ILOは、20日(現地時間)理事会を開催し、連合及び連合官公部門連絡会がICFTU(国際自由労連)など国際労働組合組織と共同で提訴した2177号事件に関する「結社の自由委員会報告」を採択することにしている。
この提訴は、昨年末に閣議決定された「公務員制度改革大綱」が公務員の労働基本権制約を維持したままで内閣や各省大臣の人事管理権限だけを強化する内容であり、しかも労働組合と全く話し合うことなく一方的に決定されたことから、「大綱」を撤回し、改めて話し合いに基づいた公務員制度改革を検討するよう日本政府に勧告することを求めたもの。
これに対し、理事会で採択される「結社の自由委員会報告」の勧告では、第1に日本政府に対し「公務員に対する労働基本権の現行の制約を維持する」という考え方を再検討するよう求め、第2に「法令を改正してそれを結社の自由の原則に適合させる観点から、全ての関係者と全面的で率直かつ有意義な協議が直ちに実施されるよう強く要請」している。そのうえで、この協議においては、@消防職員、監獄職員への団結権の付与、A国家の運営に直接関与しない公務員への団体交渉権・ストライキ権の付与、Bストライキに対する刑事罰からの解放など、6項目にわたって検討事項を明記している(資料1参照)。
これにより、政府がいま進めている公務員制度改革が国際労働基準に反していることが国際的に明らかにされたもので、日本政府は国際舞台で厳しい立場に立たされることになった。こうした勧告の採択は、連合官公部門の取り組みはもちろん、連合運動や国際労働組織による全面的支援の成果である。
勧告の採択について、連合は「政府に対し、この勧告に従いILO条約に則った公務員制度改革を行うと表明すること、そして公務員に労働基本権を付与する公務員制度改革に向けて連合を含めた労働組合と直ちに協議を開始するよう求める」内容の事務局長談話(資料2参照)を発表した。また、緊急集会を開催し、政府に対し勧告の受け入れを迫るとともに、透明で民主的な公務員制度改革を実現できるよう全力で取り組む決意を固め合った。
なお、ILO結社の自由委員会から理事会に報告された「結論」部分を掲載しておくので参照されたい(資料3)。
20日19時から総評会館で「11.20 ILO勧告緊急報告集会」が開催された。連合と連合官公部門の共催によるもので、構成組織の書記局を中心に100人が駆けつけた。
集会は成川連合総合政策局長の司会ではじまり、草野連合事務局長がILO勧告の内容について次のように報告した。
@ 勧告は、提訴した労働側の主張を全面的に受け入れたもので、政府の「労働基本権制約維持」の再検討を求めている。これは、「公務員制度改革大綱」を撤回を政府に迫ったものとして、100%の成果を得たと高く評価したい。
A 勧告は、この間の、連合はじまって以来の1千万署名運動の成功や、国際シンポジウムの開催をはじめとする国際労働組合運動の支援・協力のたまものである。
B 政府が勧告を受け入れ、「大綱」を撤回するよう、臨時国会さらに通常国会対策を進める。そのため、連合として態勢を強化したい。
C 政府は、ILO勧告を「中間的な結論」として、結論の引き延ばしを図ろうとしているようだが、われわれは、ILO事務当局も認めているように、審査時点での論点の最終的な「結論」と「勧告」と理解している。
D 11月29日には1万人の中央集会の開催し、合わせて政府に申し入れを行うことにしている。
この後、丸山連合副会長(連合官公部門「対策本部」本部長)が登壇し、闘う決意を表明、「われわれは、ILOの勧告で“有利な武器”を得たことになる。日本の労働組合運動の鼎の軽重が問われており、いまこそ腹を固めて国内の運動をしっかり取り組んでいこう」と訴えた。そして、「11.29中央行動を国内の運動の新たな出発点と位置付け、大綱を撤回して、労働基本権を確立した公務員制度改革を実現するため、さらに運動を進めよう」と呼び掛けた。
集会は、最後に草野連合事務局長の音頭で「団結がんばろう」を三唱し、締めくくった。
(資料1)
委員会の勧告(連合仮訳)
上記の中間的な結論に照らし、委員会は、次の勧告を承認するよう理事会に要請する。
(a) 政府は、公務員に対する労働基本権の現行の制約を維持するとの公表された意図を再検討すべきである。
