対策本部は、7月25日午後1時30分から行政改革推進事務局と6回目の交渉・協議を行い、前回示された「採用試験の抜本改革の在り方について(案)」に対する別紙の質問書を提出し回答を求めるとともに、同事務局が提示した能力等級制度の基本的考え方等について再協議を行った。推進事務局は、高原・井上参事官らが対応、対策本部から実務クラス交渉委員が参加した。
<採用試験の抜本改革案について>
対策本部側が採用試験の抜本改革(案)に対する質問書(別紙資料)を提出し、@行革推進本部の採用試験制度の見直し案は公務員制度の根幹に関わる疑問点・問題点があるので明確な回答を示すことA一方的に政府方針を決定せずわれわれと十分交渉・協議すること、などを求めたのに対し、推進事務局は次のとおり考え方を示した。
(1) 内閣が企画立案すると試験の中立・公正を確保できないというが、人事院がやればそれを保てるということでは必ずしもないのではないか。そもそも企画立案と実施を同じ機関がやることにも問題があるのではないか。われわれとしては、内閣が企画立案する中で中立・公正を確保する方策を考えていくということである。
(2) 4倍は情実採用の危険性があるからいけないというが、(筆記)試験で合格者を絞りきるか、それとも人物評価で絞るかという問題である。必要な人材を確保するという点では、ペーパー試験よりも人物評価の方が適切であると思っている。情実採用については、人事院がやるから大丈夫で、政治家の大臣がやるから危険性があるというような問題とは考えていない。
(3) キャリア制度を残しておいてT・U種の試験区分を維持するのは問題だとおっしゃるが、われわれとしては集中育成制度を設け、T種採用職員に加えて優秀なU・V種採用職員を対象にして育成・選抜していくことにしており、キャリア制度は大幅に見直すことにしているところだ。
(4) 政府としての方針をいつ決めるかということについては、まだ決まっていない。
(5) 国公法に定めのある提示制度は廃止することにしているので、法改正にも関わってくるが、国公法全体の改正のタイミングを見てあわせて行いたいと考えており、早めにやるということではない。
以上の見解に対しさらに対策本部側は@現に中立・公正機関としての人事院が存在するのに、あえて内閣が企画立案する積極的理由はなく、中立・公正性を具体的に担保する仕組みも提示されていないA4人から1人を選ぶことになれば、それを中立・公正に実施するためには各省が行う採用試験に別途統一基準が必要となるが、それさえ提示していない案では情実の危険性はぬぐえない、と強く批判したが、行革推進事務局から明確な見解が示されなかったことから、対策本部は「案は採用する側の論理ばかり強調されているのではないか。公務員採用試験は、国民に対し平等・公開、公正・中立を原則としなければならない。提案されている内容は、その点への配慮が全く欠落している。参事官の本日の回答では全く納得がいかないので、後日、具体的な回答をしてもらいたい」と要求し、採用試験抜本改革の論議を打ち切った。
<在職期間の長期化について>
また、 首相が閣議で指示したと報道された「早期勧奨退職の是正」(在職期間の長期化)について、@どのような指示があったのか、A推進事務局としてどう対応するつもりか、説明を求めた。これに対し推進事務局は、@各府省に指示がなされ、これから是正計画を作ることになるが、とりまとめは総務大臣(人事・恩給局)が行うことになっており、行革担当大臣は協力するものとされている、Aしたがって推進事務局として主体的に作業をするということではなくて協力していくということになる、と説明した。このため対策本部は、「在職期間の長期化は積極的に推進すべきものと考えており、早期勧奨退職の是正が実現するよう積極的な協力を求めたい」と要請した。
そのほか、国会で石原担当大臣が天下り問題に関わって、「内閣が責任を持つ」と答弁したことの意味について、前回、推進事務局が「大綱の大臣承認制を見直すものでなく、あくまで内閣の総合調整の範疇」と大臣答弁を歪曲する回答を行ったことから、改めて行革推進事務局の統一見解を示すよう求めていたことについて質したが、参事官は「皆さんのおっしゃられたことは認識している」と繰り返すのみで、統一見解を示そうとしなかった。対策本部側は、「この問題は大綱の考え方そのものを左右する重要な問題だ。明確な統一見解を示してもらいたい」と再度求めた。
<人事制度の基本的考え方について>
前回、「能力等級・職・任用分限等の基本的な考え方」について議論を行ったが、結局明確な見解が示されなかったことから、対策本部が「改めて整理した統一見解を示すよう」求めていたことについて、推進事務局は次のとおり見解を示した。
