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労働基本権確立・公務員制度改革

対策本部ニュース

No.127 2003年1月24日

連合官公部門連絡会


衆議院予算委員会で公務員制度改革問題の本格的な論戦始まる
まず中塚議員(自由党)がILO勧告への政府見解質す
勧告の全面受け入れ要求に、政府は「中間報告」を楯に逃げの答弁

 1月23日、今年度の補正予算案を審議している衆議院予算委員会で、政府が進めている公務員制度改革の問題点が取り上げられた。質疑の第一陣に自由党の中塚一宏議員が立ち、小泉総理に対し、ILO勧告を受け入れ、速やかに「公務員制度改革大綱」を撤回して、与野党合意のもとに国民本位の公務員制度改革を実現するよう迫った。政府側は、「勧告はまだ中間報告で、最終報告に向けて、誤解を解く努力をする」などの答弁を繰り返し、明確な見解表明は避けた。
 なお、対策本部では、この日、「緊急傍聴行動」に取り組んだ。各構成組織から23人が参加し、衆議院議員面会所前の集会のあと、予算委員会を傍聴して質疑のもようを見守った。

 中塚議員は、まず、政府が閣議決定した「公務員制度改革大綱」に対し、連合・連合官公部門連絡会がILO結社の自由委員会に提訴し、昨年11月、ILO理事会が、政・労・使の全会一致で、「条約違反」の是正を求める勧告を採択したことについて、政府の見解を質した。
 これに対し、小泉総理は、「ILOの存在は重く受け止めるが、各国にはそれぞれ事情があり、日本の公務員制度については誤解されているので、これからよく説明していきたい」と答弁。坂口厚生労働大臣は、「勧告は中間報告で、まだ最終勧告でない。最終勧告の中身をつぶさに検討したい」として、見解表明を避けた。石原行革担当大臣は、「ILOの見解は従来と異なる点があるので、日本の実情をよく説明する必要がある。大綱に沿って法案改正作業を進め、骨子ができたらILOに情報提供して説明する」との考えを示した。さらに、片山総務大臣は、「中間報告は、それとして重く受け止めているが、今回の勧告は従来のILOの見解と変わってきている。消防職員や監獄職員の団結権や地方団体での地方公務員の登録制度の問題、あるいは、人事院の代償制の問題で以前とは見解が違ってきているので、日本政府の立場をきちんと説明していく必要がある」と答弁した。
 こうした見解表明に対し、中塚議員は、昨年末に3野党と連合による合同調査団に参加してILO事務当局に事情調査した結果を踏まえ、「中間報告は、まだ公務員制度改革が進行中であり、法律改正がなされていないという意味で、『中間報告』としたもので、今後もILO勧告の中身は変えようがない最終結論との説明を受けた」として、「中間報告」ということで、結論を先に延ばそうとしている政府側を追及し、ILO勧告の受け入れを強く求めた。また、「ILO勧告を踏まえ、組合ときちんと話し合う場を設定したらどうか」と質した。
 政府側は、「ILO勧告について関係各省と相談して対応したい。組合ともよく相談したい」(片山総務大臣)としたものの、「まだ中間報告とみている」(坂口厚生労働大臣)、「法案作成段階でILOに提示して日本政府の考えを十分説明したい」(石原行革担当大臣)と、それぞれ各省ごとにバラバラな答弁に終始した。

 民主・自由・社民の3野党は、この日の論戦を皮切りに、今後、来年度予算が審議される予算委員会の場で、さらに政府を追及し、ILO勧告を受け入れて、労働基本権を確立した公務員制度改革を行うよう強く求めていくことにしている。



【解説】 ILO勧告に対する有識者の意見

 専修大学法学部教授で日本労働法学会理事の毛塚勝利氏と 毎日新聞論説委員の山路憲夫氏に、今回のILO勧告の歴史的な意義と今後の課題について見解を記していただいた。
 この記事は、『農林新聞』第2072号(2002年12月5.15日合併号)より転載したものです。