(b) 委員会は、この問題についてより広範な合意を得るために、また、法令を改正してそれを結社の自由の原則に適合させる観点から、公務員制度改革の理念と内容について、全ての関係者と全面的で率直かつ有意義な協議が直ちに実施されるよう強く要請する。これらの協議は、日本の法令および/又は慣行が第87号条約および98号条約の規定に違反していることに関して、次の事項を特に取り上げるべきである。
(@) 消防職員と監獄職員に自らの選択に基づく団体を設立する権利を付与すること
(A) 地方レベルにおける登録制度を修正し、事前承認に等しい処置にとらわれることなく自らの選択に基づき団体を設立できるようにすること
(B) 公務員組合がその専従役員の任期を自ら決定できることを容認すること
(C) 国家の運営に直接関与しない公務員に、結社の自由の原則に則り団体交渉権とスト権を付与すること
(D) 結社の自由の原則の下で団体交渉権とスト権のいずれか若しくは双方が合法的に制限又は禁止されうる労働者に関して、彼らの利益を守るための不可欠な手段を剥奪された職員に十分に代償するため、国および地方レベルにおける適切な手続きおよび機関を設立すること
(E) ストライキ権を正当に行使する公務員が重い民事上又は刑事上の制裁に服さないための法令の改正を行うこと
(c) 委員会は政府および連合に対し、独立行政法人に移行した18,000人の職員が事前承認なしに自ら選択する団体を設立し、又は加入することが出来るかどうかの情報を提供するよう要請する。
(d) 委員会は政府に対し、大宇陀町(奈良県)事件に関する判決を委員会に情報提供するよう要請する。
(e) 委員会はまた政府に対し、公務における団体交渉事項の範囲に関し労働組合と意義ある対話を行うよう要請する。
(f) 委員会は政府および申立人に対し、不当労働行為の救済の手続きに関し、現行の法律および慣行についてのさらなる情報を提供するよう要請する。
(g) 委員会は政府に対し、上記の全ての課題の進展について情報提供し続けること、および提案される法案のコピーの提供を要請する。
(h) 委員会は政府に対し、望むのであれば、事務局による技術支援を利用することができることにつき、注意を喚起する。
(i) 委員会は、この事案の法的な側面について、条約勧告専門家委員会の注意を喚起する。
集会後、20日19時30分から、連合として草野事務局長、丸山副会長が記者会見を行い、別記の「公務員制度改革に関するILO勧告に対する談話」を発表した。
この「談話」のなかで、今後の民主的な公務員制度改革を求める連合の運動について、「政府がILO条約に則って公務員制度改革を行うと表明することと、労働基本権を付与した公務員制度改革に向けて直ちに協議を開始するよう」求め、「国際基準である働く者の労働基本権を今こそ日本で明確に確立するため、その実現に全力を挙げる決意」を内外に示した。
(資料2)
2002年11月21日
公務員制度改革に関するILO勧告に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 草野 忠義
1.本日、ILO理事会は、連合、連合官公部門が提訴していた日本の公務員制度改革案件(2177号案件)に対する結社の自由委員会の審査の「報告書」を採択した。
「報告書」の「勧告」は、労働側の主張を受け容れ、87号条約(結社の自由・団結権保護)、98号条約(団結権・団体交渉権)に係る判例を基礎に、「日本政府は、公務員の労働基本権の制約を維持するとの公表した考えを再考すべきである」としている。
2.この勧告付き「報告」は、中間報告とされているが、これはILOの原則に則って日本の公務員制度が改善されることを期待しているからである。
日本の公務員制度改革については、「公務員制度改革の理念と内容について、法令を改正して結社の自由の原則と調和させる見地から、全ての関係者と全面的で率直かつ有意義な協議が直ちに実施されるよう強く勧告する。これらの協議は、日本の法令および慣行が第87号条約および98号条約の規定に違反している」、消防職員等の団結権、地方公務員組合の登録制の修正、専従役員期間の労働組合による決定、国家運営に直接関与しない公務員への団体交渉権、スト権の付与など6つの「論点について特に取り扱うべきである」としている。
また、「委員会は、日本政府に、上記の全ての課題の進展状況、および提案された法律案の写しの提供を求める」としている。
