ILO第287回理事会は、6月20日(現地時間)、日本の公務員制度改革問題(2177号案件)に関する「結社の自由委員会第331次報告」を採択した。今回の勧告では、日本政府に対し、公務員の労働基本権制約維持を決めた「公務員制度改革大綱」の再検討など、昨年11月の勧告で、結社の自由の原則に則り指摘した事項について、その実施を「再度強く要請」している。
日本案件は、ILO結社の自由委員会で、5月30日と6月6日に審査され、委員会の「報告」として取りまとめられて、理事会に諮られた。
今回、結社の自由委員会で日本案件が審査されたのは、@勧告が「中間報告」という性格から、事案が進行中のため、いつでも審査できる状況にあったこと、A日本政府が3月31日に追加情報を提供していること、BICFTU(国際自由労連)などからの強い支援があったこと、などによる。
政府は、昨年11月21日のILO勧告を「中間報告」として、受け入れる考えを示さず、3月31日の「政府追加情報」でも、従来の見解を繰り返し述べるにとどまり、「ILOの理解」を求めていた。再勧告は、こうした日本政府の主張をことごとく退け、さらに強い調子で、勧告内容の実施を求めている。
対策本部は、6月21日、「公務員制度改革に関するILOの再勧告について」(別紙1)と題する見解を取りまとめた。
なお、ILO理事会で採択された「結社の自由委員会第331次報告」の「結論」部分(別紙2)を掲載しておくので参照されたい。
(別紙1)
2003年6月21日
公務員制度改革に関するILO6.20勧告について
−政府は再勧告を直ちに受入れ、結社の自由の原則に則り労働基本権を確立せよ−
連合官公部門連絡会
労働基本権確立・公務員制度改革対策本部
1.ILO理事会は、6月20日(現地時間)、日本の公務員制度改革案件(2177号案件)に対する「結社の自由委員会第331次報告」を採択した。この報告では、昨年11月21日の勧告内容の実現を再度強く求めている。
2.政府は、昨年のILO勧告はあくまで「中間報告」であると主張し、3月31日には、「日本の実情への誤解がある」等として、従来の見解を繰り返した「政府追加情報」をILOに提出し、理解を求めていた。
今次勧告は、こうした日本政府の主張に対し、改めて勧告内容の実施を求めたものである。政府は、もはや、「中間報告」や「特殊事情」を口実に、今次制度改革から公務員の労働基本権問題を切り離し先送りすることはできないことを認識すべきである。
3.石原行革担当大臣は、5月27日の笹森連合会長と小泉首相との政労会見の合意を踏まえ、公務員制度改革に関する「協議の場」の設置について、前向きに検討する考えを示した。
再勧告は、「労働組合との全面的で率直かつ有意義な協議の重要性」について、「政府に再度注意を喚起」している。こうした指摘を踏まえ、政府は勧告内容の実現に向けて真摯に努力すべきである。
4.われわれは、労働基本権を制約した公務員制度改革関連法案の延長国会への提出を、絶対に認めることはできない。3野党と連携し、連合とともに、政府に対しILO再勧告の受入れを強く求める。いまこそ、国際労働基準である働く者の労働基本権を確立した透明で民主的な公務員制度改革を実現するため、全力をあげる。
(別紙2)
「ILO結社の自由委員会第331次報告」
D.委員会の結論 (連合仮訳)
547.この案件は日本で現在進められている公務員制度改革の内容と手続きの双方に関するものである。委員会は、提訴組合と政府から追加情報を受け取った。そのほとんどはこれまでの情報の繰り返しであった。一方改正案の法文は国会に提出されようとしているにもかかわらず、委員会に届けられていない。したがって委員会は、当該法文を参照することなく、これまで提出されている情報にのみ基づいて検討を行う。政府に対し修正法の法文を提出するよう要請する。
548.案件の内容を審査する前に委員会は労働条件と結社の自由の促進についてILOが取り扱う事項は、主権国家の内政に干渉するものであると見なされてはならないことを想起する。なぜならば、このような問題はILOが加盟各国から委託を受けて行う任務の範疇に含まれており、各国はそれぞれがその目標に向けて協力することを言明しているのである。
消防職員と監獄職員の団結権
549.前回の審査で委員会は、この問題に対するこれまでの見解を想起した(第329次報告パラ633、勧告652(b)(i))。専門家委員会はその後再び2003年レポートでとった立場を確認している(P271・272)。政府の見解には何ら新しい要素はなく、様々なフォーラムで数々の議論がなされたにも関わらず、全く何の進展も見られていないことを深く遺憾とする。87号条約の唯一の例外は軍隊と警察のみであり、委員会は再度政府に対し消防職員・監獄職員に団結権を与えるよう主張する。この件に関する進展を今後も委員会に報告するよう求める。
