2月5日午後3時から、都内で第55回公務員制度調査会が開かれ、行政改革推進事務局から公務員制度改革大綱の説明を受け、それを巡って議論が行われた。
公制調は、行革推進事務局による公務員制度改革作業が開始されて以降、事実上その主体的な活動をストップし、行革推進事務局の基本文書に対する意見交換等に止まっている。また、公制調の下に設置された「労使関係のあり方検討グループ」は2001年6月に休会のやむなきに至っている。
この日の大綱を巡る審議では、冒頭行革推進事務局からの説明を受けた後、各委員が意見を開陳する形で進められた。
労働側を代表する形で志摩委員、丸山特別委員らは、@大綱の閣議決定に至る手続きに不備があり組合と十分交渉・協議が行われていないことA内閣や各府省の権限が拡大される一方で労働基本権の制約を現行のままとする結論は不当であることB霞ヶ関キャリアのためのお手盛り的改革案であること、などを鋭く指摘しつつ、いったん大綱を撤回し、広く国民的議論を行う場を設け、21世紀にふさわしい改革案をとりまとめるべきだ、と主張した。これに対して、行革推進事務局は、労働基本権のあり方の結論がでたのが遅く、交渉・協議のための時間がなかったことや石原大臣との交渉がセットできなかったことを認めつつ、@今後は組合との信頼関係を回復するための努力を行うことA今後の具体的な制度設計の過程で代償措置のあり方等を巡って十分交渉・協議する、と述べた。
大綱を巡る意見交換後、労使関係検討グループの菅野座長、山口座長代理から、この間の検討グループの審議経過に対する私的なとりまとめ報告(資料1)が行われた。これに対して、労使関係検討グループの労働側を代表する形で丸山特別委員が、審議経過に対する報告書(資料2)を提出し、大綱の労働基本権制約の結論を批判しつつ、@労働基本権を確立する方向で別途検討すべきであることA労使の意思疎通の促進については、今後、別途労使で協議する場を設け労使協議制等について検討すべきである、などの意見を述べた。
1997年に総理大臣の諮問機関として設置された公制調は、99年3月に答申を行い、その後労使関係制度のあり方等について検討グループをもうけて検討を継続してきたが、2000年12月の行革大綱の閣議決定以降は、主体的な活動を事実上ストップし、本年3月31日に法律による設置期限を迎えることとなる。公務員制度改革の作業が内閣官房で進められている状況の下で、その事務を所管する総務省人事・恩給局がその設置期限の延長等を言い出す状況にはなく、実質的には5日の会議、手続き的には3月31日をもって公制調は解散することとなる。
連合官公部門連絡会としては、公制調、労使関係検討グループの労働側委員の活躍に敬意を表しつつ、公務員制度改革を巡る情勢が大きく変化したことをふまえ、いっそう政府・行革推進事務局との闘いを強めることとしている。
資料1−労使関係検討グループ菅野座長等の審議経過のとりまとめ
公務員制度調査会 労使関係の在り方に関する検討グループの審議について
平成13年11月
菅野 和夫
山口 浩一郎
はじめに
公務員制度調査会 労使関係の在り方に関する検討グループは、平成10年7月の発足以来、我が国公務員の労使関係制度の在り方について検討してきたが、平成13年6月から後に述べる事情により休会のやむなきに至ったところである。そのため、その課題全てに、十分な議論が尽くされたとは言えないが、これまで約3年間20回にわたり公務員の今後の労使関係制度について、相当の論点の整理と議論を進めてきており、その経緯等を記録に留めることが必要かつ有益であると考え、座長及び座長代理個人として、これまでの議論をまとめ、公務員制度調査会会長に報告することとした。
1 審議の経過
公務員制度調査会 労使関係の在り方に関する検討グループ(以下、「本グループ」という。)は平成10年7月、公務員制度調査会会長の決定により、同調査会の下に、我が国国家公務員の労使関係制度の在り方について専門的に調査審議を行うため設置された。第1回会議から第5回会議において、公務員労使関係制度の問題の所在を把握するために、我が国及び諸外国の公務員労使関係制度等の比較・検討を行った。この間、公務員制度調査会から「公務員制度改革の基本方向に関する答申」が出されたので、以降これを踏まえ検討を行うこととした。続いて第6回会議から第13回会議まで、総論の議論として、国家公務員労使関係の現状評価や今後の公務員労使関係のあるべき姿等について、民間企業や各省庁等からのヒアリング等を踏まえつつ、整理しながら検討を行った。そして、第14回以降、それまでの議論を踏まえて検討項目を整理した上、各論の議論として、勤務条件決定制度や公務員の労使の意思疎通の在り方に関する議論等を中心に、今後のあるべき労使関係の構築に向けて検討を行ってきた。しかしながら、平成12年12月に行政改革大綱が決定され、本年1月以降内閣官房行政改革推進事務局を中心に白地から公務員制度改革について検討がなされるなど、状況が大きく変化し、本グループとしては、これまで積み重ねてきた検討を継続することが困難になったことから、平成13年6月5日の第20回会議における審議により休会としたものである。