3.公務員制度の全面的再検討を求めたこの「勧告」は、民主的公務員制度改革を求める1000万人署名、連合がナショナルセンターとしてILOに提訴したこと、国際的労働組合組織であるICFTU、PSI、EI、UNI、ITF、IFBWWが共同提訴人に加わったこと、これら国際労働団体のリーダーが日本で一堂に集い国際シンポジウムを開催したことなど国内外の連携した取り組みによって実現した成果と言うことが出来る。
4.この採択により、日本の公務員制度改革はいまや日本一国にとどまらず国際的な課題となる新しい局面に入った。
連合は、政府に対し、この勧告に従いILO条約に則った公務員制度改革を行うと表明すること、そして公務員に労働基本権を付与する公務員制度改革に向けて連合を含めた労働組合と直ちに協議を開始するように求める。
政府、国会そして全ての国民の方々に、国際基準である働く者の労働基本権を今こそ日本で明確に確立することを強く訴え、連合はその実現に全力を挙げる。
以 上
(資料3)
結社の自由委員会(2002年11月7、8、15日)
2177号事件に対する事務局結論
ILO第285回理事会提出
(連合仮訳)
C. 結論
総論
628.委員会は、この提訴が日本の公務員の現行制度および来るべき改革と、その改革の手続きを取り上げていることに留意する。提訴人である連合と全労連は、かれらの申し立てを補強するために過去の具体的事例を引いて、現行制度が適切に機能していないこと、政府が現行制度の主要な特徴を維持するとしているために、その同じ問題が続くだけでなく改革により新たに生じる困難のために悪化すると申し立てている。委員会はさらに、この問題のいくつかはすでに審議され、その法的側面は専門家委員会に照会されていることに留意する。それ以外の問題は過去のILO報告および文書(実情調査調停委員会報告、いわゆる「ドライヤー報告」を含む)中で取り扱われるか、ILO総会の条約勧告適用委員会等のフォーラムにて討議の対象となってきた。双方から提出された資料の膨大さを鑑み、委員会は、意味のある議論のためには、先ず始めに当面の問題と、結社の自由原則に照らし合わせたそれぞれの重要性に改めて焦点を当てる必要があると考える。
629.第一に、提訴人は過去のまた結社の自由違反と疑われる例を数多く挙げているが、委員会は、今提訴の最重要の問題は「大綱」(付属文書1として目次、前文、基本的な哲学と理由を説明する「基本的考え方」を添付)に盛り込まれている改革案であることに留意する。これまでに以前の提訴の際に検証済みである個々の問題について深入りするよりも、委員会は、この改革の主要な点にしぼり、これに適用される原則を想起することにする。委員会は、このやり方が社会対話の新たな契機となることを真に願う。
630.第二に、政府が繰り返し歴史や公務の労使関係、社会経済状況等の各国状況に配慮すべきであると述べているように、委員会は、提訴の審議に当たってはそれら要素を考慮してはきたが、結社の自由原則はすべての国に一様かつ一貫して適用されるべきものであると指摘する。ある国がILOのメンバーになると決断した時点で、その国は検証とフィラデルフィア宣言に盛り込まれている結社の自由を含む各基本的原則を受け入れており〔結社の自由委員会決定ダイジェスト第4版、1996年、パラ10〕、各国政府はILO条約の批准によって課せられた責任を全面的に尊重する義務を負う〔ダイジェスト、パラ11〕。
631.第三に、委員会は、日本政府が、法規定は正当である(例えば団結やストの禁止)、国・地方機関(例えば人事院、人事委員会、公平委員会)は適切であると自分の立場を正当化するのに、最高裁判決を繰り返し引用していることに留意する。委員会は、国内法が結社の自由原則に違反している場合、当該法を検証しそれらが結社の自由原則に則ったものになるようガイドラインを提供することは、ILO憲章と適用可能な条約に述べられているとおり、委員会の任務に含まれていると見なしてきたことを想起する〔ダイジェスト、パラ8〕。
改革の内容
632.内容の問題については、国公法・地公法の修正案の実際の内容について、ましてや新たな制度がどのように実施されるのかについて解明するには早すぎるが、委員会は、現行の法規定と状況についても、政府がそれらを新たな法制度に盛り込もうとしている以上、意見を表明すべきであろう。委員会は、目次が示すように今回の改革案は野心的なものであるが、政府は現行制度の主たる要素のいくつかを保持すると明言しており、それにはある種の公務員に対する団結の禁止、大多数の公務員に対する団体交渉権の欠落、労働基本権が制約されている労働者のための代償措置の機関と方法、スト権の広範な禁止が含まれていることに留意する。