(1) ポスト(職務・官職、一人の人が果たすべき職務と責任)は、公務員制度に関わらず組織法令によって置かれるものであり、公務員制度の在り方にかかわらず今後も置かれるものである。したがって、新人事制度においても、当然にこのようなポストの存在は前提となる。
(2) 採用を含めた任用とは、欠員補充(職がベースにあって、職に欠員を生じた場合にその職にあてること)であり、これを変えるものではない。
(3) 職員は、いずれかの職務(官職)に就いていることが必要であり、能力等級への格付けは適材適所の配置や職務・能力を適切に反映した給与処遇を実現するための装置である。したがって、能力等級への格付けだけが職務を離れて行われるものではない。
(4) 休職は現行制度を踏襲する。
(5) 職階制ないしこれに準ずる職務分類制度は、職務を所与のものとして、まず職務を職責を基準として詳細に分類して、職務分類を元に任用制度、給与制度を組むという考え方である。
(6) 今回は、一般的な職務段階を想定してまず能力等級制度を設計し、求められる能力の程度に応じて、職務を基本職位に分類する。職務分類より前に能力等級があり、能力等級による適材適所の配置(人材活用)や能力に応じた処遇の実現に必要な限度で、能力をもとに分類することになる。能力本位の処遇を適正に行うためのツールとして、職務の箱(一定レベルの能力が求められる職務の一群=基本職位)を使い、職務を箱の中に入れていく(職務分類)ようなイメージである。
職員の能力等級への格付けをもとに、分類されたそれぞれの職務へ適材適所で補充することが配置である。職階制等の場合と異なり、基本職位への分類は求められる能力の程度に応じて行われるものであり、職務の上下関係を整理するものではないので、「配置」の中で、一定の異動が上への異動(昇任)、下への異動(降任)という整理は行われない。
このように、新人事制度においては、能力等級制度(能力等級への格付け)が任用制度や給与制度の基本となる。
このような考え方から、求められる能力レベルに応じたある職務の区分(基本職位)に分類された職務に欠員が生じてはじめて任用が発生することは変わらないが、欠員を埋める際には能力基準を使って能力本位で適任者を配置することになる。
(7) 分限処分の定義には諸説あるが、例えば休職など必ずしも官職との関係だけでなく官側が一方的な身分の変動を伴う不利益処分を行うということであり、新人事制度の2次原案の中では、免職と降格が分限処分と位置づけられると考えている。
(8) 免職については、現行の人事運用を前提に特定の官職の不適格性の有無だけではない基準とすることを検討しているが、適格性を欠く場合に職務を免じられるという免職の本質が変わるわけではない。
(9) 身分保障というかどうかはともかく、不利益処分は法令の定める基準・手続きにしたがって行うという意味では、免職と降格が保護される。なお、降格が保護された結果として実質下位の基本職位への異動も保護される(親亀が能力等級であり小亀が職務であるから、子亀がこけても保護されるべき親亀がこけなければよいので、降任は位置づける必要がない)。
説明に対し、対策本部は、@分類をしない単なる職をおくことが公務員制度上どのような意味があるのか、全く説明されていない、A職務分類が先にないと求められる能力を定める能力等級を対応させられないのではないか、B仕事の内容ははじめから違いがあるのに、どうして職を分類しないで改めて能力等級なるツールを導入して分類しなければいけないのか、C能力という不透明な要素を媒介して任用・処遇を行うということでは国民に対する説明責任を果たせないのではないか、D身分保障はあくまで職が前提であり、能力等級が維持されれば降任は不利益処分にならないという位置づけは間違っているのではないか、E同じ一般職でありながら、上級幹部職員には能力等級制度を適用しないのはダブルスタンダードで問題だ、などと疑問点を質した。
しかし推進事務局は、上記の能力等級制度の仕組みを繰り返すのみで、対策本部側は「職務主義の原則の下に評価制度を入れて、客観的な任用基準を作って、年次主義的人事を改めるという方法ではなく、どうして新たに能力等級制度を入れなければいけないのか、まったく説明できていない。しかも、今回、職をおくとの見解を示したことによって能力等級制度はより混乱した制度となっており、理解不能だ。本日の見解は単なるへりくつではないか」と批判し、「われわれとしては国民に対する透明性の観点から、公務の場合は仕事・職務を基準とした人事制度を構築すべきだと考えている。これまでのやりとりで能力等級制度はまやかしであることが明確となってきており、無理矢理導入しても円滑に運用していけない。この際抜本的に考え直すべきである」と強く求め、ひとまず新人事制度を貫く基本的な考え方に関わる交渉・協議に区切りをつけることにした。