2 検討の内容
(1)総論
我が国の公務員労使関係については、制度的にも実態的にもこれまで大きな変化を遂げてきたが、委員間において多少の違いはあるものの、対立的関係から安定的関係に変化したと評価することができ、戦後の対立的関係だった歴史のある一点を捉えて、労使のどちらか一方に責任があったという議論をするのではなく、今後の労使関係をどうするのかという未来志向の議論をすることとした。
そして、公務における労使関係の基本については、民間との比較を中心に検討を行い、公務員の労使関係は、民間と異なり、憲法15条に由来する全体の奉仕者性や職務の公共性からくる特殊な要素があるので、今後のあるべき公務員の労使関係を考えるに当たっては、国民の意識の変化や規制緩和、地方分権、情報公開といった公務や公務員を取り巻く状況についての変化に鑑み、公務員制度調査会答申に述べられた基本的な改革の方向を踏まえた上で、公務を円滑に遂行するとの観点、国民の理解と信頼を得るとの観点が重要であるとの認識を得た。
その上で、今後の労使関係の基本理念については、民間の労使協議制等を例にとりながら、労使の意思疎通の促進や国民の理解の獲得等について意見が交わされた。これについては、労使の意思疎通を促進することにより、行政サービスや行政効率の向上が図られ、これが国民の理解を深めることになること、今後の労使関係のあるべき姿がはっきりすることによって労使が共通の認識を持つことができ、それが行政改革などに労使が協力して取り組むことや国民の理解に結びつくことなどの考え方が示された。
加えて、労使の信頼関係を構築することが必要であり、そのためには、労使が共通の認識基盤を持つことが重要であるとの指摘がなされ、それは、国家公務員法の掲げる、公務の民主的、能率的運営というフィロソフィーであるべきであるとの意見が出された。
以上の議論を踏まえ、今後の公務員労使関係制度においては、公務の民主的かつ能率的な運用を図る観点から、労使の意思疎通を促進することが重要であって、そのためには、どのようなシステムを構築するのが適切であるかとの見地から、各論において個々の具体的問題について検討することになった。また、国民の理解・信頼を得るためには、透明性・解り易さが必要であることから、労使関係の情報公開についての検討も重要であるとの指摘もなされた。
(2)各論
ア)勤務条件決定制度
公務員の勤務条件の決定については、現行法上、給与や勤務時間を始めとする勤務条件全般を、法律又はその委任を受けた規則で定める勤務条件法定主義が採られる一方で、情勢適応の原則に基づき、人事院が勤務条件の変更を勧告する制度が採られている。このような現行制度については、人事院勧告制度が、現行の勤務条件法定主義の下、公正で中立的な第三者機関の判断として、それなりの役割を果たしてきたとの認識であった。
今後の勤務条件決定制度のあり方については、その課題や改善の要否といった視点から、勤務条件の詳細について決定する現行制度の是非と、勤務条件法定主義の下で成り立つ団体交渉制度を中心に、現業職員との比較も含めて議論が行われた。そして、現行制度を勤務条件詳細法定主義であるとし、基準事項のみを法律ないし規則で定め、詳細事項は労使交渉で定めることを基本とすべきであるとの主張がなされた。これに対しては、現行制度における実際上の課題や、上記主張に係る決定制度における交渉の意味内容が不明確であること、財政民主主義や職務の公共性、公務員の地位の特殊性からくる制約があること、諸外国においても、給与の原資を法定し配分を交渉で行う仕組みはないこと、などの指摘がなされた。
また、労使交渉の結果の合意された事項の取扱いに関しては、地方公務員法上の書面協定制度との比較において、国家公務員への同制度の適用の是非についても、議論が行われた。
イ)労使関係における意思疎通