団結権
633.団結権に関して、委員会は、すべての公務員は民間部門と同じく、自らの選択に基づいて組織を結成してその権利を守るべきであることを想起する〔ダイジェスト、パラ206〕。唯一可能な例外は軍隊と警察であり、87号条約第9条に示されているとおり、限定的な方法により定められるべき例外である。消防職員と監獄職員は団結権を与えられるべきである〔同趣旨で、「結社の自由と団体交渉」一般調査、1994年、第81回ILO総会、パラ56を参照のこと〕。消防職員委員会に関する政府の見解に留意しつつ、委員会は、この問題は1965年から取り上げられており、誤解の余地のない結社の自由委員会および専門家委員会勧告が数多く出されており、2001年総会条約勧告適用委員会を含む多くの会議の場でも討議されていることを想起する。政府は消防職員委員会がスムースに機能していると述べているが、提出された資料は同委員会がすべての職場にあるわけでなく、存在する場合でも問題があることを示している。肝心なことは、日本の消防職員は団結する自由を持たず、かれらを代表する組織は団結権を求め続けていると言うことである。団結権とスト権は別物であることを想起し、委員会は政府に対し、法制度を変更して消防職員および監獄職員が自らの選択による団体を設立することが出来るようにすべきであると要請する。
事前承認なしでの労働者団体の登録
634.連合は、18000人の非現業職員が独立行政法人への移管に伴い国営企業独立行政法人労使関係法の管掌下に入ったため、それまで加入していた組合から脱退せざるを得なくなったと指摘している。また連合は、一つの職場にひとつの組合を設立しなければならない地方公務員の現状が、組合を細分化する効果を有していると指摘している。連合はしたがって、登録制度が組合結成の主たる障壁となり、事前承認無しでの団結権を否認しているに等しいと論じている。これに対し政府は、この制度は職員団体が正統で、独立しており民主的であることを検証するために置かれており、また地方組織は産業別組織やナショナルセンターに加入することが出来ると反論している。
635.地方従業員団体については、委員会は1974年にすでに日本政府に対する提訴の際に審査しており(737〜744号事件、139次報告、パラ95-220)、「実情調査調停委員会報告がすでに指摘しているとおり、登録制度は地方公務員の団体を縦横の小単位に分割した状態を永続化する効果を持つものである」と結論を下している。組合の過度の細分化が、組合とその労働者の利益を守る活動を弱体化することを考慮し、委員会はただこの見解を繰り返し、法制度改革の一部として適切な改正が為され、地方レベルの公務員が事前承認に等しい処置にとらわれることなく自らの選択に基づく団体を設立することが出来るようにすべきであると勧告する。
636.独立行政法人に移管された18000人については、提出された資料からは、移管によって彼らが事前承認無しで自らの選択に基づく団体に加入することを妨げられたと判断することはできない。従って委員会は政府と連合に対し、さらに情報を寄せるよう要請する。
管理職の範囲
637.管理職の交渉からの除外について連合は、管理職の範囲は時に広すぎ、また一方的に決定されると指摘している。組合が事実上破壊されたひとつの例を挙げている(奈良県大宇陀町)。政府は、これは中立的な第三者機関の職務範囲に基づく決定によるものであり、大宇陀町の件は現在裁判に掛けられていると返答している。
638.委員会は、次の2つの条件を満たせば、管理職に労働者と同一の組合に加入する権利を否定することは87号条約第2条の要求と必ずしも相容れないものではないことを想起する:まずそのような労働者が自らassociationを結成して利益を守ることができること、それからその範囲をあまりにも広範に規定して他の労働者の団体からメンバーを奪うことによってその組合を弱体化することがないようにすることである〔ダイジェスト、パラ231〕。加えて、使用者が労働者を不自然に昇進させることによって労働者団体を弱体化することを許す法規定は、結社の自由原則の違反にあたる〔ダイジェスト、パラ233〕。提出された資料からは大宇陀町の例をもってして、委員会はこれが孤立した例なのか全体的な問題を反映したものなのか判断する立場にはない。