専従組合役員の任期
550.委員会は、公務員団体が自ら専従組合役員の任期を定められるようにすべしと政府に要請した。政府の回答には、官公部門の方が民間よりもこの件については恵まれている、また専門家委員会は1994年の報告でこの件は条約第1条に該当しないとしている、とある。委員会は、これは官民の比較の問題ではなく、現在の制約が結社の自由の原則に合致しているかどうかの問題であること、また、94年報告での見解は87号条約ではなく98号条約に関するものであり、ここで問題となっているのは87号条約の「 労働者団体が完全に自由に代表を選ぶ権利」であることを強調する。したがって委員会は前回のコメント(329 次報告パラ633)を参照し、政府に対し専従組合役員の任期を労働者団体が自ら決められるように法改正することを再度要請する。
管理職の除外の範囲
551.委員会はこの件に関する一般コメント及び大宇陀町裁判についての情報に留意する。大宇陀町裁判では組合登録取り消しが無効とされたようであり、委員会はこの判決及びこうしたケースで通常適用される法・慣習は原則に合致しているものと信ずる。最終判決が出された折りにはこれを提出するよう要請する。
IAI(独立行政法人)に移管された職員
552.委員会はこの政策や政府が行革実施を決めたことについてコメントする権限はないものの、行革を進める上で政府が結社の自由の原則を犯していないかどうか、公務員に団結権と団体交渉権が認められているかどうかを審査する権限はあることを指摘する(329次報告パラ648)。委員会は、政府・提訴団体からの追加情報に留意した。委員会は、提訴団体は移管によって組合員が混合状態となり労組の再編を余儀なくされる事実(そして将来そのようにする)に異議を申し立てていることに留意する。そしてこれは団結権侵害であると申し立てている。委員会としては行革に伴って労組が再編を迫られることは間違いないが、現在独立行政法人(特定及び非特定)に雇用されている者には団結権があることに留意する。特定IAIで公務員に留まるか、非特定で公務員身分を失い労組法対象の労働者になるかに関わらず、団結権はある。しかしながら委員会は政府におよび提訴団体に対し、この再編が従業員の団体交渉権にどのような影響を与えるのかを示すよう要請する。
公務員の団体交渉権・団体協約締結権
553.これについて委員会は、未だ省庁及び類似の機関に雇用されているかすでにIAIに移管されたかに関わらず適用される原則を想起する。団体交渉権は官民問わず全部門で認められるべき権利であり、例外は軍隊、警察、国家行政に携わる公務員のみである(パラ643)。正当な理由によりこれら権利を認められていない者は、全面的な権利保護が可能となるような適切な保障を受けるべきであり、その保障は関係者全てが信頼できるものでなければならない(パラ648)。提訴団体は最初の申立及びその後の追加情報でも、人事院制度は適切な代償措置として労働者団体の信頼を得ているものではないと繰り返し批判している。委員会は政府が、全ての地方政府が人事委員会の勧告に則って賃金の改定を行ってきたわけではないと述べていることに留意する。よって委員会は前回のコメントを参照し、公務員の団体交渉権・協約締結権を認めるよう、また正当な理由でこれを認めない場合には適切な代償措置を講ずるようにという原則に見合った方に改正するよう要請する。
スト権と罰則
554.委員会は、公務員も民間同様にスト権を享受すべきことを想起する。例外として認めうるのは、軍隊、警察、国家の名において権限を行使する公務員。あるいは国家の緊急事態。スト権が奪われまたは制約されている場合は、適切な代償措置を与えられるべき。加えて、適切なやり方でストを行ったが為に労働者や組合役員が処罰されることがあってはならない。したがって委員会は、前回のコメント(パラ641)に言及する。政府が、過去20年間、ストを理由とした公務員の投獄は1件もないと述べていることに留意しつつ、委員会は、そのような場合に罰金等の他の制裁が科されるのかどうかを示すよう要請する。また政府に対して改正法がこれら原則に合致したものになるよう保障することを求める。
地方公共団体における職員団体登録
