情を十分勘案しながら、国公に準じた改革を行うことを明記している。スケジュールについては、国公法と同時期に地公法の改正を行うとして、2003年中に国会提出することを打ち出している。地方分権時代に相応しい公務員制度が求められている今日、旧態然たる中央集権的・画一的な考え方に基づいて国家公務員に準じた制度改革を行うことを提示すること自体が誤っており、しかも、これまで一切内容の検討さえ行わずスケジュールだけ提示する政府の姿勢は極めて問題があるといわざるを得ない。

以上