しかし委員会は、1997年7月4日に当局が組合の委員長、副委員長、書記長を課長補佐(assistant chief)に昇進させたことに始まり、1998年5月に公平委員会が職員団体登録を停止し、1999年2月1日に職員団体登録を取り消したという経過に留意する。組合が起こした裁判はなお係争中である。したがって委員会は、上記の管理職の除外に関する原則に対して政府の注意を喚起し、そのような決定は中立なだけでなくすべての関係者により中立であると見なされている機関によってなされなければならないということを強調する。大宇陀町の職員団体登録が取り消され、また紛争の発生から5年以上が経過していることを懸念と共に留意し、委員会はこの訴訟が直ちに終了することを強く希望し、政府に対し判決が出次第情報を寄せるよう要請する。
専従組合役員
639.連合は、労働者が専従役員を務めながら公務員の地位を保持するに当たっての許可は、全く使用者の裁量に任されていると指摘する。政府は、実際には専従役員を務めるために、仕事に支障をきたさない限り、休職が許され、人事院はその上限を7年と定めていると回答している。委員会は、結社の自由には労働者がその代表を自由に選ぶ権利を含むと考えられていること〔ダイジェスト、パラ350〕、役員の任期の決定は組合自身に任せられるべきであること〔ダイジェスト、パラ359〕を想起する。したがって委員会は、法制度改革の一部として適切な改正が為され、公務員が彼らの専従役員の任期を決定し、自らの代表を完全に自由に選ぶ権利が法制度および実際上確保されるようにすべきであると勧告する。
スト権
640.スト権に関して政府は、公務員の特有の性格と義務により、全体的な禁止が正当化されうると繰り返している。将来の法制度においてもこの全面的禁止を保持するとしている。
641.委員会は今回の申し立てに直接に関係する、主要な原則を下記想起する:スト権は労働者とその団体の基本的権利である。少数の例外を除き、民間・公務双方の労働者に認められるべきである;その例外は、軍隊および警察の構成員、国家の名において権力を行使する公務員(このカテゴリの判別については下記参照)、厳密な意味においての不可欠業務(その中断が国民全体もしくは一部の生命、安全もしくは健康を脅かす)に従事する労働者、および国家の非常事態の場合。この権利を奪われている(もしくは制限されている)ために自らの利益を守る重要な手段を失っている労働者は、その禁止もしくは制約を代償するための適切な保障が与えられるべきである。例えば、十分で全面的かつ迅速な、関係者がそのすべての段階に関与できる調停・仲裁手続きで、その裁定が一旦出されれば完全かつ直ちに実施されるような制度である。純粋に政治的なストは結社の自由原則の範疇に入らないが、スト権は厳密な意味での労使紛争に限られるべきではない;労働者とその団体は、メンバーの利益に影響を及ぼす経済社会的問題について必要とあればその不満を表現出来てしかるべきである。加えて、上記の原則に則ったスト実施に対して、労働者と組合役員は罰せられる(特にこの例においては、現在実施されているように、刑事罰や行政処分に処せられる)べきではない〔ダイジェスト、パラ473-605〕。したがって委員会は、改革の一部として法制度に適切な改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう政府に勧告する。
団体交渉
642.この点について提訴が取り上げているのは、団体交渉を行えない労働者の範囲、交渉事項の過度の制限、交渉制限に代わる代償措置の不十分さ、代償措置機関の勧告の不満足な実施、である。
643.委員会はこの点に関しては、論点のいくつかは双方の提訴が取り上げ、いくつかは片方のみが取り上げていること、また政府回答も双方に応えていたり片方のみであったりすることに留意する。したがって委員会はここでも、すべての論点ならびに総ての提訴について事細かに論じることをせず、提訴と関係のある主要な原則を取り上げることにする。