さらに対策本部側は、2次原案で提示されている免職・降格の基準について、「使用者としての政府が一方的に案を作成することは不可能ではないか、不利益処分の問題については人事院が定めるべきではないか」と質したが、行革推進事務局は「本日は答える用意がない」としたため、次回に明確な回答を示すよう求めた。
最後に、次回以降は給与制度の論議を行うこととし、「中身の議論に入る前に、給与制度を検討することの位置づけを明確にしてほしい」として、次の点について次回見解を示すよう求めた。
(1) 「給与制度」は、賃金・労働条件そのものであることから、人事院の勧告または意見の申出を経ないで、政府が一方的に見直すことはできないのではないか。仮に勧告等を経ないとすれば、「交渉事項」として明確に位置づけて、合意の下に進めるべきではないか。
給与制度について、推進事務局はどこまでやるのか。どこから人事院がやることになるのか。
(2) そもそも現行の給与制度のどこが問題で、なぜ新給与制度にしなければいけないのか。明確な理由を示してほしい。
(3) 「基本給」「職責手当」「業績手当」に区分する理由は何か。今は「職務給」の原則であるが、新給与制度ではどうなるのか。「能力給」ということになるのか。われわれとしては、国民に対する透明性確保の観点から給与の基準は職務=仕事とすべきではないかと考えるがどうか。
(4) 給与制度は具体的な話であり、2次原案の範疇では交渉・協議ができない。たとえば基本給の定額部分と加算部分の割合など、判断できる材料が示されていないので態度を留保せざるを得ない。いつどのような形で水準の在り方を含めた具体案が示されるのか。それが示されないと交渉・協議ということにはならないのではないか。
(別紙)
2002年7月25日
行政改革担当大臣
石 原 伸 晃 殿
連合官公部門連絡会
労働基本権確立・公務員制度改革対策本部
本部長 丸 山 建 藏
「採用試験の抜本改革の在り方について(案)」に対する質問書
過日、標記案がわれわれに対しても示されましたが、その内容について下記のように公務員制度の根幹に関わる不明な点や疑問点がありますので、誠意をもって明確な見解を示されるよう要請します。
また、採用試験制度の見直しについて一方的に決定するのではなく、われわれとの十分な交渉・協議、合意の上で政府の方針を決定されるよう、強く要請します。
記
1.作成過程について
この案を検討する過程において、試験を所管する人事院、採用当事者である各府省とどのような議論を行ったのか。また、どんな質問や疑問が出されどう対応したのか。ここに示された案と異なる具体的提案は出されなかったか。さらに、採用する側の意見だけでなく、採用される側の意見、すなわち、国民の意見はどのように聴取したのか。これらについて、われわれや国民にも透明な形でわかるように説明されたい。
2.内閣が企画立案することと公正・中立性について
(1) 内閣が採用試験制度の企画立案を行う(P2(2))ということについては、中立・公正性の上で大いに疑問がある。例えば、内閣が代わるたびに政策の方向性が変わって、求められる人材の資質も変わることになるのではないか。これでは憲法15条が求めるような公務員を確保できず、中立・公正性が求められる職業公務員制度の根幹に関わる問題を惹起するのではないか。
したがって、職業公務員の採用等は引き続き第3者機関としての人事院が企画立案すべきものと考えるが、貴職の見解は如何に。
(2) ここでいわれている「内閣」とは、具体的に内閣のどこなのか。「首長たる内閣総理大臣」(内閣法2条)の指示に基づき、内閣官房に特別の部局を置いてそこで企画立案するということか。あるいは、中央人事行政機関としての内閣総理大臣の補助部局としての総務省人事・恩給局が所管することとなるのか。
(3) 案では、「内閣が中立性・公正性の確保のために従来以上に責任を持って取り組む」(P2(3))と記されているが、具体的にはどう取り組もうとしているのか。内閣が企画立案することによってどのように中立・公正性が担保できるのか、具体的、かつ明確に示さない限り、採用試験の中立・公正性が損なわれるという批判は妥当性を持つのではないか。
(4) 同じ所の後段で「採用における中立性・公正性を制度的に担保するため、人事院によるチェックが適切に働く仕組みとする」と記しているが、これはまさに内閣による企画立案では中立性・公正性を確保できないことを証明しているのではないか。また、人事院のチェックだけで中立・公正性が担保できると強弁する明確な理由を示されたい。