新たな労使関係形成へ構想力発揮を

専修大学法学部教授 毛塚 勝利


 今回のILO結社の自由委員会報告は、極めて明快に現行公務員法制の問題を指摘し、かつ、現在の公務員制度改革の是正を求めた。しかも、消防職員と監獄職員に対する団結権の保障、労働組合の登録制度の見直し、組合専従の任期制限の撤廃、国の行政に直接関与しない公務員に対する団体交渉権とスト権の付与、団体交渉権とスト権の制約を受ける労働者に対する適切な代償措置、スト権の正当な行使に対する重い民事ないし刑事制裁が科されないようにする法改正等、具体的な論点を挙げている。極めて常識的な内容である。しかし、これが画期的に見えるのが日本の公務員法制である。
 全ての公務員にスト権を禁止し、交渉権を制限する硬直的な日本の公務員法制は、戦後の労働運動と冷戦構造の形成を背景にした占領政策転換の産物であった。その意味で極めて政治的色彩の強い法制であり、理性的な議論を戦わして生まれたものではない。全農林大法廷判決は、この労働基本権の全面的制限を、公務労働の特殊性論と勤務条件法定主義、そしてスト権の手段的権利の理解で正当化した。他方、労働組合も、スト権ストの敗北以降、労働基本権の回復を求めつつも、人事院勧告制度を中心にした現行秩序に安住してきたといってよい。
 戦後五〇年を経て、政治、経済、行政、司法と日本型システムの抜本的改革が進められ、公務員制度改革もその一環として登場した。しかし行革推進事務局は、抜本的な戦後システムの変革を標榜しながら、こと公務員法制については戦後体制の清算をするどころか、それを糊塗しながら改革を接木しようとしている。しかし、公務の効率性も透明性も労使関係の構築なくしてはありえない。何よりも勤務条件法定主義の美名に隠れた使用者責任の回避こそが公務の現状をもたらしたものだからである。
 今回の勧告が求めているのは、戦後体制の清算であり、正面から公務員労使関係のあり方を問うなかで公務員制度改革を行うことである。スト権や団体交渉権は、単に生存権のための手段的権利ではない。労働者が労働条件形成や労働生活の有り様に積極的に発言・関与していく権利でもある。労働組合もまた、労働基本権の今日的意義を再確認し、自ら、どのような交渉システムを構築していくのか積極的にその構想力を示していることが求められている。

政府は「ILO勧告」に耳を傾けよ

毎日新聞論説委員 山路 憲夫


 政府が今、進めようとしている公務員制度改革は致命的な欠陥を持つ。国際労働基準から見ても「欠陥商品」であることが、国際労働機関(ILO)が日本政府に示した「勧告」でも、その欠陥が浮き彫りにされた。
 「勧告」は昨年末に政府が閣議決定した「公務員制度改革大綱」の経過、内容をくわしく検討した結果、公務員改革の内容や進め方を批判、国際労働基準に違反する疑いが強いとして見直しを求めたものだ。
 「勧告」は公務員制度の問題点を正確に捉えており、なかなか説得力に富む。
 手続き上の問題として、「官公労の見解は聞き置かれはしたが、聴かれはしなかった」と断じた。確かに労組からのヒアリングを受けたが、合意作りの努力をした形跡はない。
 最大の問題である労働基本権をこれまで通り制限するとした政府方針について「勧告」は再検討するよう求めた。当然と考える。
 憲法は働く人々に労働基本権を認めた。公務員だけには労働基本権のうち、労働条件を労使交渉で決める団体交渉権を制限し、スト権を禁止し、その代わりに、賃金や給与のランク付け(級別定数)などを決める人事院制度が設けられた。
 ところが今回の「改革」は「能力主義」という名の下に、人事院の権限をできるだけ縮小し、各省庁や大臣の裁量、権限を大幅に認める。賃金もできるだけ柔軟に各省庁の裁量にまかせるとする。
 労働基本権を制約する代償措置である人事院制度を骨抜きにしようというのは、労働基本権を保障した憲法やILO条約に違反する疑いがきわめて強いというべきだ。
 「勧告」が指摘するように、人事院制度を大幅に縮小するというなら、公務員にも労働基本権を与えるべきなのだ。
 「勧告」は「世界の常識」に沿った正論だが、政府は「わが国の実情を十分に理解した判断とは言えない。内容を決めるのは国内問題だ」との見解を出した。「勧告」の説得力に比べ、なんと説得力の弱いことよ。
 日本は常任理事国であり、四六のILO条約を批准、中心的な役割を果たしてきた。ILOの基本的原則を受け入れたからこそ加盟したはずであり、ILOの主張に根拠があれば、尊重する義務を負うのは当然だ。
 国際労働基準を守るのは、グローバル化で国際市場での行き過ぎた競争に歯止めをかけるという意味でも、重要だ。
 「国のかたち」を決める公務員改革は独善であってはならない。今回のILO勧告を貴重な提言と受け止め、国会で仕切り直しの論議を始めるべきだ。

以上