644.団体交渉権を全面的にであれ部分的にであれ認められていない労働者のカテゴリについて、委員会は、これは労働者の基本的権利であること、また軍隊及び警察、国家の運営に関与する公務員を除いて民間・公務両部門の労働者にあまねく認められるべきであることを想起する。職務上国家の運営に直接関与する公務員(政府省庁およびその同等機関で雇用される公務員)およびこれらの活動において補助的役割を演じる公務員と、政府、公的事業、自治的公共団体等に雇用される人々との間には区別を付けねばならない。前者のカテゴリのみ、98号条約の適用範囲から除外されうる〔ダイジェスト、パラ794〕。専門家委員会はまた、公務員がただホワイト・カラーであることのみで国家の運営に関与する従業員であるに足るとは言えないと強調している。こうでなければ98号条約はその適用範囲の多くを失ってしまうであろう〔一般調査、パラ200〕。まとめるに、すべての公務員は、軍隊および警察、国家の運営に関与する公務員を唯一の例外として、団体交渉権を享受すべきである。したがって委員会は、改革の一部として法制度に適切な改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう勧告する。
645.進行中の公務員制度改革は主に一般行政職公務員を取り扱い、その他の公務員(自治体職員および教員)について検証されていない、との全労連の提訴(2177号事件)について、委員会は上記の原則は彼らに対しても同様に適用可能であることを指摘する。ことに教員について委員会は、教員は団体交渉権を持つべきであるとした岡山県高教組に関する最近の判断(2114号事件、328次報告、パラ371-416)、および今報告にあるそのフォローアップ・コメントに言及する。
646.交渉の範囲について委員会は、連合も全労連も、交渉から排除される項目が広範囲すぎると指摘していることに留意する。両組合は、さらに改革によって、より多くの労働条件が法律によって規定されることとなり、これは将来におけるさらなる悪化を意味するとつけ加えている。政府の回答は、operationalおよびnon-operationalセクター(これらのカテゴリが何を指すかの説明はない)の双方において「管理または運営」事項は交渉不可能であるが、管理および運営事項によって影響をうける労働条件については交渉されうる、としている。委員会は、特定の事項は本来的もしくは本質的に政府業務の管理運営に属することでありしたがって交渉範囲外であると見なされ得るが、それ以外は本来的もしくは本質的に就労条件に関わる問題でありしたがって団体交渉の範囲外であると見なされるべきではない〔ダイジェスト、パラ812〕、ということを想起する。委員会は改革との関連で、当問題に関して労働組合と対話を持つことを政府に要請する。
647.労働基本権が制約されている公務員の代償措置について、連合と全労連の両方が、現行システムの不十分さ(国・地方レベルの機関による勧告の凍結および実施遅延)、人事院の役割の縮小、政府と内閣の権限の拡大を批判している。また両組合は、圧倒的多数の市町村では地方人事委員会が設けられていないことを指摘してもいる。政府は、大綱の前文で述べているとおり、新たなる挑戦に応えてその変化する状況と社会の要請に適応するためにはドラスティックな公務員制度改革が必要であると述べている。人事院勧告が実施されなかった事例については、それらは多数を占めてはおらず、発生するのは財政難の場合のみであり、いずれの場合でも人勧は完全に無視されるのではなく実施が遅らされただけであると回答している。
648.委員会は先ず、公務員制度改革を開始し実施するかどうか、どのような機関をもってその任に当てるか、人事管理に関するより多くの責任を各省庁と大臣に移管するかどうか、これまでは公務部門が提供していたサービスを民間や半官半民機関に移管するかどうかを決定するのは、政府の執行責任の一部であることを指摘すべきである。しかしながら、改革の途上で政府が、団体交渉権を与えられるべき労働者に関して上記で想起した結社の自由原則に則って振る舞っているかどうかを検証することは、明らかに委員会の任務の範疇である。その他の労働者に対する代償措置について委員会は、大綱の中で政府が現行と同様のシステムを維持し人事院の役割を縮小するとしていることに留意する。委員会は、繰り返し日本のこの問題について見解を表明し(例えば139次報告、パラ122、142次報告、パラ125、222次報告、パラ164、236次報告、パラ270等、20年以上にも渡って出されてきたもののいくつかを参照)、雇用の諸条件を決定するこの方法が関係者の信頼を得ているかどうかについて疑義を呈してきたことを想起する。委員会は、公務における団体交渉のような基本的権利が禁止されているもしくは制限されている場合にはいつも、自らの職業上の権利を守る重要な手段を奪われているそのような労働者の利益を全面的に守るため、適切な代償、例えば十分で全面的かつ迅速な、関係者がそのすべての段階に関与できる調停・仲裁手続きで、その裁定が一旦出されれば完全かつ直ちに実施されるような制度、が与えられるべきであると、数度に渡って指摘し、またここで想起する。