人事院のチェックは具体的にどのような仕組みを考えているのか。「意見の申出」なのか、「勧告」なのか、あるいは採用の取り消しなども含む強い権限を持った仕組みなのか、その他の方法なのか具体的に説明されたい。
3.現行採用試験の問題点について
「各府省が人物評価に基づき採用を内々定した者が最終合格せず採用に至らないケース」(P3(2))があることを問題として合格者数の大幅増という対策に結びつけているが、内々定という各府省の判断を優先し、人事院試験の合格者数を問題視する根拠はどこにあるのか。最終合格前に内々定を出すこと、さらに合格できない者に内々定を出した各府省の判断に問題があるのではないか。
4.人物評価重視と合格者数の4倍化について
(1) 「知識偏重であるとの指摘」を踏まえ、人事院の試験を各府省の人物評価候補者選抜試験に変えて、「各府省の総合的な人物評価」で採用を決めることにしているが、人物評価を重視する理由はどういうものか。
「知識偏重」の試験内容を「人物重視」に変えていくということだが、専門学校に通うことによる筆記試験対策が人物試験対策に変わるだけで、受験の負担に変わりはないのではないか。
(2) 案では、「透明性や公平性の確保のため、内閣において一定のルールを設定する」ことにし、「性別等による不当な差別的取扱いの禁止、複数の者による評価や評価基準の設定など公正性の確保を各府省に求める」としているが、たとえば「評価基準の設定」はどのようなことを考えているのか。
また、「総合的な人物評価」について、「不当な差別的取扱い」があったかどうか、どのように検証するつもりか。人物評価の結果が公表されなければ中立・公正な判断が行われたかどうかも確かめようがないのではないか。非採用者からの苦情にはどう対応するのか。
(3) 人事院試験の合格者数を採用予定数の4倍にし、そこから「各府省が総合的な人物評価」で採用を決定することでは、「情実採用」に道を開くものではないか。人事院試験に合格しても4人に1人しか採用されないということになれば、出身大学や幹部公務員や政治家とのコネクションなどが影響力を持つことになるのではないか。したがって、情実を排除するための明確な制度的担保がない限り、4倍化は行うべきではないのではないか。
さらに、各府省において4人に1人を選抜することとなれば、新たに成績主義を担保するための採用基準が必要となるのではないか。その際、各府省の採用の基準がバラバラとならないためにも、その採用基準を統一的に内閣で定める必要があるのではないか。
(4) 「知識偏重」ではなく「人物重視」に変えるということであれば、T種試験だけでなくU・V種試験も同様と思うが、U・V種の合格者数はどうしていくつもりか。
5.試験区分とキャリア制度の見直しについて
(1) 同じ学歴資格である「大卒」を二つに分けるT・U種の試験区分を維持することは、T種合格者を引き続き特別に扱うということであり、いわゆるキャリア制度の弊害を解消することにはならないのではないか。今回の見直し案で、何故、試験区分の見直しに言及しなかったのか、明確な見解を示されたい。
関連して、2次原案では、キャリア制度見直しの具体策として「本府省幹部候補職員集中育成制度」を設けることにしているが、T種採用者に特権的に適用する仕組みであり、U・V種採用者は一部の選抜された者が対象になるかもしれないと言うことであって、案が言うような「すべての職員について、真に能力本位で適材適所の任用や能力・実績に応じた処遇を図る」(P1B)ことにはならないのではないか。
(2) 「採用試験の種類がその後の人事管理において絶対的なものとならないよう、内閣及び各府省をあげて適正な運用を図る」(P5(3))ということだが、具体的にはどう運用するつもりなのか。また、適正かどうかの検証はどう行うのか。
6.今後の政府部内の見直し案のとりまとめについて
(1) この見直し案が、今後政府部内でどのように取り扱われていくのか、具体的に説明されたい。例えば、閣議決定となるのか、行革推進本部決定となるのか。また、政府の意思決定の時期を明確にされたい。
(2) 試験制度の見直しに関わって、政府の意思決定後の作業がどのように進められていくのか、明確に説明されたい。例えば、国家公務員法を改正するのか、改正するとすれば、いつ国会提出するのか。
7.われわれとの交渉・協議について
われわれは、採用試験制度についても、広義の意味での交渉・協議の対象となると考えている。交渉・協議の対象だとすれば、この質問書への回答などを含め、われわれの意見に対して誠実に対応すべきものと考えるが、貴職の見解は如何に。
以 上