労使関係における意思疎通については、民間や現業の労使協議制との比較を中心に議論が行われた。この中で、民間の労使協議制は、労使双方のフィロソフィーの共有が基盤となって発達してきたものであるから、公務でも労使の共通の認識基盤をどう考えるかが最も重要であり、その基盤ができれば信頼関係が構築され、コミュニケーションも図られるのではないかとの指摘がほぼ共通のものとしてなされた。また、民間における労使協議は、争議権に裏打ちされた団体交渉とは別に、生産性の向上を指導理念として労使が話し合いたい事項を取り扱う場として発展してきたことと比較すれば、公務の場合の労使の意思疎通の場は、勤務条件法定主義という大前提の下で制約された労使関係制度を補うという意味合いがあるのではないかとの意見が出された。
こうした意見を踏まえ、公務員の労使関係の基本理念や円滑な意思疎通を図る新たなシステムについて検討を行ったが、その基本理念については、職員の士気や職場の活力の向上という他に、行政サービスの向上を考えないと国民の納得は得られないのではないかとの指摘がなされた。
以上の考え方による公務員の労使関係における意思疎通の促進を図る新たなシステムの必要性については、ほぼ共通の理解が得られた。このシステムの在り方については、民間における現状も踏まえ、あくまでソフトな形のものがその導入や実際の運用を考えると適当であるとの意見が出された。また、民間においても時代の変遷を経て今日の姿があるとの指摘や、民間と公務の違いから共同決定を必要とする労使協議は採りえないといった意見も出された。
具体的な意思疎通の在り方については、結論をみるまでには至らなかったが、意思疎通を行う当事者のレベルの問題や、意思疎通の結果を明らかにするものとしての書面協定の制度化についても意見が交わされた。
ウ)職員団体制度
職員団体登録制度の在り方や、管理職員等の範囲、在籍専従制度の在り方などの論点が提起され、現行制度の評価や課題について意見が出された。
3 終わりに
最後に、個別紛争の増加と労使関係など、当初予定されながら、十分議論されていない論点も含め、議論を通じて感じた今後の労使関係を考えるに当たっての留意点について述べたい。
(1)労使の意思疎通の重要性
公務員労使関係制度は、公務の適正かつ効率的な運営に資するとともに、国民の理解・信頼を得られるものでなければならず、そのためには、労使の意思疎通が必要不可欠である。現在、内閣官房行政改革推進事務局を中心に公務員制度改革の検討が進められているが、新制度導入の際の労使の紛争を予防し、新しい公務員制度を円滑に機能させて、国民に対してより質の高い効率的な行政を展開するとの観点からも、労使の意思疎通は極めて重要であると言える。このため、新たな公務員制度を運営していくにあたっては、労使間の実質的な意思疎通を促進する仕組みが必要である。
なお、国民に対する透明性確保の観点から、労使間で合意が成立した事柄については、書面を作成することができるとし、その場合にはこれを情報公開によって開示することが検討に値する。
(2)苦情処理制度の充実
現在、民間における労使紛争の状況を鑑みると、個別の労使紛争が増加し、これへの対応が図られている状況にある。公務員の労使関係においても、民間と同様に、個別の労使紛争の処理は、今後ますますその重要性を増すと考えられる。
特に、現在進められている公務員制度改革においては、新たな評価制度の導入等が盛り込まれており、評価を巡っての多くの苦情、不満が出てくることが予想される。
このような個別の労使紛争に対応するため、苦情処理制度の充実が必要であり、まず、最もよく実情を知りうる各省庁において、整備される必要がある。
その上で、各省庁における苦情処理の結果に不服がある職員に対しては、人事院等第三者機関に対する不服申立制度を整備するなど、複線的できめ細かな対応が可能な仕組みを作る必要がある。
(3)当局の体制の整備
以上述べてきた公務員労使の意思疎通の促進や、苦情処理機能の充実を図るためには、当局側の体制を整備することが必要である。
労使の意思疎通の促進を図るためには、人事行政に携わる関係各省庁における連絡・連携体制の整備、窓口の整理が必要であるし、苦情処理制度の充実に当たっても、それを有効に機能させるためには、人材の育成等、物心両面において当局の体制を整備する必要がある。また、後者に関連しては、新たな評価システムを実施するに当たり、評価を行う管理者に対する教育や支援、評価全体の調整といった人事管理システムの整備、新たな制度の下での職員団体との適正な関係の維持等が大きな課題となり、各省庁それぞれにおける人事管理体制作り、政府全体としての調整や研修等を行う体制の整備が求められる。
資料2−丸山委員の労使関係検討グループの審議経過に対する意見
労使関係の在り方に関する検討グループの審議経過について
丸山 建藏