委員会が古くは1974年に指摘しているとおり、様々な利害が審議会の数的構成に正当に反映されるよう、また審議会委員の任命について関係諸団体が同等の権限を持つことの適否を検討出来るような措置を取ること〔139次報告、パラ162〕は可能であった。提供された証拠によれば、近年意味のある状況の変化があった形跡はなく、これらの基本的問題に対する大綱の取り上げ方は、委員会にはいささか理解しがたい。したがって委員会は、改革の一部として法制度に改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう勧告する。
不当労働行為
649.委員会は相反する(公務員は民間部門と同様の保護を享受していないことを不当労働行為とみなすと明記している)提訴文と政府の意見の相違に留意する。委員会は、当件に関する法律と行為に関してさらなる情報提供を、政府、組合の双方に要請する。
協議プロセス
650.委員会はこの問題について、提訴人と政府の立場が全く相反するものであることに留意する。連合は、繰り返し労働基本権の制約を維持することに反対であると言明し、現行の代償措置に対する不満を表明してきたにもかかわらず、現行を維持するとした「大綱」に見られるようにその意見は全く入れられなかったと述べている。全労連および自治労連も同様の見解を述べている。政府は、最初の文書については労働者団体と協議する意図は全くなく、続く文書については実際に協議を行ったと述べている;公務員制度改革の枠組について27回14時間、「大綱」について77回66時間。「大綱」を労働者団体に提示するのが閣議決定の7日前になったのは、当局がこの重要な問題を検討するのに時間がかかったせいだと述べている。
651.委員会は、労働組合権に影響を及ぼすすべての問題および法制改革案について、全面的かつ率直な協議がなされることの重要性を強調してきた〔ダイジェスト、パラ927〕。特に、団体交渉と雇用条件に影響を及ぼす法案の導入に先立って全面的かつ詳細な協議を実施することの重要さについては、各国政府の注意をしばしば喚起してきた〔ダイジェスト、パラ930-931〕。加えて、政府自身が実質的もしくは間接的に使用者の役割を演じる場合の交渉構造の変更を意図する場合には、十分な協議プロセスを踏むことが極めて重要である。そのような協議は、善意に基づいて実施され、双方が決断を下すに必要な情報を持っているものであると含意されている〔ダイジェスト、パラ941〕。政府が認め、「大綱」の前文に記載されているごとく、計画中の公務員制度改革は徹底的なものである。したがって、50年来の、数多くの公務員に影響を及ぼす大規模な改革が実施されるに当たっては、意味のある協議が善意に基づいて実施されることは、なおさら重要であろう。提示された証拠および見解に基づき、委員会は、数多くの会議が持たれたにも係わらず、官公労(国および地方)の見解は聞き置かれ(listened)はしたが聴かれはしなかった(not heard)と結論せざるを得ない。すべての実用的な目的のため、政府は、現行システムは憲章と結社の自由原則に合致しており、基本権の制約は公務員の特殊な地位と義務に照らして適正であり、現行の代償措置は真っ当に機能しており、つまり、現状はうまくいっていると述べている。政府が、「大綱」を閣議決定の7日前に初めて労働者団体に提示したのは、当局がこの重要な問題を検討するのに時間がかかったせいだと述べている点については、委員会は、この問題は労働者団体にとっても同様に(より以上にではないにしても)重要であり、労働者団体も政府の提案を検証し対案を提起するのにより時間がかかったであろう点を指摘する。決定を下さねばならない時は至るということを認識しつつも、委員会は、この問題についてより広範な合意を得るという目的で、公務員制度改革の意義と内容について全面的で率直かつ意味のある協議が実施されることは、すべての関係者にとって、また公務部門における安定した調和的な職業関係の発展のために有益であると認識する。この状況において、法案が2003年末に国会に提出される予定であることを鑑み、委員会は政府に対し、関係するすべての団体と広範な協議を実施し、法案要綱を結社の自由原則に合致したものとするように強く勧告する。
以上