555.委員会は前回もこのケースを審査しコメントした(329次報告パラ635)。その際前々回に下した決定に言及しており、その前々回の決定自体が実情調査調停委員会のコメントを参照したものであった。提訴団体は実質的に労組を分断している登録制度が問題の核心であるとの主張を維持している。一方政府は地方公務員には自治体の枠を越えて団結することが許されているし、連合や総連合に加入できるとの従来の主張を繰り返している。こうした状況で委員会にできるのは、労組の過度の細分化は労組を弱体化し、労働者の権利を守る活動を弱めるものであることを想起して、公務員が自らの選択で組織を結成できるよう法改正することを勧告することのみである。
不当労働行為の救済措置
556.委員会は、政府及び提訴団体から提出された情報に留意する。有明町を例に取ると、現業労働者(ブルーカラー)と非現業労働者(ホワイトカラー)の間に差別的処置がとられているように見受けられる。適用される法律が異なるためである。政府は、あらゆる状況に対応できる救済措置が適切にとられているとする一方で、有明町のケースには言及していない。この件について政府の見解を求める。
協議プロセス
557.委員会は、政府及び提訴側から提出された情報に留意する。そしてこの問題に関して両者の主張が全く相容れないものであることを再度認めざるを得ない。実際会合は持たれたが、政府の立場は微塵も変わっていない。よって委員会は前回の幅広いコメントを参照し(パラ651)、労働組合と全面的で率直かつ有意義な協議を行うことの重要性を政府に対し再度注意を喚起しなければならない。将来にわたり多くの公務員に影響を及ぼす今回のようなケースではなおさらである。この問題に関連して委員会は政府に対し、交渉事項の範囲についての労働組合との対話の進展状況を報告するよう求めた(勧告652(a)(g))。しかし何らの情報も届いていない。委員会は再度関係者に対し、87号および98号条約に述べられる結社の自由の原則に合致した合意が得られるよう努力すること、および進展を通知するよう要請する。
委員会の勧告
558.前述の中間的な結論を踏まえ、委員会は理事会に対し次の勧告を承認するよう求める。
(a)委員会は政府に対し、公務員の基本的権利に対する現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直すよう再度強く要請する。
(b)委員会は再度関係者に対し、公務員制度改革について、および日本がすでに批准している87号および98号条約に述べられる結社の自由の原則に則った法改正について早急に合意が得られるよう努力すること、および進展を通知するよう再度強く要請する。合意はとりわけ、次の諸点についてなされるべきである。
(i) 消防職員及び監獄職員に団結権を保障すること。
(ii) 地方公務員が登録制度実施の結果として過度の細分化を被ることなく、自ら選択する組織を結成できるよう保障すること。
(iii) 職員団体がその専従役員の任期を自ら定められるようにすること。
(C) 公務員が団体交渉権と労働協約締結権を取得し、又、それらの権利が正当な理由により奪われている公務員が適切な代償措置を享受できるよう保障すること。それらの措置は完全に結社の自由原則に合致するものでなければならない。
(D) 結社の自由の原則に則って公務員にスト権を付与し、この権利を正当に行使する労働組合の組合員及び役員が重い民事罰又は刑事罰の対象とならないことを保障すること。
(c)委員会は政府に対し、公務における交渉事項の範囲について関係労働組合と有意義な対話を行うよう要請する。
(d)委員会は政府に対し、かつてストに訴えた公務員が罰金等、投獄以外の処罰に処されたのかどうか知らせるよう要請する。
(e)委員会は政府に対し、公務員の労使関係制度を改正する全ての法案の法文を委員会に提供するよう要請する。
(f)委員会は政府に対し、大宇陀町裁判の最終判決が下された暁にはそれを委員会に提供するよう要請する。
(g)委員会は政府に対し、有明町案件における不当労働行為の差別的処置に対する申し立てについて、委員会にコメントを提供するよう要請する。
(h)委員会は政府及び提訴団体に対し、再編によって独立行政法人(IAI)へ移管された職員の団体交渉権がどのような影響を受けたのか情報を提供するよう要請する。
(i)委員会は政府に対し、上記すべての事項の進展について、委員会に情報提供を続けるよう要請する。
(j)委員会は政府に対し、この件についてILOの技術的支援が利用できることに注意を喚起する。
※訳注:558(b)(C)中「それらの権利が正当な理由により奪われている」とは、特定カテゴリの労働者の労働基本権がILOの結社の自由の原則が認める理由によって制約されていることを指す。
以上