1.公務員制度調査会・労使関係の在り方に関する検討グループ(以下、「検討グループ」という)は、3年間にわたって精力的な審議を行ってきた。その中で、公務においても成熟した労使関係を築いていくことが重要であることが確認され、労使の意思疎通システムの改革方向・課題について一定の意見一致を見たことは有意義なことであった。
しかし、政府自らが、それまでの公務員制度調査会の答申等に基づく公務員制度改革を不十分と評価し、内閣官房(行政改革推進事務局)を中心として新たに始まった公務員制度改革の検討作業によって、2001年6月には「検討グループ」が休会を余儀なくされたことは、きわめて遺憾なことであった。
2.昨年12月25日に閣議決定された公務員制度改革大綱においては、内閣や各府省の人事管理権限を大幅に拡大・強化する一方で、労使関係や労働基本権のあり方について行政改革推進事務局が真剣な検証も、関係労働組合との十分な交渉・協議も行わないまま現行のまま労働基本権を制約するとしたことは、極めて不当なことであり、認めることができない。
こうした経過を見ても、政府・行政改革推進事務局には、公務に成熟した労使関係を構築する意思が全く欠如しているものと断ぜざるを得ない。
3.国民本位の行政を確立していく上で、公務員の働き方や暮らし方の基盤を形成する公務員制度を抜本的に改革していくことは極めて重要である。公務員制度改革の焦眉の課題は、公務員に対する国民からの厳しい批判に応え、特権的・閉鎖的といわれるシステムを民主的なものに抜本的に改革していくことであり、それを実現するためにはパートナーシップに基づく対等平等な労使関係と国際労働基準に沿った労働関係制度を構築していくことは不可欠の課題である。
そうした観点から、「検討グループ」で審議してきた諸課題についての到達点を振り返りながら、以下、若干のコメントを加えておきたい。
(1)公務員の勤務条件決定制度については、勤務条件法定主義に対する認識や交渉制度について検討が行われ、労使合意事項についての書面協定等についても議論が行われてきた。しかし、議論の枠組みが公務員制度改革大綱の閣議決定によって出発時点と大きく変化したもとでは、決定制度のあり方自体を根本から検討することが問われているものと考える。大綱が主張するように、人事院の権限を縮小し内閣や各府省の人事管理権限を強化し、新たな評価制度に基づいて能力・実績主義による処遇を行うのであれば、公務においても団体交渉(労働協約締結権を含む)に基づく決定制度を構築することは不可欠の課題である。今後、社会経済情勢の変化を反映して公務員の人事や勤務条件を巡る情勢はますます厳しくなるものと思われ、そうした情勢に的確に対応していくためにも公務における勤務条件決定制度の抜本的改革は重要な課題である。
また今後、人事院の代償機能がこれまで以上に弱まることが予想されることから、政府が労働基本権制約の立法政策を改め、労働基本権を確立する方向で検討することは当然のことと考える。
(2)労使の意思疎通システムを構築していく必要性が検討グループの意思として確認されたことは、評価したい。労使協議制等の具体的なシステムのあり方については、審議の過程でも主張してきたが、これまでの公務における労使関係の歴史や現状をふまえれば、それを実質的に機能させていくためにも法制化する方向で検討すべきものと考える。
この労使の意思疎通システムの確立は、新たな評価システムの検討にとっても不可欠の課題である。この視点を欠いた大綱の能力・実績主義的な人事制度の見直し案に対しては、われわれとして強く批判せざるを得ない。
この労使の意思疎通システムの検討とあわせ、各府省別の労働組合が参加する形の苦情処理システムを確立することを強く主張しておきたい。
(3)公務におけるそのほかの労働関係制度について十分な審議が行えなかったことは、きわめて残念である。@職員団体制度のあり方A労働組合の政治活動のあり方B労働組合活動を事由とした刑事罰、懲戒処分のあり方等は、労働基本権の中でももっとも根元的な団結権に関わる課題であり、是非とも喫緊の課題として別途検討を行うべきである。
3.以上みてきたように、「検討グループ」の審議経過には、その審議の基本的な枠組みが大きく変化したとはいえ、今日的な共通認識として確認すべき重要な事項を数多く含んでいる。重ねて強調するが、これらについては大綱には全く欠如している事柄であり、当検討グループとしての審議の到達段階として確認し、政府部内においてもこれらをふまえてさらに具体化に向けて検討すべきものと考える。
そのため、労使の意思疎通システムのあり方などについて、別途、労使の検討の場を設けて検討を継続することを政府に要望する。
以上